第8話 救出
集合場所に着いたが、どうもお腹の調子が悪い。
ヤバイかな?
集合場所に人が集まり始めてきていたが始まってから抜け出すより、今トイレに行っておいた方が良いと思い管理棟横のトイレに駆け込んだ。
しかし、こんな時に限ってトイレが空いてない。
他のエリアのトイレに移動したいが、激しく動くと我慢できなくなりそうだったので、管理棟横のトイレが空くのを待つ事にした。
その頃、莉乃の圭子は二人で集合場所に着いて、肝試しの説明を聞いていた
肝試しのルールは、至って簡単だ。
登山道入口から1本道を通って行くと、分岐点がある。
その分岐点と書かれた看板に石を置いて下に戻って来る。
分岐点をそのまま真っ直ぐ進むと登山コース、右に曲がる道は、通って来た道と別の下に降りる道となっている。
みんなは分岐点を右に曲がる事になる。
そして右に曲がると、下り坂を歩いて、ゴールになる。
ゴール地点は、みんなが出発する登山道入口から200mぐらい横に降りた所になっている。
驚かす役は、入って4、50mの所に、お化けに変装した圭子さん
分岐点の少し下で、吊るしたコンニャクを顔に当てる役が私で、分岐点で石を置いたのを確認してから、「助けて」と女性の声を録音したテープを流すのが、アイツだ。
そして下ってすぐに大野さんが、近づいた人に大声で驚かせる。
そして、ゴール間際に「のっぺら坊」のお面を被った父が驚かせて、ゴールとなる。
もうアイツは配置場所に着いているだろうから緩やかな坂道を走って向かう。
山道は真っ暗で、何処を歩いているのか分からない。ただし1本道で分岐点の所には灯りが点いているので分岐点の灯りを目指した。
前方に分岐点の看板が見えてきた。
あれ?
アイツの姿が見えない。
「アンタ何処に居るのよ!」
小さい声で呼ぶが返事が無い
すると山頂まで続く登山コースの方で物音が聞こえた。
ザッ!
?
なんの音?
「どうしたの?なんかあったの?」
音がした方面に少し大きな声で呼んでみるが返事が帰って来ない。
まったく!
そろそろ肝試しが始まる頃なのに
ザッ!バキッ!
何?
なんかあったの?
ちょっと心配になってきた。
もしかしたら、何処かに落ちて声が出せない状況なのかも
まったくもお!
私は分岐点の灯りが見えるのを確認しながら、分岐点を真っ直ぐ進み、登山コースに入っていった。
もうギリギリ分岐点の灯りが見える所まできたのだが、アイツの姿は見えない。
もうこれ以上は行けないわ。
戻って誰かを呼びに行こうと思った瞬間。
近くで音がする。
道の進行方向の横から音は聞こえた。
よくは見えないが緩やかな崖である。
「誰?」
横に大きな木が立っていたので、木に捕まりながら奥を覗き込む
すると黒い物体が私に向かって、突っ込んでくる。
段々と物体が近づいてくる
何?なんなの!
「キャー!」
大声で叫ぶ。
慌てて道に戻ろうと体を反転しようとした時に、足が木の根に引っかかり転んでしまった。
私は、目線をさっきの物体に向ける。
まだこっちの方に走って来る。
「キャー!」
私は頭を抱え、体を縮こませながら
「誰か〜助けて!」
***
肝試しが始まる少し前に、長い長いトイレが終わった勝利は集合場所に辿り着く。
もう肝試しが始まる寸前であった。
やばい、急がないと
分岐点にある電灯を目指した。
分岐点に着いたが、社長の娘がいない
?
「キャー」
?
あれ?登山道の上の方から叫び声が聞こえた。
社長の娘が誰かに襲われている?
僕は、そんな事を思いながら、武器になりそうな物を探す
細い木の枝はいっぱいあるが、木刀の様に適度な大きさの木が見つからない
しょうがない
足元にあった野球の球ぐらいの大きさの石を見つけ、それを持って叫び声のした場所に走る。
「誰か〜助けて!」
すぐ近くから声がした。
目を凝らして辺りを見回すと、木の下でうずくまっている社長の娘の姿が見えた。
その前方から鹿が突っ込んで来るのが見えた。
僕は振りかぶり、鹿の顔面を目掛けて石を投げた。
ゴツン!
あっ当たった!
鹿は驚いて逃げて行く。
うずくまっている社長の娘の所に行って声を掛けると、社長の娘が僕の胸に飛び込んできて、震えながら泣き出した。
少し胸を貸していると、下から悲鳴が聞こえて来た。
僕は、恐怖で震えている彼女を冗談で落ち着かせようと考える
「あっ!今の悲鳴。君の悲鳴に似てたよ」
すると胸から彼女の顔が離れる
そして僕を睨む
次の瞬間、彼女の手が僕の頬に向かって飛んできた。
ビシッ!
痛!
すかさず彼女が
「アンタがいなかったから、心配してこんなとこまで来たんだからね。ふざけないでよ!
私、テントに戻るから、アンタが一人で驚かす役をやってね!」
彼女は怒りながらこの場を離れていった。
?
僕を心配して、こんな所まで来ていたんだ。
そうであれば、さっきの言葉は非常識であり、彼女が怒るのは当然だと思った。
取り敢えず分岐点まで降りて行く。
すると肝試しに参加している男女二人が、こっちに向かって歩いて来るのが見えた。
僕は身を隠し、用意されているカセットテープをまわす準備をする。
彼氏だろうか、男性が石を置いたのを確認した僕は、テープを流す
「助けて〜」
すると女性が悲鳴をあげる。
「キャー」
彼女はその場にうずくまり、彼氏が手を貸して、彼女を立たせた。
僕はその一連の行動を見て、人の仕業と分かっていて、悲鳴をあげるのと、さっきの彼女の悲鳴は明らかに違う事に気付いた。
彼女の悲鳴は、自分の命の危機を感じて発した悲鳴だったのだろう。
そんな危険な思いをさせてしまった事と、不適切な発言をした自分を恥じた。
とにかく謝ろう!
そう思った僕は、分岐点を離れて入口に向かって走って行く。途中でお化け姿の母を見かけたので
「母さん、テントに戻るね。」
「どうしたの?」
「彼女に悪い事しちゃって、謝ってくる。」
「分かったわ。早く行きなさい!」
また走り出す。
「勝利、頑張ってね」
後ろから大きな声で、僕に向かって叫ぶ母の声が聞こえた。
頑張るって何を?