第1-24話 かすかな光
(莉乃)
彩香からLINEがくる
(今度の日曜日、制服を買いに行こうと思うんだけど、一緒に行かない?出来たら池袋西武デパートに行く予定です。)
今度の日曜日は2月10日かあ
どうしようかな?
確か美希がチョコレート買いに誘われていたけど、デパートならチョコレートも豊富だしいいかな?
(OKです。制服売場に11時でどう?その後にご飯食べよう。
あっそれと友達の美希も一緒でいいかな?チョコレート買う約束しているから)
するとすぐに返信が届いた。
(奈緒も一緒に行くね)
確か、奈緒ちゃんが勝利と同じ高校に行ったと勝利から聞いていた。
ただ、同じ高校に行くからでは無く、奈緒ちゃんに会うのは気が進まない理由が別にあった。
そして2月10日
取り敢えず美希とは、彩香ちゃん達と会う前に、駅で待ち合わせをする。
珍しく美希が先に待ち合わせの場所に着いていた。
「ごめん、待った?」
「ううん。全然大丈夫。莉乃もチョコレート買うの?」
「作ろうか迷ってるのよ。でも渡せるか、分からないよね?2月14日は木曜日で学校だから」
「部活も無いんだから、向こうに行ったっていいでしょ!アイツの駅まで何分ぐらいなの?」
「30分」
「行って帰ってきたって1時間よ!」
「そうなんだけど、まだ話せないし・・・」
「もう、莉乃は!そんな事してると、誰かに取られちゃうよ!」
その言葉を聞いて、奈緒ちゃんの顔が浮かんだ。
一気にテンションが下がる。
美希は、言いすぎた事に気付き、慌てて弁明する
「物の例えよ。そんな事あるはず無いわよ。
あっそろそろ行こうか?」
と半分誤魔化して目的地の西武デパートの制服売場に向かった。
制服売場に行くと、彩香ちゃんと奈緒ちゃんが既に会計を済まして待っていた。
「どうしたの?」
と彩香ちゃんに聞くと
「10時に来て、1番で終わっちゃった。」
「奈緒ちゃんも?」
「うん」
と奈緒ちゃんが頷いた。
彩香「ねえ、セーターって、既製品じゃないとダメなのかな?」
美希「既製品じゃなくても大丈夫よ。
貴方が彩香ちゃん?初めまして美希です。これからもよろしくね。」
彩香「じゃあ美希ちゃん、セーターを一緒に見てくれる?」
美希「いいよ」
二人でセーターを見に行ってしまった。
奈緒ちゃんと二人で取り残された。
「・・・莉乃ちゃん?」
「何?」
「私、心城学園に入学したの。ごめんね」
「何で謝るの?奈緒ちゃんは、奈緒ちゃんの想いを貫いていいのよ。私に遠慮しないでね。」
「ううん。勝利の恋人になる事は諦めているから、心配しないで。ただ、勝利の夢だけは、近くで見たいんだ。小さい頃から、勝利の夢を聞いてきたから、その夢が叶う瞬間を近くで見るのが私の夢なんだ。」
「奈緒ちゃん・・・・」
「ごめんね莉乃ちゃん。心配だよね」
私は心城学園に奈緒ちゃんが入った事で会いたくないのでは無く、奈緒ちゃんの勝利への想いの深さを聞くのが辛くて会いたくなかった。
私の勝利への想いが、薄っぺらく見えてしまうからだ。
「ううん。私と勝利は恋人では無いんだから気を使わなくていいんだよ。」
奈緒ちゃんは目を潤ましながら
「ありがとう、本当にありがとう。」
恋では強敵だけど憎めない。この子の言う事は嘘が一つも無いように感じる。
それ以上に、彼女を守ってあげたくなってしまう。
「奈緒ちゃんだって、恋も諦めないでいいと思うよ。」
あっ言っちゃった。これは言わないようにしていたのだが・・・
すると奈緒ちゃんが私の胸に飛び込んで、泣きながら
「ありがとう。でも、それは出来ないの。勝利は好きな人しか見えないから。」
「奈緒ちゃん・・・
でも私と勝利なんか、まだ4回しか会っていないのよ。それに私と出逢った時は、彩香ちゃんの事を好きだった筈でしょ」
「あの時は、彩香から心が離れ始めていた時だったの。でも勝利は、彩香以上の愛情を莉乃ちゃんへ持っているのは分かるわ」
「そんな事無いでしょ」
「10年に及ぶ片思いなんだから分かるわ・・・分かっちゃうの」
私の胸で泣き続けた。
すると美希と彩香が帰ってくる。
美希「莉乃が奈緒ちゃんを泣かせた!」
「えっ違うよ。ねえ奈緒ちゃん」
すると胸から離れ、涙を拭きながら笑顔で
「いじめられちゃった」
冗談じみた言い方で言った。
「もう奈緒まで、ヒドイ!」
美希「ご飯食べに行こうよ!」
「そうね。でも、まだ11時よ」
彩香「そうだ!今日はウチには誰も居ないから、ウチに来る?それに二人にはいいものが見えるわよ」
と意味深な笑みを浮かべた。
奈緒「彩香の家かあ。久しぶりだなあ」
「じゃあ行きましょう」
4人は彩香の家に向かい始めた。
駅を降りて、途中のコンビニで昼食を買う。
そしてマンションがズラリ並んでいる場所へ入る。
「え〜これって何棟あるの?」
奈緒「ちょうど10棟あるの、G棟まであるんだよ。」
彩香「私はA棟、奈緒がB棟、勝利がD棟、祐輔がE棟で耕太がC棟なの。
幼稚園の時に、各棟の代表の親が話し合いを行ったのがキッカケで今のママ達が知り合いになったんだ。
F棟以上は、その後に出来た棟らしいわ」
「そうなんだ。面白いね」
そう言いながら、A棟のエントランスを抜けて、エレベーターに乗る。
15階建ての15階のボタンを押した。
そして15階に着くとドアが2つしか無い。
手前と奥にもう一つのドアが見える。
美希「このマンションって、各階2部屋しか無いの?」
奈緒「最上階だけは、作りが違うのよ。
私達の家は3LDKだけど、確か最上階は・・」
彩香「5LDKだけど、ただ広いだけよ。3人家族では大きすぎるわ。
結局、いつもリビングにいるだけだから」
と言いながら奥のドアに向かった。
ドアを開けると正面が壁になっていて、正面の壁伝いに左に歩いて行くと大きなリビングが見えた。
あれ?
人がいる
彩香「ママ!何でいるの?」
「何でって言われても、パパに途中で逃げられちゃった。」
「逃げられたって?」
「今日の午後から学会で沖縄に行くんですって」
「沖縄?」
「うん。学会なのに、ゴルフバック持って出かけたわ。何で先に宅急便で送らなかったのかしら?」
何だこの会話?
それに問題は宅急便では無いと思うが・・・
しかし、このやり取りって、何か演技っぽい気がしたのは、私だけだろうか?
彩香ママが、私に気付き近寄って来た。
「貴方が莉乃ちゃん?」
「はい」
?
「後で二人で話をしましょうね」
と笑顔で言ってきた。
何だかよく分からず
「はい・・」
と答える。
20畳近くあるリビングに彩香ママも加わり、一緒に昼食を食べる。
そして昼食を食べ終わると、彩香ママが
「そろそろよ」
?
彩香ママがベランダに出ると
「ほら始まったわよ。皆んなも来なさいよ」
その言葉に誘われてベランダに向かう。窓を越えるとやたらと広いベランダが目に入った。
普段ならば屋上として使われるのだろう、広いベランダは、人工芝が敷いてあり、ゴルフのパターの練習をしているのだろう丸く穴が開いたゴルフカップがある。
凄い!
彩香ママのいる方に向かうと、公園が目に入る。
!
勝利だ!
さっき言ってた祐輔君と耕太君だろう3人組が目に入った。
特に声も掛けず、黙って3人が野球をやっている様子を眺めている。
美希「あっ大野君だ!」
そういえば大野君と付き合っていたと、美希は言っていたが、勝利の話だと違うみたいだった事は聞いている。
彩香ママ「そうよ。彩香のもしかしたら旦那さんになる人よ」
彩香「ママ!それは言ってはダメよ!」
「何で?みんなに宣言した方がいいのよ。こういう事は」
美希は黙ったままだった。
それにしても、やけに真面目に練習をしている。
ランニング、準備運動、ストレッチと黙々と行なっている。
ただ見てるだけで、こんなに幸せを感じている自分が不思議だ。
ただ、高校に入ってからは、奈緒ちゃんがもっと近くで勝利が頑張っている姿を見る事に、羨ましさと一抹の不安を感じる。
「寒いわね」
と彩香ママが言いながら部屋に入っていく。
もう少し見ていたかったけど、一度部屋に戻った。
「ねえ莉乃ちゃん、ちょっと来てくれる?」
と言われ
「はい」と返事をして、リビングの近くにある部屋に入っていく彩香ママに続いて、部屋に入った。
「ドアを閉めてくれる?」
私はドアを閉める。
6畳ぐらいある部屋は、本棚が左右と奥にあり、真ん中に4人掛けのテーブルが置いてあった。
ここは何の部屋だろう?
「ここは、私の勉強部屋よ」
本の多さに圧倒されながら、質問する。
「何の勉強ですか?」
「心理学よ。実は臨床心理士の資格を持っていて、以前も常勤として心理士として働いていたのよ。
今は、週に2日だけ主人の病院でカウンセリングを行なっているのよ」
「はあ」
「でっ、男性恐怖症を治したい?」
!
そういう事か
「はい。治したいんですが、薬は出来れば飲みたく無いんです。」
「そうか。じゃあ私と何回かカウンセリングを行うのはどうかしら?」
「それで治るんですか?」
「う〜ん、多分ね。今の莉乃ちゃんを見ていると、深刻な症状にはなっていないみたいだから、可能性は充分あると思うわよ。
ただ、お父さんの許可だけは、もらっていいかしら?
勿論、お父さんも一緒に来てもらってもいいわよ」
「はあ、ところで、どんな治療なんですか?」
「そうね。例えば最近、恥ずかしい事や嫌だった事って無い?先生に怒られたとか?」
「はい、金曜日に先生に注意されて、ちょっと恥ずかしかった事がありました。」
「でも、私が教えてと言ったから、今の事を思い出したのよね?」
「はい」
「これはキチンと過去の出来事として記憶しているから大丈夫なのよ。」
「震えが止まらなくなるって事は、過去の悪い記憶が過去の記憶となっていなくて、現在も凍ったまま継続されているの、そして同じ様な事が起こると、解凍されて現在の記憶として蘇っちゃうの
だから、凍った記憶をカウンセリングで、過去を思い出す事で解凍させて、キチンと過去の出来事として記憶させるのよ」
「そんな事って出来るんですか?」
「何回か、過去の記憶を思い出すカウンセリングを行っていき、その時の恐怖に感じた事は、その時の恐怖で、今の恐怖では無いと分かるまで続けるの
勿論、本当の記憶だから、細かい事まで思い出して、その正しい出来事をキチンと過去の出来事として記憶する治療よ
金曜日に注意された先生の事の様にね」
何となくだけど分かった感じがする。
「少し良くなったら、勝利君を呼んで、直接話すのもいいと思うわよ」
えっ本当!
なんか今の言葉で、一気にテンションが上がった。
「じゃあ、父に聞いて連絡します。」
「主人は人間的には微妙だけど、精神科医としては仕事できるから安心していいと思うわよ」
「はい」
希望の光を感じた瞬間であった。
そして彩香ママと一緒にリビングに戻った。
すると、どうやらバレンタインの話で盛り上がっていたみたいで、私達が戻ると
彩香「ママ、13日にここで皆んなとチョコレート作りしてもいい?」
彩香ママは笑顔で
「いいわよ」
すると美希が
「やった〜」
と大声で喜んだ。




