第2-12話 自業自得
5月17日(土曜日)
ツルツルの頭も田植えの稲の様に少しづつ黒くなってきた。
4月のテスト後に行われたクラス分けにより、美希と詩音も同じクラスになり、坊主頭が3人一緒のクラスになった。
詩音も坊主にしているので、坊主頭を冷やかす生徒は誰もいない。
美希が教室に入って来る。
「彩香おはよう」
続いて詩音も教室に入って来ると、同じクラスの生徒が詩音に挨拶をする。相変わらずの存在感である。
そして「彩香、美希おはよう」
と席に座る。
詩音が席に座ったと同時に質問してくる
詩音「莉乃の具合どうなんだろう?」
美希「本人は順調だよと、言ってたよ」
詩音「本当はどうなんだろうね」
確かに莉乃ちゃんは、心配をかけまいと、順調だと言っている可能性はいがめない。
そうだ!
彩香「勝利に聞いてみようか?」
詩音が頷き、携帯を取り出して
「取り敢えずLINEで聞いてみるよ」
(莉乃ちゃんの本当の具合はどうですか?)
するとすぐに返信が返って来た。
(あまり結果が良くないみたい)
勝利からの返事を二人に見せる。
詩音「それって、抗癌剤が効かなかったって事?」
彩香「可能性はあるわ」
美希「じゃあ、また症状が悪化したら?」
彩香「同じ治療を繰り返す事になるかも。早く移植が出来ればいいんだけど・・・」
三人は肩を落とす。
そして放課後
「ねえ、彩香?」
「何?」
「奈緒ちゃんは、何してるの?この頃、全然顔を見ないけど」
「奈緒は野球部のマネージャーを一生懸命頑張ってるわよ」
「ねえ、昼食を食べながら観に行かない?」
「えっ別にいいけど・・」
美希「昼食は行くけど、心城学園にはちょっと・・・」
?
前にも感じたが、近藤君と付き合っている筈なのに、詩音には近藤の存在を知られたくないみたいだ。
詩音「じゃあ、取り敢えずランチに行きましょう。」
学校を出て街を歩いていると美希が近づいて来た。
「ねえ、後で相談があるんだけど、ちょっといいかな?」
「うん、いいよ。だけどランチ終わったら詩音と心城学園に行っちゃうよ。」
「そうよね。じゃあ今度でいいよ。」
詩音「何話してるの?」
美希「ううん。何でも無いわよ」
慌てて誤魔化していた。
美希の表情は暗く、思い悩んでいる様にも見える。
そして近くのレストランで昼食を食べて、レストラン前で美希と別れた。
すると詩音が誰かに電話を掛ける。
詩音「ちょっと待っててね」
?
すると高級車が目の前に停まり、運転手が出てきて後ろドアを開ける。
詩音「これで心城学園に行きましょう」
わあー本当にお嬢様なんだ。
高級車の後部座席に座る。
そして心城学園の校門に着いて、運転手が開けてくれたドアから表に出た。
そして二人で校門からグラウンドに向かって歩き始める。
後ろからユニフォームを着た男性が私達を通り過ぎて、私達に気づいて立ち止まる。
「もしかして飯嶋さんの友達?」
何で分かったんだろう?
話しかけてきた男性の目線が頭を見ていたので、謎が解けた。
私も詩音も奈緒と同じ坊主頭なので分かったのだろう
「はい」
「じゃあ、みんな同じ中学校の友達かな?」
すると
詩音「違います」
「あっそうなんだ。君達がきている事を飯嶋さんに伝えときますよ。」
「ありがとうございます。」
グラウンドでは、選手達の大きな声が響き渡っている。
詩音「高校野球って、こんな感じなのね」
詩音は今まで女子校にしか通っていないので、男子の運動部を見るのが初めてであった。
「何か汚いわね。それに臭そう」
そういう見方もあるのか?
私は男女共学で見慣れていて、普段から祐輔達の練習風景を見慣れているので、そんな事は考えた事も無かった。どちらかと言うと、その汗を流して頑張っている姿にカッコよさを感じていた。
そしてグラウンドのフェンス越しに辿り着くと、さっき話し掛けてきた人がグラウンドに入っていくのが見える。グラウンド入口の所で奈緒に声を掛けていた。
奈緒がキョロキョロと見廻し、私達に気づくと大きく手を振ってきた。
詩音も大きく手を振り返して答えた。
「ねえ彩香、向こうに行ってみようよ」
奈緒が居るバックネット裏に歩き出した。
そして奈緒の所に着いて、詩音が話しかける。
「何してるの?」
「洗濯だよ。」
「洗濯?」
「うん。上級生のユニフォームを洗うのもマネージャーの仕事なんだ。この後、部室の掃除もするのよ。一緒に掃除してみる?」
すると詩音が意外な返事をした。
「うん。やってみる」
掃除なんてやった事あるのかな?
奈緒がネット越しに、「監督、部室の掃除を二人に手伝ってもらってもいいですか?」
監督は快く了解してくれた。
部室の入口に立つと
詩音「もしかして、ここが部室?」
奈緒「そうよ」
大分思っていた部屋と違ったらしい
奈緒が部室のドアを開けて中に入ると、男臭い匂いが外まで流れてきた、
詩音の足が止まる。
奈緒「どうしたの?入らないの?」
詩音は言ってしまった手前、恐る恐る中に入って行った。
詩音「うっ!」
ハンカチで鼻を塞いだ。
奈緒がタオルを詩音に渡す。
「これで口と鼻に掛かるようにして、タオルを後で結ぶと気にならないわよ」
タオルを半分に折り、自分で実演してみせた。
詩音もタオルで口と鼻を隠して後で結んだ。
「本当だ。これなら大丈夫ね」
ほうきの使い方、雑巾の絞り方等を教えて、部室の掃除が終わった。
すると、詩音が「面白かった、また来てもいい?」
奈緒が「うん。また来てね」
あれ?
確か莉乃ちゃんの事で来たのでは無かったっけ?
私は詩音に問いかける
「ねえ、莉乃ちゅんの事はいいの?」
「そうよね。つい脱線しちゃったわ。今日はこれから習い事があるから、今度また一緒に来てくれる?」
詩音には珍しく、照れている様に感じた。
何か変なの
そして私と詩音は心城学園を後にしたのであった。
(翌日)
朝から携帯に着信が入る。
時計をみるとAM7:00であり、着信相手は美希であった。
「もしもしどうしたの?」
「朝からごめんね。今日って時間あるかな?」
昨日も相談したそうだったし、思い込んだ表情をしていた美希を無視できない。
「いいわよ」
美希が亀戸まで来てくれる事になったので、駅で11時に待ち合わせをして、一緒にご飯を食べる事になった。
11時
駅に着くと、既に美希が改札口を出た所で待っていたので、声を掛ける。
「美希」
いつもの明るい表情とは違い、深刻そうな表情をしている。
どうしたのだろう?
「彩香ごめんね。休みなのに。」
固い表情をした美希を見ていると、店で話すのは難しいのではと感じる。
「どこか店でも入る?それとも私の家に来る?今日は誰もいないわよ」
「彩香の家に行ってもいいの?」
「じゃあそうしようか」
私達はコンビニに行って、昼食を買って家に向かった。
今日は父と母が出掛けているので、リビングのソファーに座る。
ソファーに座ると、美希が話始めた。
「ごめんね。私、近藤君と別れたいの」
!
「どうして?」
「実は近藤君には悪いけど、最初から近藤君の事を恋愛対象では無いんだ。」
?
「じゃあ、どうして付き合ったの?」
「私の田舎が甲子園の近くにあるんだけど、中学2年の時に父親と初めて甲子園で夏の全国大会を観てから、高校野球にハマってしまって、東京の同じ年の子で甲子園に出場できる様な選手を探していた。
ただ活躍しそうな選手を追いかけて、自己満足を得たいがための行動だった。
売れないアイドルを推して、そのアイドルが売れた時に感じる自己満足みたいなものだと思う。
それだけなら良かったんだけど、見ているだけでは満足出来ず、その選手の恋人になれば、もっと楽しく高校野球を楽しめると思ってしまった。」
これはミーハーと言うものなのか、オタクなのか分からない。ただ恋愛では無い事だけは確実であった。
「ただね。莉乃や彩香の恋愛をみていたら、そんな恋をしてみたいと思った。それと、近藤君が莉乃や彩香と同じ様に、私の事を想ってしまったら傷つけちゃう。早く別れなければと思っているんだけど伝える勇気が無いんだ。」
美希には申し訳ないが、これは自業自得だ。
さすがに自分勝手すぎる。
気心が知れた子なら怒る内容だ。ただ知り合ったばかりで、ダイレクトに伝えれない。
何て言ったらいいんだろう?
「ねえ彩香、一緒に近藤君の所に行ってくれないかな?」
「さすがにそれは・・・・・無理だよ」
「そうよね」
暗い表情に戻る。
しばらく沈黙が続く。
「じゃあ、近くまで一緒に行ってあげるだけではダメ?さすがに思いを伝える時は一緒には居れないよ。」
「本当に?お願いしていいの?じゃあ今から心城学園に行こう。確か今日は練習試合をやっている筈だから」
えっ!
「ご飯は?」
「それは途中で食べればいいよ。早く行こう!」
えっ!
え~~~




