第22話 KISS
莉乃の過去の話が終わり、僕に肩に寄りかかる。
莉乃の肩と僕の肩が触れあう
「この方がもっとあったかいね」
この至近距離で、僕の方を向いて微笑んだ。
鼓動が激しく動き出す。
心臓の音が伝わってしまうのではないだろうか?
まるで恋人みたいだ。
いや、この時は恋人と錯覚していたのかも知れない。
数センチ先に莉乃の微笑む笑顔がある。
莉乃の少し赤らめた顔が、僕と同じ感情なのだと勘違いする
唇が目に入る
唇・・・
ゆっくり顔を近づける
僕は自然と莉乃の唇に軽くKISSをしていた。
唇と唇が触れたか触れないか分からない程のKISSである。
すぐに莉乃が僕を押し返す
あっ!
自分が行った行為の間違いに気づくが・・・
莉乃は立ち上がりテントに走って戻って行った。
何て馬鹿な事をしちゃったんだ!
これって莉乃が一番嫌いな事だよな?
分かっているのに、分かっていたのに・・・
僕は自分がやった行為を悔やむ。
!
莉乃は?
莉乃は大丈夫かな?
母の言葉を思い出す。
「勝利には恐怖を感じないんだって」
とにかく謝ろう!
僕は莉乃のテントに向かう。
閉めてあるテントの外から莉乃に話し掛ける。
「莉乃、ごめん。」
返事が無い
「俺、莉乃が一番嫌いな事をしちゃった。
何であんな事しちゃったのか、自分でもよく分からないんだ。
ごめん。」
「向こうに行って!
向こうに行きなさいよ!
アンタと喋りたくない。」
僕は返す言葉が見つからない。
ただ一つだけハッキリした事があった。
「俺、本気だから。こんな短い時間で信じられないと思うけど、俺・・・
莉乃の事が好きだ。」
「本当にさっきはごめんね。」
僕はとうとう告白してしまった。
自分でも信じられない。
ただ、今言わなければ、全てが終わってしまう様で怖かった。
僕は大テントに戻った。
本当に勝手な話だが、僕の心は晴れやかな気分になっている。
生まれて初めての告白をした達成感からきているのか分からないが、気分が高揚している。
陽が昇り始めた。
あっ!ご飯!
石窯に木を足して、火の勢いを強くして、3個の飯盒に火をあてる。
なかなか炊けないなあ・・・
僕はいつのまにか寝てしまった。
「アチッ!」
男性の声が聞こえる。
僕は慌てて目を開けて
「あっ!すいません!」
そこには社員の男性が立っていた。
2つは微妙だけど、1つは何とか食べれそうだよ。
と笑顔で言った。
「すいません。寝てしまいました。」
「いいよ、こっちこそごめんな、飯まで作らせちゃって」
いい人だ
「ただ、みんなの分までは無いかも知れない。」
僕は肩を落とす。
「大丈夫だよ。社長がカップヌードルをいっぱい持ってきてたから」
?
あれ?
昨日、延びたラーメンを無理して食べた莉乃の事を思い出す。
俺が作った事を気にして、無理して食べてた事に気づいた。
そんな優しい子に僕は・・・
飯盒を新聞紙の上でひっくり返し、しばらく置いて元に戻す。
そして蓋を開けると、2つの飯盒の底は焦げだらけになっていた。
そして焦げてないところだけ取り出して、1つの飯盒に取り分ける。
結局3個の飯盒が2個になってしまった。
父達が戻って来た。
各テントに居た人達も大テントに集まって来た。
父と社長が話している所に出向き
「ごめん、ご飯炊くのを失敗してしまって、2つしか飯盒炊けなかった。
すると社長が、
「いいよいいよ、カップヌードルあるから」
ご飯作りを手伝ってくれた社員と同じ事を言った。
すると、莉乃がテントから出て、こっちに向かってくるのが見えた。
すぐ近くに来たので
「莉乃?」
と小さい声で呼び掛けるが、莉乃は無視して通り過ぎて、そのまま社長に
「今日何時に帰れるの?」
嫌われた!
男子の片付けは終わり、各自がテントに戻り、帰り支度を始めた。
ここを10時に出発するらしい。
父はテント内の荷物の整理を僕に指示して、マイクロバスに向かっていった。
テント内の荷物をリュックに詰め込んでいると、母が帰って来る
「ねえ勝利」
「何」
「ばーか」
「何だよ」
「普通、付き合って無いのにKISSなんかしないわよ」
!
「えっ?何で知ってるの?」
「それは内緒よ。さあ帰りましょう。
今日は家で失恋パーティーでもしようか?」
「そんなパーティーは、嫌だよ」
「莉乃ちゃんが娘になってくれたら良かったのになあ。」
僕は黙って母の言葉を聞き流す
「ねえ勝利?勝利は莉乃ちゃんの事を諦めるの?」
「諦めるも何も、嫌われてるよ。」
少し間を空けて呟く様に話す
「もうその話はいいよ」
諦めたく無いよ
リュックを背負ってテントを出る。
すると横のテントから莉乃が重たそうな荷物を持って出てきた。
「ねえ、持とうか?」
「一人で大丈夫よ」
完全に嫌われちゃったな
僕は荷物を持って、マイクロバスに乗った。
心はズタズタで、早くこの場所を離れたい。
窓際の席に座り、ぼーっと外を眺める。
この2日間を思い返す。
色んな場面での莉乃の言葉、莉乃の表情ばかりが思い出される。
あれっ?
涙?
我ながら見っともないし情けない。
涙が溢れて、外の様子も目に入らない。
運転手の父が
「そろそろ出発するので、席に座って下さい。」
マイクロバスは出発した。
もう出発して10分は経っているのに涙が止まらない。
あっこの道のこの場所は、確か車の中で莉乃が僕の事をもっと知りたいと言ったところだ。
莉乃の言葉遣いは悪かったが、本当に優しかった。
僕が作ったラーメンが延びていて新しいラーメンがあるのに、汁が無いラーメンを食べてくれた。
蛇に噛まれた時も噛まれた手を両手で包み、手に向かって動いてとお願いしてくれた。
背が伸びない事を知り遠くまで走って行った時に土砂降りになってずぶ濡れになっていた僕に、傘を持って迎えに来てくれた。
彼女と会いたい。
出来る事なら、彼女とまた・・・
マイクロバスは東名高速に乗り、行きにも寄った海老名インターで、トイレと食事休憩を取ることになった。




