第2-24話 決戦前夜
(祐輔)
今日は本戦が始まる1週間前なので、夏の大会に向けた合宿が始まる日である。
部屋は大部屋で4人部屋が5室用意されている。
1年でベンチ入りは、松原、田村とキャッチャーの森山で、俺を混ぜると4人もベンチ入りを果たした事になる。
この4人が同室で都大会が終わるまで一緒に過ごす事となる。
今日は練習が無く、入寮の準備に取り掛かったが、授業が終わってからの入寮なので、19時くらいまで掛かってしまった。
夕食は、マネージャーや寮母さんが手伝ってくれる。
夕食は寮生活を送っている生徒は、合宿所で一緒に食べる事になっている。
そして夕食
松原「今日の試合、心城学園は7ー6だって?ヤケにギリギリの勝利だな」
「アイツは最後の1回を投げただけで、他の投手が6点取られたんだって。それと近藤と耕太はホームランを打ったみたいだよ。」
「そうか、俺達も早く試合がしたいな。もう待ち切れない」
稲川実業の初戦は7月16日であり、勝利の彼女の手術日だ。
松原「3回戦の後、小野は投げないんだって?」
「うん。アイツの好きな人の手術日なんだよ」
それを聞いていた田村が話に加わってくる。
「彼女が手術で試合を休むの?」
「うん。骨髄移植で適合したとか言ってたよ。」
「へえ〜、でも心城学園なんて無名高校は、俺達に関係無いでしょ」
すると松原が
「でも凄い投手が居るんだよ。俺もこの前は完敗だった。」
田村が驚いて、聞いてくる
「どんな投手なんだよ?」
すると遠い場所で聞き耳を立てていた黒川さんが近づいてきて
「アンダースローで、物凄く球が速いんだよ。プロのアンダースローの投手より速いかも知れない」
田村がそれを聞いて、
「アンダースローで俺より凄い投手なんか聞いた事が無いよ。それに球が速ければいいってもんでもないしね。
なあ大野」
それは俺の事を言ってるのか?
ただ、相手にしても何の得も無いので、軽く受け流した。
「まあそうだな。」
そして食事を食べ終えて席を経った。
とにかく俺達は1週間後の試合に集中するだけだ。
食事が終わり、各部屋に戻る。
松原はいつもの様に、食後の素振りをする為、外に出て行った。森山も松原を追う様に外へ出て行く。
田村と二人で居るのは嫌だな
嫌な予感は当たった。田村が話し掛けてくる。
「なあ大野?お前彼女が居るんだろ?」
いきなり恋話かよ
「あ〜居るよ」
「可愛いのか?」
あまり、この手の話は好きでは無いんだが、無視する訳にはいかず思ったまま伝える
「まあ、可愛い方だと思うよ」
「そうか、1年のマネージャーの吉川さんって、どう思う?」
野球部のマネージャーは、3年が2人、2年が3人、1年が3人いる。
4月には5人が入部したが、結局3人が残った。あまり美人だとか、ブスだとか評価するのは好きでは無いが、明らかに田村が言っていた吉川さんが一番美人だとは思う。田村にそのまま伝えると、この話題が継続しそうなので、関心が無さそうに返事をした。
「まあ、いいと思うよ」
思惑は外れて、田村は自分の想いを話続けた。
「アイツを俺の彼女にしようと思うんだけど、どうかな?」
「恋愛は自由だから、人に聞く事では無いだろ」
「実は吉川はお前の事を好きみたいなんだよ。そこでお願いがあるんだ。
お前に告ってきて、彼女を振ったら教えてくれよ。」
?
「何で?」
不敵な笑みを浮かべて
「目的を失った子は、手に入れやすいからな」
そんな事を考えていたのか?何て自分勝手で、傲慢な奴だ
「そんな事に協力出来ない。」
「ふ〜ん、まあいいや。吉川の態度を見れば分かる事だ」
不敵な笑みを浮かべた。
やはりコイツとは心が通じ合う事は無いだろうと、確信したのであった。
(莉乃)
一方、入院して骨髄移植に備えて抗がん剤治療が行われている。
勝利の試合結果は、試合が終わってすぐにメールで伝えられる。
抗癌剤治療は正直言って辛いが、最初の入院みたく夢も希望も消え失せてしまった苦しい治療とは違い、今回は希望に包まれていて、同じ治療でも心が折れる事無く、立ち向かう気力が勝っている。
それもこれも勝利のおかげである。
勝利は大丈夫だと言っていたけど、やはり野球の試合が気になる。
早く勝利の試合を観に行きたいなあ
その為にも頑張らなくちゃ
そして明日も厳しい治療は続くのであった。
7月14日
勝利からメールが送られて来た。
「明日の試合に勝って、午後から入院するね。もう少しで莉乃の笑顔が見れるのを本当に楽しみにしてるからね」
いつもいつも勝利の言葉に勇気をもらう。
「ありがとう。勝利に最高の笑顔を見せれる様に頑張るからね。
試合は大丈夫?」
すると
「大丈夫だよ」
と一言返信が来た。
ただ、彩香からギリギリ勝ったと聞いていたので、勝利が試合に出れない2つの試合は、大丈夫なのか心配だ。でも大丈夫と言っている勝利に聞くのもどうかと考える。
そんな事を考えていると、勝利から追加のメールが届いた。
「この前の試合が終わって、先輩が耕太から投げ方を教わって、凄く変わったんだ。それアドバイスを受ける様になってから、今までとは明らかに練習に取り組む姿勢も変わって、物凄く真剣に取り組んでる。怖い先輩だけど、何だか気持ちが一つになった気がする。
だから絶対に明日の試合を絶対に勝たないといけない、思いっ切りプレッシャーです」
そうか
良かった。
「じゃあ明日の試合頑張ってね。甲子園に行く時には、私ももしかしたら行けるかな」
明日は勝利と会えるかな?
しばらくすると詩音からLINEが入る。
詩音からLINEなんて珍しい。
「ねえ教えて、莉乃が男を好きになった時、どんな感じだった?」
えっ本当に詩音?
詩音が男性を好きになる事は意外であった。何故なら日常生活で男性と接する機会が極端に少ないからである。
「胸が苦しくなると言うか、常にその人の事を思い出しちゃう感じかな」
「後は?」
他に聞いてくると言う事は、詩音の気持ちと違うのかな?
「胸がドキドキしたり、今すぐ会いたくなったり、寂しい時は異常に会いたくなったりするかも」
すると
「全部、今の私と一緒だ。私、恋したのかも」
えっ
本当なの
誰と?
「詩音をそんな気持ちにさせたのは誰?」
「心城学園のキャッチャー」
えっ
確かその人は、奈緒ちゃんの事を好きな人だ。
どうしよう?
でも初めて男性に恋心を抱いた詩音を応援したいし・・・
ただ今は、思っている事だけを書き込んだ
「そっか、詩音が男性に興味を持つなんて、何か嬉しいよ」
「本当?じゃあ退院したら、色々教えてね。
話せて良かった。
じゃあ明日頑張ってね。莉乃の代わりに心城学園の応援してくるから」
明日は平日なのに行くんだ
恋を実らせてあげたいけど、キャッチャーの耕太君は勝利の友達だし、迷っちゃうな
退院したら勝利に相談しよう




