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夢を叶えろ!  作者: 鈴月桜
第2章 高校1年夏
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第2-14話 最低な1年生

今日は退院してから1ヶ月後の病院の日であり、受付と事前に採血をしてから外来の待合で待っていた。


待つ事30分、診察の順番が訪れる。

父と母も同席しているので、診察室には3人で入り、先生の話を聞いた。


「白血球数が異常値になっています。それほどひどい値では無いのですが、今回の治療では完治が難しい。

造血幹細胞移植を行えればいいのですが、今だにドナーが見つかりません。」

父「ドナーが見つかったら、どれくらいで移植が出来るのですか?」


「約1ヶ月と考えた方がいいでしょう。ドナーの予定もあるので、後は日程の調整になります。」

母「もし見つからなかったら?」

「今回の入院の時の様に、急性増悪を繰り返し同じ様な治療が行われる。

勿論、定期的に診察して血液データを見て入院する形になるので、前回の様に急に倒れてしまう様な事は避けていけると思いますが。」

父「ではその間にドナーを探す事になるんですか?」

「そういう事になります。ただ、急変して一気に血液が変動する事もあるので、無理な運動等の制限が必要です。時に今は急変が起こりやすいので、充分に注意が必要です。」

父「そうですか・・」

両親は肩を落とす。

「ですから、そうならないためにも、ドナーが見つかり次第、すぐに移植をする必要があるんです。」


診察が終わり会計を済ませて病院を出る。


重たい空気が車の中を漂う。


その重たい空気を消すため

「大丈夫だよ。

ドナーが見つかるまで、頑張って生きるから。勝利とも約束したから安心して」


父も母も苦笑いを浮かべる。


強がりを言っているが、あの副作用を経験するのは、正直言って抵抗がある。


だけど、もっともっと勝利と過ごしたい。

今の私にとって生きる希望であり、抗癌剤と闘う勇気をもたらす原動力でもあった。


心の中で勝利に伝える


( 勝利、私は絶対に諦めないからね。)



(稲川実業)


6月に入ると、徐々に気温も上がり始めてきて、夏の大会が近づいてきた事を肌で感じる様になってきた。


同室の松原が呟いた

「いよいよだな。」

「あと1ヶ月、俺ももっと頑張らないとまずいな」

「お前はこれ以上、何を頑張るんだ?いつも思うんだけど、いつも他を気にしている様に思うが?」

「うん。俺にはライバルがいる。それも相当ヤバイ相手だ。」

「お前が気にする様な投手だったら、相当だな。でも誰だよ、その相手って?」

「心城学園の小野だよ」

「心城学園?」

「東東京地区の高校だけど、甲子園で争う事になると思う」

「聞いた事が無い高校だな。まあお前がそこまで言うのなら凄い投手なんだろう」


そして食堂で朝食を食べて朝練に向かった。


朝練が終わり、寮で制服に着替えて登校する。教室では同じ投手の田村と同じクラスなのだが、何かある事にちょっかいを出してくる。

俺の一番嫌いなタイプだ。


「なあ大野?投手のベンチ入りって誰だと思う?」

「まあ普通に考えれば、黒川さんと伊藤さんと高橋さんだと思うよ。」

「伊藤さんより俺の方が活躍してるだろ?」


確かに練習試合の結果を見ると伊藤さんより田村の方が結果を残している。

ただ、球質、コントロール共に伊藤さんの方が上である。

アンダースローで、特殊な投げ方である田村が1打席勝負では勝っているのかも知れない。

ただ結果は結果なので、後は監督の判断という事になるのだが・・・


完全に私的な事なので誰にも言えないが、俺としては田村にはベンチ入りして欲しくない。


俺だけに言うのなら許されるが、投球練習場でも日々態度がでかくなっていった。


先輩達も夏の大会が近づいているこの時期に、揉め事をしたくないので、軽く受け流している。


そして今日も


黒川「おい、田村。打撃投手替わってやってくれ」

「僕ですか?僕みたいな変則投げのピッチャーでは練習になりませんよ。それに僕がケガしたらマズイでしょ?」


本当にムカつく!


「俺が行きますよ」

行こうとしたら、伊藤さんが

「大野はケガしたらマズイだろ。俺が行くよ」

打撃練習が行なわれているグラウンドに走って行った。


伊藤さんが行っても何とも思ってない。むしろ当たり前の様な素振りを見せる。


心がモヤモヤしたまま練習が終わった。

グラウンド整備を終えて寮に戻るが、今日の田村の行動に釈然としない。


そしていつものように松原と一緒に食堂へ行き、席に座る。

そこへ黒川さんが同じテーブルに座ってきた。

「どうした大野、そんな怖い顔して」

ここで先輩に愚痴るのもみっともない。

「田村の事か?」


「・・・はい」

「まあしょうがない。何だかんだ言っても、アンダースローなのに、いい球投げるからな」



「あれがいい球?松原はどう思う?」

「まあ確かに俺が知ってるアンダースローの投手の中でも良い方だと思うよ」


アンダースローの投手は、勝利しか知らないので、黒川さんや松原の反応に、正直驚いた。

それと同時に勝利の凄さに脅威を感じた。


「俺のライバルもアンダースローなんだけど、田村とは比べものにならない。」

松原「そんな投手聞いた事が無いぞ!」

「それはそうだよ、公式戦で投げた事が無い投手だからな」

松原「何だそりゃあ?」


「同じ中学校の控え投手だったんだけど、中学3年の時は同等の力を持っていた。いや、もしかしたらアイツの方が上だったかも知れない」

黒川「そんなに凄いのか?」

「はい、本当に凄いです。中学3年の時はスピードも同じくらいでしたから」

松原「本当にアンダースローなのか?」


黒川さんも松原も信じられない様子だった。


松原「そこまで言うなら一回見てみたいな」


「絶対に、いつかは当たる高校なので、本当は夏の大会前に練習試合をやりたかったんですけど・・・」


黒川さんが微笑みながら

「何だか大野は楽しそうだな。さっきまでの険しい顔が無くなったもんな」


俺は苦笑いをうかべ

「はい。みんなの話を聞けて、改めてライバルが凄い事を知って、燃えてきました。」


松原「そう言えば明日は、放課後の練習が無いって言ってたよな?」

「そんな事言ってた気がする。」


「じゃあ、心城学園に行ってみようぜ?」


「結構、遠いぞ?」


「とにかく一回見たくなっちまった。」


黒川「じゃあ俺も行こうかな?」


すると俺の後ろから声がした

「俺も行きたいな」


振り返ると伊藤さんが立っていた。


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