第1-28話 ホワイトデイ
3月19日の卒業式まで1週間
今日は3月12日で、明後日はホワイトデーなのだが莉乃と会うのはまだ難しい。
バレンタインから、週一のペースで彩香ちゃんの家に行っているので、密かにマンションの出入りを遠くから眺める事しか出来なかった。
ただ、その眺める姿は、ストーカーと勘違いされてもおかしくない。
そんな僕の不安が当たった
今日の3月12日も彩香ちゃんの家に来る日だ。
いつもの様に、公園の木陰に隠れて莉乃が来るのを待った。ただいつもと違うのは、耕太と祐輔が近くに居ない事だった。
二人共、今日は野球部に寄っている。僕は野球部に行くのをパスして公園に来ていた。
あれ?
今日は遅いな?
昨日のLINEでは15:00ぐらいに来る事になっているんだけど?
すでに15:00は過ぎている。
おかしいなあ?
僕は公園の木陰から離れ、マンションの前に歩いて行った。
「君!」
後ろから声がする。
慌てて振り向くと、警察官が怖い顔をして立っていた。
「こんなところで何してるんだね?」
「えっ知り合いを待っているんですけど・・」
「あんな木陰に隠れてかね?」
「あっこれは色々と事情があって、姿を見られない様にしていたんです。」
完全にストーカーだと思われている。
「まあいい。詳しくは署で聞くから、パトカーに乗って」
マンションの前の道路にパトカーが止まっていた。
頭がパニックになる。
僕はその場で
「本当にただ待っているだけです。まだ待ち合わせしている子が来てないから、来てからでいいですか?」
「その子は、女性か?」
「はい」
「どういう関係だ」
「え〜と、恋人では無いんですけど、恋人みたいな子です。」
ヤバイ、これでは不審すぎる。でも、どう言ったらいいんだろう?
すると莉乃がやって来た。
僕が警察官に尋問されている所を見て、僕の所に駆け寄って来てくれた。
僕は警察官に分かってもらいたかったので、莉乃に話し掛ける。
「莉乃、木陰で莉乃が来るのを隠れて見てたら、不審者だと思われて、尋問されているんだ」
警察官が莉乃に話し掛ける。
「君はこの男性と知り合いか?」
莉乃は震えながら
「は・・い」
警察官は震える莉乃を見て、異常に気付く。
そして、案の定、僕が疑われた。
「彼女が震えてるだろ!
とにかく、そこまで来なさい!」
強い口調で僕にパトカーまで行く様に指示をした。
ダメだ。これ以上、莉乃に話させるのは危険だ。
「分かりました。今いきます。」
僕は震えている莉乃に
「莉乃、ごめんね。僕は大丈夫だから、彩香ママの所に行っていいよ」
道路に停めてあるパトカーまで10mぐらいの距離を、警察官と共に歩き出した。
(莉乃)
パトカーに向かって警察官と共に歩く勝利の後姿を見て
過去の記憶が蘇る。
お母さん・・・
涙が頬を伝う。
「ダメ!」
警察官に向かって大きな声で呼び止める。
私は警察官と勝利の所へ走りながら
「この人を、勝利を連れて行かないで!」
泣きながら勝利の背中に抱きつく。
警察官も混乱している様子だった。
「ごめんなさい。私の大事な人なんです。連れて行かないで!」
再度、警察官に向かって大きな声で訴える。
そこへ彩香ママがやってきた。
「あら、莉乃ちゃんと勝利君じゃない。莉乃ちゃん遅れちゃってごめんね。待った?」
莉乃に言った後に、警察官の方を向き
警察官を僕達二人から遠ざけて、警察官に事情を話している。
震える手で勝利の背中から抱きついたまま
「勝利、行っちゃあヤダ!私をおいて行かないで!」
母が出て行った時の過去と重なる。
母が出て行ったあの日、私は母にこうして立ち止まって欲しかったのかも知れない。
抱きついている私の手の上から勝利の手が重なり
「僕は絶対に莉乃をおいて行かないよ」
「勝利・・・」
徐々に震えが収まってきて、勝利の手の温もりを感じながら止まった。
彩香ママが、警察を納得させて戻ってきた。
「莉乃ちゃん、おめでとう。多分これで良くなるわ」
今の私は、長年の間、胸の奥に詰まっていた物が取れた解放感を感じていて、彩香ママの言葉を素直に受け止められた。
彩香ママ「過去の振り返りは必要無くなったと思うわ、もう少しだけカウンセリングをして終了よ」
と笑顔で言った。
私は自然と笑顔になり
「はい」
と答え、抱きついていた勝利の手を離した。
そして勝利を見つめ
「行ってくるね。もう少しだから待っててね」
始めて勝利に「待っててね」と伝えられて、彩香の家に入って行った。
私は希望の光が確実に見えた。
今度こそ大丈夫!
3月14日
ホワイトデーという文字が至る所で目にする。
バレンタインはチョコで、ホワイトデーは飴の筈が、チョコやクッキーなどが立ち並ぶ。
莉乃には会えないしなあ
今日は祐輔と彩香ちゃんは出掛けるそうなので、3人の練習は中止となった。
一昨日の莉乃の様子だと会っても大丈夫かな?
イヤイヤ、ここで焦ってはダメだ。
自問自答する。
まあ取り敢えず、コンビニでホワイトデー用のお菓子でも買っておくか。
既にお年玉も底をついた僕は、一番安い小指くらいのウサギの人形が付いているクッキーを買った。
一応莉乃にLINEを送っておくか
「具合はどうですか?具合が良くなったら会おうね。」
すぐに返信が返って来た。
「ホワイトデーなのに、ごめんね。治ったら出来なかったイベントをまとめてやろうね」
最後にハートのマークがついていた。
それだけで気分は上昇した。
自然とニヤけていたのだろう、横から声がした。
「何ニヤけているの?」
!
横を向くと奈緒が、そこに居た。
「何でも無いよ!
いきなりビックリするだろ!」
「知らないわよ、私だって、今マンションから出て来たところだもん」
「まあいいや。許してやろう」
「何も許されない事なんかしてないわよ」
「ところで何処に行くんだ?」
「買い物よ。勝利は?」
「今帰るところだよ。」
「じゃあ一緒に行く?たい焼き奢ってあげるわよ」
う〜ん。
これで行ったら、莉乃への裏切りになるのかな?
大丈夫かな
「しょうがない、その代わりチョコレートの入ったたい焼きにしろよ」
「分かったわよ」
近くのスーパーに二人で向かった。
「そういえば奈緒?」
「何?」
「耕太からプレゼント貰った?」
明らかに動揺している様に見えた。
そのしぐさに異変を感じる
何かあったな
「う・うん、貰ったよ」
「何貰ったの?」
「それは言えないわよ。」
「何でだよ!教えろよ」
「カチューシャよ。」
「今付けてるやつか?」
顔を赤らめながら
「うん。だから言いたく無かったのよ」
「でも似合うよ、それ」
すると奈緒の顔が更に赤くなった。
「お前達も付き合うのか?」
奈緒が慌てた様子で
「付き合わないわよ!何言ってるのよ!」
「そうなのか」
そしてスーパーに着いて、奈緒の後をついてまわる。
あれ?
やけに高そうな牛肉に手を伸ばす。
えっ!
「そんな高いの買うのか?」
「そうよ、今日はすき焼きなんだ。」
「なんかいい事でもあったのか?」
少し怒りながら
「私の誕生日よ!」
あっそうだ!ホワイトデーは奈緒の誕生日だ。すっかり忘れてしまっていた。
「そうだったよなぁ。誕生日おめでとう!」
「はいはい、ありがとう」
誕生日の人に、たい焼きをねだるのはどうしたものだろう?
「奈緒、たい焼き要らない。買い物を付き合うのが、誕生日プレゼントだ。
ありがたく受け取れよ」
さっきと同じ様に
「はいはい、ありがとう。」
会計を済まし、レジ袋に買った材料をしまう。
「ほら、貸せよ。持ってってやる。」
すると奈緒が僕にレジ袋を渡した。
「食べないでね」
「おいおい、さすがに俺でも生肉は食べないぞ」
スーパーを出た所にたい焼き屋がある。
奈緒はたい焼き屋に向かう。
「おい、奈緒。今日はいいよ。買うなら俺が買うよ!」
「何言ってるの、もうお年玉も無いでしょ」
さすがに分かってらっしゃる
奈緒がたい焼きを二つ持ってきた。
「はい」
たい焼きを差し出してくる。
両手が塞がっている僕を見て
「そこ座ろうよ。」
奈緒がベンチまで走り、一緒に座った。
「ここで何回、勝利とたい焼きを食べたかなあ」
唐突に話し始める。
「そうだな。いっぱい食べたなあ」
「殆ど私の奢りだけどね」
「それは、買い物に付き合ってあげた対価だよ」
「こんな日がいつまで続くのかしら」
「お前が耕太と結婚して、俺が莉乃と結婚して、更に祐輔と彩香ちゃんが結婚して、みんな隣に住めば、ずっと続くかもしれないぞ」
「はいはい、じゃあ行こうか?」
半分呆れた表情で立ち上がった。
そして、マンションまで戻る。
「はい荷物」
レジ袋を奈緒に渡す。
「ありがとう。」
そうだ!
「これ、誕生日プレゼント」
さっきコンビニで買ったお菓子を渡す。
「えっ!いいの?」
笑顔で言ってきた。
とてもコンビニで一番安い品物だと言えなかった。
「ありがとう。一生大事にするからね」
えっ!そんな大それた物では無いんだけど・・・それにお菓子なんだけど
「おい、そんな立派な物では無いぞ」
「ううん。だって勝利が私に始めて買ってくれた物だから」
言いながら、走ってマンションに入って行った。




