第1-32話 僕は諦めないよ、絶対に
大学病院に着いて、莉乃はそのまま診察室に入って行った。
救急の待合で待っていると、莉乃の父親から着信が入る。
電話で今までの経緯を話す。道端で倒れていた事、大学病院に運ばれて来たことを伝えた。
そして、診察室から医師が出て来た。
「お父さんと連絡がつきましたか?」
「はい」
「熱が40℃近くあるので、このまま入院になります。お父さんが来たら、病棟に来るように言って下さい。」
「はい」
その後、看護師が来て入院する病棟を教えてくれた。
取り敢えず、莉乃の父親が来るまでこの場所で待つ事にした。
何でこんな事に
そんな事を考えながら1時間が経過した。
すると莉乃の父親が息を切らして、やって来た。
「莉乃は?」
「救急病棟に入院しましたので、案内します。」
「ありがとう」
先程、看護師が教えてくれた場所へ移動して、救命救急センターと書かれた場所に着いた。
病棟入口にあるインターホンを鳴らすと、
「はい救命センターです。」
「今入院した、結城の父ですが」
「はい、ではお父さんだけお入り下さい。」
僕は入れないのか!
莉乃の父親だけが、自動ドアから病棟に入って行く。病棟に入れない僕は、莉乃の父親が出て来るまで、病棟前の椅子に座って、莉乃の父親が出て来るのを待った。
・・・
どれだけ待ったのだろうか、待つ時間が長くなればなる程、嫌な予感が積み重なっていく。
どうしたんだろう?
すると救急病棟の自動ドアが開いた。
険しい顔をした莉乃の父親が出て来た。
あまりにも険しい表情なので、声を掛けづらい。
莉乃の父親が僕に気付き、声を掛けてくれた。
「あっ勝利君。車で来てるから家まで送るよ」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですか?」
「あ〜大丈夫だよ。本人は寝てるし、この病院は家からも近いから、後でまた病院に行くから」
と言って、先に歩き出した。
僕は後を追いついていくが、言葉は喋らず黙々と駐車場に向かって歩いていく。
そして車まで着いて、僕は助手席に座った。
車を走らせ駐車場を出ると、莉乃の病気を伝えられた。
「勝利君。驚かないで聞いてくれ。これから精密検査をするが、医師が言うには「急性リンパ性白血病」だと思うと言われた。」
!
「白血病!」
「うん。このまま検査入院して、骨髄移植が出来れば骨髄移植になる。」
「骨髄移植ですか?」
「ただドナーが見つからないと」
「見つからないと?」
「莉乃は死んでしまうかも知れない。」
そんな、莉乃が死ぬなんて有り得ない
「僕の骨髄を使って下さい!」
「勝利君ありがとう。ただ誰でも良い訳では無いんだ。莉乃の身体に適合しないと駄目なんだよ。
一般的には兄弟が適合するケースが多いらしく、親の適合は少ないみたいなんだ。血族以外の適合は数万分の一の確率らしい。医師が言うには、莉乃は兄弟がいないので、ドナー登録者から移植を行う事になるかも知れない。」
「では助かるんですか?」
「医者が言うには、ドナー登録者から適合者が見つかっても、提供してくれるかが、問題らしい」
「えっ?だって提供するために登録してるんじゃあ無いんですか?」
「ただ、提供する人も8日間ぐらい病院に来る必要があって、働いている人や時期が合わない人がいて半々らしいんだ。」
「そんな事って・・・」
「まずは検査して確定診断が出てからの話だけどね」
「はあ・・・」
何も出来ないのか?
歯痒い、日本に必ず適合者が何人、いや何十人といるのに、適合者が骨髄バンク登録をしているのかの有無で、莉乃の命が左右される。
とは言っても、僕もテレビのCMで骨髄バンクへの訴えを聞き流していた事に、今更ながら後悔していた。
そんな事を考えていると、車がマンション前に到着した。
僕が車を降りると、莉乃の父親が
「今日はありがとう」
と、いつもの笑顔は無く、病棟から出て来た時のように暗い険しい表情で言って、車を走らせた。
何も出来ない自分が惨めで、どうしようもない憤りを感じていた。
クソッ!
と石を蹴る。
石が思ったより遠くへ転がっていく。
「誰かに当たったら、どうするんだよ!」
石が転がった先に、耕太が立っていた。
一生、友達の前で涙は見せないと思っていたが、何故だか涙が溢れ始めた。
「どうした!何かあったのか?もしかしてフラれたのか?」
声が出せそうもなくて首を横に振る。
僕がいきなり泣いたので、耕太が混乱しているのが分かった。
「まあ、あそこに座ろう」
近くのベンチに座った。
「ごめん耕太。何が何だか訳が分からなくて」
「それよりどうしたんだ?」
「莉乃が・・・倒れて、救急車で運ばれて、
医者が言うには白血病かもって言われた。
それで、取り敢えず検査入院した。」
「まじか?」
「さすがに冗談では言えないよ」
「だよな」
耕太も何を言っていいか、分からない様子で、沈黙の時間が過ぎる。
耕太が苦し紛れに
「とにかく、まだ確定して無いんだから」
精一杯の言葉だったのだろう。
内容はともかく、こんな時に一緒にいてくれる友達の存在は、今の僕にはとても有り難く、そしてとっても心強い存在だった。
「ごめんな耕太。」
「何が?」
「心配掛けちゃって」
「何言ってんだよ。友達なんだから、一緒に悩ませろよ!」
この時、本当に友達っていいなあ、とつくづく感じた瞬間だった。
翌日
はあ〜もう朝か
時計はもうすぐ9時を指すところだった。
昨日は家に帰ってきてから親にも莉乃の事を伝えた。
多分初めてだろう、真面目な話で夜遅くまで白血病や骨髄バンクの事を、家族で調べたり話し合いをした。家族の一員が病に侵されたかの様に、真剣に話し合った。
眠い
取り敢えず朝食を食べにリビングに向かうと、朝だというのにリビングで話し声が聞こえる。
?
何とリビングに彩香ちゃんと奈緒が、母と談笑している。
奈緒「勝利遅いよ!」
「いやいや、何でお前達がここに居るんだよ」
彩香「もうすぐ祐輔と耕太も来るよ」
すると玄関のチャイムが鳴った。
母が玄関に迎えに行くと
「おはようございます。」
と言いながら、家に入って来た。
えっ!
「何だよ!聞いてないぞ!」
彩香「どうせ勝利が考えたって答えは出ないでしょ。だから皆んなで考えるのよ」
耕太「皆んなに言ってあげたんだから、感謝しろよ!」
「まだ確定した訳では無いんだから・・・それに莉乃だって皆んなには知られたく無いと思うよ」
奈緒「大丈夫だよ。口は固いし、もし確定診断が下っても、絶対に莉乃ちゃんを助けるんだから」
気持ちは有難いが、莉乃は嫌がらないだろうか?
それに莉乃は、疑っている病名を聞いているのだろうか?
!
「祐輔、練習は?」
「今日は熱発した事になっている。」
まったく・・・
でも本気で心配してくれていると感じる。
耕太「ところで白血病って、どんな病気なんだ?」
まさか知らなかったのか!
彩香「簡単に言えば、血液の癌ね。白血病細胞が出来ると白血球が異常に増えてしまって、良い白血球や赤血球、血小板が壊れていくのよ。
そうなると、怪我した血が止まらなくなったり、感染症にかかりやすくなったり、貧血になったりするの」
耕太「それで治るの?」
彩香「抗癌剤を使って、悪い白血病細胞をやっつけるんだけど、その後に正常に血液が造られれば治る人もいる。ただ殆どが、また白血病細胞が作られてしまう。
この場合に血液が作られる細胞を移植するのよ。」
「へえ〜そうなんだ」
彩香「だけど、白血球が中にいると、せっかく移植した細胞が壊れてしまうから、移植を行う時は強い抗癌剤を使って、白血病細胞を無くしてから、健康な造血髄骨髄液を身体に移植するの。
すると、骨髄が正常に動いて治るのよ。
ただ骨髄にも血液と同じ様に種類があって、白血病の人と同じ種類の白血球が必要なのよ。」
耕太「難しいけど、何となく分かった。でも治るんだね。」
さすが医師の娘だけあって詳しい。
彩香「実は私も昨日の夜に父から教えて貰ったのよ。もしドナーが見つかっても1、2ヶ月時期がかかるんだって
血縁の人だと早いみたいんだけど・・」
祐輔「親がドナーになるんじゃあ無いの?」
彩香「親の血液より兄弟の血液の方がマッチするの。両親はマッチしないケースが多いみたい。子供の体は二人で作られたものだから、片方の体ではマッチしないって事になるわ」
奈緒「血液よりも難しいんだね」
彩香「6個の形があって、6個とも合わないとダメなのよ。」
奈緒「6個?そんなのかなり低い確率だね」
彩香「そう。だから他の人の血液だと数万人に一人の確率なのよ。」
耕太「そうなんだ。だから勝利は泣いてたんだ!」
!
「耕太、それを言うなよ」
耕太「皆んな知ってるよ。だから皆んな今日来たんだろ」
なんか恥ずかしい
彩香「まずは確定診断を待って、抗癌剤治療かな。血縁者でドナーが見つかれば、そのまま移植の治療になるかも知れないわね。
もしいなくて、抗癌剤で治らなければ、ドナーを探してから移植になるから、7、8月あたりかな?
時期は私にも分からないけど、早い方がいい事だけは確かね」
奈緒「私達に出来る事って何かあるの?」
彩香「・・・・」
耕太「その骨髄バンクへ登録する様に、皆んなに呼び掛けよう!たくさん居ればマッチする人も出てくるだろ」
「呼び掛けるって、どうやって?」
彩香「SNSや街頭チラシしか、私達に出来ない。18歳以上では無いと登録も出来ないから。
でも何もやらないより、一人でも多く登録して貰えれば、その一人がマッチするかも知れない。」
祐輔「そうだな。黙って見てるより、少しでも動こうぜ!」
彩香「祐輔は練習の合間でいいからね。それと耕太と勝利も練習が始まるまででいいわよ。
私と奈緒がメインでやっていくから。」
「俺だって莉乃のために動きたい」
彩香「気持ちは分かるけど、貴方達は莉乃ちゃんに希望を与えてあげて、希望を実現させる勇気を莉乃ちゃんに届けてあげて!」
涙が出そうになるぐらい嬉しかった。
皆んな本当に莉乃の事を考えてくれている。
本当に最高の幼馴染だ。
祐輔「勝利、また泣いてるのか?」
「泣いてないよ。ただ皆んなの気持ちが嬉しくって、勝手に水が目から出てきただけだよ!」
耕太「ば〜か、幼馴染だろ。昨日も言ったけど一緒に悩むのは当たり前なんだよ。
なっ皆んな?」
彩香「そうよ当たり前よ」
祐輔「当たり前だ!」
奈緒は泣きながら
「一緒に苦しもう。私も精一杯頑張るから。勝利も希望を実現させて」
「皆んな・・・」
彩香「それより、今日はポスター作るわよ!」
卒業式の翌日、幼馴染五人が集まり、莉乃の事で悩み、莉乃のために活動してくれた。
そんな最高の幼馴染と過ごした中学校生活は終わったのであった。




