第1-27話 バレンタインデー
2月13日(莉乃)
昨夜、彩香より連絡があり、午後から彩香の家に行く事になった。
チョコレート作りがメインで行くのだが、私はその他に、男性恐怖症のカウンセリングも目的の一つだ。
ちょうど学校も職員会議があるとの事で、午前中授業になっているので、好都合であり学校が終わり次第、美希と彩香ママ家に行く事となっている。
そして、学校が終わり美希とチョコレート作りの材料を買って、彩香の家に向かった。
亀戸駅について、彩香の家に向かって歩き始まる。
美希「ところで彩香ママのカウンセリングは大丈夫なの?」
「まだ受けてないから、分からないけど、治療については理解出来たし、多分大丈夫だと思うけど」
「でもさあ、男性恐怖症が治ったら、別にアイツと付き合う必要なんてないんじゃない?
莉乃ならもっといい人がいると思うんだけどな」
「私は勝利がいるから治そうとしているのよ。それ以外は考えられないわ」
そんな話をしているとマンション群が見えて来た。
そして彩香に連絡して、A棟に入って行った。
エレベーターの入口に彩香が待っていてくれて、一緒に家に入った。
家に入ると彩香ママの姿は無かったが、奈緒の姿があり、板チョコを細かく砕いている。私達も荷物を置いて、チョコレート作りを始めた。
チョコレート作りも進み、型紙にチョコレートを流し込む。
すると彩香ママが帰って来た。
「ごめんね。遅くなっちゃった。
後でチョコレートフォンデュをしようと思って、材料を買って来たわよ。」
台所に買ってきた材料を置いて、私の所に向かって歩いて来た。
「お父さん、いいって?」
「はい。お願いしますと言ってました。」
「良かった。じゃあ今日は軽くカウンセリングをやりましょう」
「はい。お願いします。」
そして彩香ママと、彩香ママの部屋に入って行った。
対面で座り、関係の無い話をして、緊張している私に気遣いながら、過去の出来事を思い返す。
今日は、冗談でお尻を触られた時の事を中心に思い返した。
あの時に受けた、何とも言えない感覚を少し思い出したような感じだ。
「今日は、ここまでにしようね」
思った以上に疲れる。
「ねえ、後で勝利君を呼んで話してみようか?」
「二人だけでですか?」
「莉乃ちゃんの友達と私も一緒になら大丈夫?」
もし何かあっても、彩香ママがいるのなら大丈夫かな?
「はい、やってみます。」
「そうそろそろ暗くなる時間だし、練習も終わるから、呼んでみましょう」
「でも、奈緒ちゃん嫌がらないかな?」
「確かにそうかもしれないけど、奈緒ちゃんは分かって選んだ事だから、変に意識しない方がいいわよ
心に嘘をついて付き合っても、本当の友達にも恋人にもなれないから」
確かにそうかも
「分かりました。」
そして部屋を出て、ベランダに向かう。
みんなも私について来て、ベランダに出てきた。
勝利達がベンチに座っている。私は勝利にLINEを送り、勝利がこっちを見るのを待った。
勝利が携帯を取る。
あっ携帯を見た!
すると勝利が、その場で立ち上がる
あっ勝利がこっちを見た。
私は勝利に手を振ると、勝利がそれに気づき手を振り返してきた。
この距離なら大丈夫なんだ。
いつもの症状が起こらない。
彩香「じゃあ私が3人を呼ぶね」
彩香が祐輔にLINEを送った。
彩香「来るって!」
と笑顔で言う。
すると美希が
「ねえ、莉乃?」
「何?」
「私、会いたく無いんだけど・・」
「大丈夫よ、美希が付き合って無かった事は、みんな知ってるから」
「えっそうなの?小野には渋谷でお茶した時に言ったけど、私だけが付き合ったと思っていたみたいなのよね。」
「そうみたいね。付き合う意味が大野君には分からなかったのよ」
美希をフォローすると、態度が一変した
「そうよね!子供には分からなかったのよね。良かった。そんなのと付き合わないで」
ここまで変わるのか?
「でも、彩香ちゃんと付き合っているみたいだから、その事は言ってはダメよ。美希は大人なんだから」
「そんなの当たり前よ、子供ではあるまいし」
美希が単純で良かったと心から思った。
「でも美希。」
「何?」
「ちょっと、これからカウンセリングに付き合ってもらってもいい?」
「今から?チョコレートフォンデュは?」
「カウンセリングが終わってから食べよう。お願い!」
「まあ、私は大人だからチョコレートフォンデュより友情をとるわ」
良かった単純で
彩香ママが近づいてきて
「じゃあ二人共、こっちに来てくれる?」
二人で彩香ママの部屋に入って行った。
勝利達が家に着いた。
私と美希は二人で彩香ママの部屋で待っている。
美希「ねえ莉乃?私は何するの?」
「これから勝利を呼んで、今起こっている症状を見るんだと思うよ。」
「何か怖いね」
「うん」
彩香ママが部屋の入口で美希を呼んだ
「美希ちゃん、ちょっといい?」
美希が彩香ママに呼ばれて部屋を出て行った。
5分ぐらい経つと彩香ママだけ、部屋に入ってくる。
「これから別の部屋に行くからね」
私に言うと一緒に部屋を出て、横の部屋の前に着いた。
彩香ママ「開けるわよ」
部屋のドアが開いた。
部屋はお父さんの書斎なのだろうか大きな机があり、パソコン機器や本棚が置いてある。
大きな机の椅子に、こっちを向いて美希が座っている。
そして机に向かって座っている勝利の後ろ姿が見えた。
彩香ママ「どう?震える?」
「いいえ、今は大丈夫です。」
彩香ママ「勝利君、こっち向いて」
その言葉に、勝利が振り返る。
勝利と目が合う。
あっ!
震えてきた。
彩香ママが私の手を握ってくれた。
でも、震えが止まらない。
彩香ママ「一回部屋から出ましょう」
震える身体を屈む様に身を縮こませながら、彩香ママの後を追う様に部屋を出た。
彩香ママの部屋に二人で戻り、椅子に座る。
彩香ママ「ねえ莉乃ちゃん、震えた時に過去を思い出したでしょ?
でも思い出したのは、お母さんを連れて行った男性では無くて、お母さんでは無かった?」
!
彩香ママが言う通り、私は母の事を思い出していた。
正確に言うと、あの男と母が手を繋いで家から出て行く状景だった。
「はい。確かに母の事を思い出しました。」
「やっぱりそうなのね。ちょっとそのままで待っててくれる。」
彩香ママが、部屋から出て行って、すぐに戻ってきて、閉まっているドアをノックしている。
わざわざノックするなんておかしいわ?
もしかして、何か持ってきて両手が塞がっているのかも?
「今開けますね」
私はドアを開ける
そこには勝利の親友である耕太君がドアの前に立っていた。
耕太君は、チョコレートフォンデュでチョコをたっぷりとつけたマシュマロを私の前に差し出した。
耕太「はい、マシュマロ」
「あっありがとう」
素直にマシュマロを受け取った。
耕太君の後ろから、彩香ママが
「どう?震えなかったでしょ?」
本当だ!
震えない。でも何で?
耕太君は、リビングに戻って行く。
彩香ママが部屋に入ってきて、椅子に座ると、私も先程と同じ様に、対面上の椅子に座った。
彩香ママ「大体分かったわ。その事件が起こった小学生の時は、恐怖心から男性が触れると過去の触られた事や叩かれた事を思い出して、震えたり話せなくなったち思うけど、今はその症状はほぼ治っていると思うわ」
?
「ただ、母親が莉乃ちゃんをおいて、何処かに行ってしまった事がトラウマとして、恐怖を感じてる。
勝利君と話せなくなったのは、勝利君を信じられなくなった時だよね」
「はい」
「大好きだった母が、莉乃ちゃんをおいて出て行ってしまった様に、好きになればなるほど大事な人が莉乃ちゃんの前から居なくなってしまう事を恐れてしまったんだと思うの」
!
確かにあの渋谷の時から、震えが止まらなくなった。
「でも、この前も温泉で男性の鍵を拾った時に震えたのですが?」
「それは勝利君の為に直そうと無理をして拾ったのでは無いかな?その男性を勝利に置き換えて考えなかった?」
「確かにそうかも知れない。これって治るんですか?」
「多分」
「多分?」
「過去の出来事を整理して、普通の過去の出来事とする事以外に、勝利君を信じる事が必要なの。思い描くだけで無く、心底信用できる存在にならないとダメ。莉乃ちゃんがお父さんを信用している様に」
そうか、確かに父の事は、心の底から信用している。
でもそれは、長い年月を共に暮らしていたからこそ、信用出来ていると思っている。
果たして、この距離感で、そこまで信用する事が出来るだろうか?
それって何年先の事になるのだろう?
彩香ママ「莉乃ちゃん、私も色々調べて、良い方法を考えるわ。だから莉乃ちゃんも、諦めないでね」
「はい」
頷くしか無かった。
その後は、私と美希が彩香ママの部屋に居て、奈緒ちゃんや彩香ちゃんがチョコレートフォンデュの機械を部屋まで運んでくれた。
私が作ったのを、奈緒ちゃんが勝利に運んでくれた。そんな微妙な感じで、1日早いバレンタインパーティーが終了した。
希望が近づいて来たと思った矢先の現実に、私はどうしようもする事が出来ない。
その歯痒さを感じながら、自分に苛立ち、絶望へと近づいている事を認識したのであった。
今年のバレンタインデイは幕を閉じた




