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夢を叶えろ!  作者: 鈴月桜
第2章 高校1年夏
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第2-15話 松原と勝利

6月4日(水曜日)


いつもの様に授業が終わり、グラウンドで練習を行なっている。

今日は監督も来れないので、キャプテンが練習を指揮ってメニューをこなす。監督が来ない日は、決まって打撃練習が中心になるので、近藤がいつも以上に張り切っているのが分かる。

そして通常のトスバッティングまで終えると、近藤がキャプテンに

「バッティング練習ですよね」

と嬉しそうな顔をして催促する。

もうキャプテンの川田さんも、いつもの事なので

「そうだよ。じゃあ今日はフリーバッティングをして、終わったらシートバッティングにするか?」

「やったー」

とまるで子供が野球で遊んでいる時の様にはしゃいでいた。


フリーバッティングは、ただ撃つだけの練習で、シートバッティングは、レギュラー陣が試合形式で順番に打っていく。

まるっきり試合と同じ形式を取る場合もあるが、監督がいない時に行うシートバッティングは、一応イニングのカウントはするが、3アウト関係なく打順が進んでいく。

例えば、ランナー2塁で3アウトになった場合、ノーアウト2塁からゲームが進められる。


川田「シートバッティングは安川5回、小野が5回投げてくれ」


そしてフリーバッティングへと準備を進めているが、僕と安川さんは投球練習を始めた。


フリーバッティングが始まると奈緒が近づいて来た。

奈緒「珍しいお客さんが来てるわよ」

「えっ俺に?」

「うん、勝利と耕太に」

すると驚かせようとしていたのか、部室の陰から祐輔が現れて、こっちに歩いて来た。

祐輔「よう!」

「何だ祐輔か」

「それはひどいんじゃないか!せっかく八王子からここまで来たのに」

「で、何?」

「実は勝利の話をしたら、見てみたいって言うから、連れて来ちゃったんだよ。」

と言いながら一人一人紹介する

「え〜と、この人が黒川さん、そしてこの人が伊藤さん、でっこいつは分かるよな」

「いくらなんでも、初対面の人を分かるわけないだろ」

「お前なあ、少しは相手選手の事ぐらい覚えろよ!こいつは松原」

と一緒に来ていた3人を紹介した。


するとグラウンドが騒がしい。

祐輔「多分、松原が来てるから騒がしいんだよ。お前以外は皆んな知ってる選手だからな」

「ヘェ〜そうなんだ」

「耕太が受けてるんじゃあ無いのか?」

とキャッチャーを見て話し掛ける。

「うん。今日はこの後シートバッティングで投げるから、耕太は打者で参加するから、2年生のキャッチャーに受けてもらってるんだ。」

「というか、取れる球を投げているんだろ!」

「そんな事無いよ。」

さすが祐輔は鋭い。

「じゃあ思いっきり投げてみろよ!」

「分かった。」

4人の前で8分程の力で投げ込んだ。

祐輔以外は

「おー凄いな。」

「本当に速いな」

等の評価をもらい、ちょっと嬉しかった。

祐輔が大きな声でバッティング練習をしている耕太に向かって

「耕太!ちょっと来てくれ!」


バッティング練習をしていた耕太が、

「あと3本打ったら行くから待ってろよ」

と言って3本打った後にこっちに向かって来た。

耕太「何だよ。この頃守備練習ばかりで、せっかくの打撃練習なんだぞ!」

祐輔「ちょっと勝利の球を受けてくれないか?今日は勝利の球を見せに来たのに、あれじゃあ連れてきた意味が無い」

耕太「しょうがないなあ。」

と言いながら2年生のキャッチャーと変わった。


祐輔「じゃあ全力で投げろ」


まったくしょうがない


僕は全力でミットを目掛けて投げ込んだ。


ズバッ!


耕太のミットから音が響く


松原「おい、何だ今の?」


何故か祐輔がドヤ顔をしながら、松原に

「なっ凄いだろ」


松原「まるで大野のトルネードを見た時の衝撃だよ。打ってみてえ」


さすがにそれは無いだろ


と思っていると、キャプテンが走って来た。

「これからシートバッティングやるけど、一緒にどうかな?」


松原「やる!やらせて下さい!」


えっそんなバカな!

小学生の遊びでは無いのだから


祐輔「じゃあ俺も入っていいかな」


キャプテンが

「勿論OKだよ。」



大変な事になってしまった。

フリーバッティングが終わるまでの間に4人が身体をほぐす為に、ランニング、キャッチボールを始めた。


一人ブツブツと文句を言っているのが、耕太だ。

「俺も打ちたかったなあ」

祐輔も投げる事になったので、キャッチャーに耕太が指名されたのである。


キャッチボールを終えて祐輔が近づいて来た。


祐輔が耕太も呼んで話し始める。

「耕太悪いんだけど、伊藤さんの球を受けてくれないか?」

「別にいいよ」

「そしてフォームで気になった事を伊藤さんに教えてあげて欲しいんだ。」

「俺が?別にいいけど、責任取れねえよ」

すると祐輔がキャッチボールをしている伊藤さんを呼んだ。

伊藤さんが僕達の所にやってきて

「どうした?」

と声をかける。

祐輔「僕と勝利のフォームを全て、耕太がチェックしていたんです。彼はこれでも結構鋭い所を指摘するので、機会があれば伊藤さんのフォームを見てもらいたかったんです。」


「この二人のフォームをチェックしてきたんだったら、俺も見てもらおうかな」


祐輔「じゃあ、耕太頼む。」

すると耕太が定位置に座り、ミットを構えた。


伊藤さんが投げ始める。


サイドスローかあ


実は僕もサイドスローかアンダースローで迷った事があった。しかし、伊藤さんの投球フォームは綺麗で悪い所なんて僕には分からない。


すると耕太がマウンドに近づいてきて、

「テイクバックから投球動作に移行する時に、せっかくテイクバックした意味が消えてます。」

そしてスローモーションの様に伊藤さんが投げたフリをしている時に

「ここです」

と伊藤さんの腕を掴み、直接指導をし始めた。

その後も踏み込む足の幅や向き、手を離す時のスナップのかけ方を、事細かく丁寧に指導した。

そして完成したフォームで耕太に向かって投げると、今までとは明かに違う球筋でミットに収まった。


ビックリしたのは僕達だけでは無く、当の本人までも驚いている。

そして何球か投げると、本人も感触を得た様だった。


伊藤「ありがとう、本当にありがとう。少し壁を越えれた感じがしたよ」

言われた耕太は、照れている様子だった。


すると黒川さんにも同じ様に指導して欲しいと本人から言われて、フォームのチェックをした。


すると黒川さんも「ありがとう」と耕太にお礼を言った。

そして黒川さんから

「こんな事ってあるんだな。何かもっともっと努力すれば、もっともっといい球が投げれる様な感じがした。大学では野球を辞めようと考えていたけど、何か自分の可能性がもっとあるんじゃ無いかと考えてしまった。

それも秋山君のおかげだよ」


耕太は照れくさそうに

「僕は見る事しか出来ませんから、もし良かったらいつでも来て下さい。」


耕太の凄さを感じた。高校1年生の言葉を素直に聞く、この人達に野球に対する情熱を感じた。


安川さんは、耕太が言った事は一切聞き入れず、自分の思った事だけで投げている。

そこにも野球人としての資質の違いがあるのだと感じた。


フリーバッティングが終わり、シートバッティングが始まった。

安川3回、黒川2回、伊藤1回、勝利3回、祐輔3回の順でシートバッティングに入る。

打者は耕太を除いたレギュラー7人と松原が入って8人で打順を回す。

近藤は4番を譲らず、松原が3番で撃つこととなった。


最初の投手は安川さんだったが、見事に打ち込まれる。

外にボールが出ていかない様に、高いネットがグラウンドを囲んでいる。両翼も100m以上あるので、そのネットを越える事は不可能である。

ただし地区で行われる公式戦では、地上から3mの位置に黄色い太い線が書いてある上にボールが当たればホームランという、心城学園グラウンドでのルールがある。


安川さんは近藤の1打席目にライトのネットに書かれた黄線を越えるホームランと、松原の2打席目に左中間のフェンスの黄線を越えるホームランを許した。

結局安川さんは、3回を投げて6失点を失った。

次の回は2番から始まる。

黒川さんが2番打者を三振に取り3番の松原に痛烈なセンターライナー4番の近藤にセンター前を打たれたが、2回を0点に抑えた。

そして1番から始まる打線を、次の伊藤さんが投げる。

1、2番を打ち取り、3番の松原にレフト前、続く近藤をファーストライナーに切って落とした。


そして僕が、5番から始まる打線に3回を投げる事になった。

5番をボテボテのサードゴロ、6、7番を三振。

そして次の回も8番、1番、2番をノーヒットで抑えた。

そして3回、松原から打線が始まる。


右バッターボックスに松原が入る。

大きな構えで威圧感を感じる。

耕太「1打席勝負だから、全て全力で来いよ!」

耕太からゲキが飛ぶ。


「うん」


第1球目

外角低めのストレートを全力で投げる。

一瞬バットがピクッと動いたが止めて1ストライク


第2球目

サインはナックル

真ん中を目掛けてナックルを投げ込むと、松原のバットが空を切った。

「何だ今の球は!」

松原の言葉に近藤が反応する。

「ナックルだよ。あれば分かっててもミートするのが難しいんだ。」

「ナックルかあ」

松原が呟き、打席に入った。


第3球目は内角低めボールになるナックルを投げた。

普通ならバットが出てしまうボールだが、松原のバットは止まった。


それには耕太も驚く

「よくバットを止めれたな。右打者の泣き所のボールが決まったのに」

松原は不適な笑みを浮かべる。

「怖いボールは全て見た。次が勝負だ!」

と闘志を燃やす。


第4球目

もうここはこれしか無い。

僕は大きく振りかぶり、トルネード投法で耕太のミットを目掛けて全力で投げ込む。

松原もボールを目掛けてフルスイングをした。


チッ


バットにボールがかすった。


ズボン!


しかしボールは耕太のミットに収まった。


三振!


僕はガッツポーズを見せる。


続く近藤は、ナックルボールを引っ掛けてサードゴロ、続いて5番打者を三振に取って、僕は降板した。

続く大野が、最初から全てトルネード投法で投げる。

6、7、8番を三振。1、2番を三振。


そして3番の松原との対戦である。

祐輔の球も練習で常に見ているだろうから、討ち取るのは大変だろう。

僕の初めて見たトルネードでさえ、少しバットに触れていた。


第1球目

ストレートの内角球を見逃しストライク

続いて外角いっぱいのストレートを投げて、上手く流し打ちをして、ライトを越える打球がファールとなる。


見てる僕も手に力が入る。


そして第3球目

内角低めのギリギリストライクのストレート。

松原のバットが捉えに動く、捉えたと思った瞬間、ボールがストンと落ちた。

フォークボールだ。

松原のバットが空を切った。


松原は悔しがる。


「クソッ!」


続く近藤は、初球のストレートを、ミートしたと思ったが、バックネット裏へファール。

2球目のフォークボールを空振りして、3球目


祐輔は全力投球でストレートを投げ込む。

近藤のバットは空を切った。


三振!


そして5番打者も三振に倒れて

3回を全部三振で修了した。


いつの間にか近藤と松原も仲良くなっている。

改めて祐輔の凄さも味わい、野球の楽しさを肌で感じた1日だった。


最後に稲川実業の4人も笑顔で、心城学園の選手達と握手を交わして帰って行ったのである。


近藤「小野!俺は絶対に松原なんかに負けないからな!だからお前も大野なんかに負けるなよ」


僕が答えようとした時に

奈緒が

「当たり前よ!」

と近藤に言った。


「おい!そこは俺のセリフだろ!」

耕太も近藤も笑った。


野球っていいなあ


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