第19話 KI
それにしても、この曲を聞いて、やけに年配者が泣いてる事に気づく。
あれ?
この歌って、どちらかと言うと、これから道を進んで行こうって曲だから、若者の方が共感する曲だと思うのだが?
そして、リトルマーメイド、ライオンキング等を歌い、最後に
「星に願いを」を歌って終了した。
この曲は、僕が小さい時にベッドで子守唄として歌ってくれていた曲で懐かしかった。
「ケイさん、良かったよ」
社員が母に群がり話し掛ける
ケイ?
何だケイって?
母が歌い終わって、戻って来た。
莉乃は泣き止んでいたので、僕は元の椅子に戻る。
「圭子さん、何かやってたんですか?歌の上手さが尋常じゃないです。」
「うん。昔ね、歌手やってたの」
僕は驚いた。
「歌手?」
「あら?勝利も知らないの?」
「初めて聞いたよ。」
「だって聞かれた事ないもん」
そういう問題?
「けいって言ってたけど?芸名?」
「うん。KIでケイよ」
「KIって聞いた事ある。何て読むのか分からなかったけど」
「まあまあ売れてたのよ、昔は」
「何で辞めちゃったんですか?」
「家族が大事だからかな?莉乃ちゃんのお父さんと一緒よ」
すると社長と父がやって来た。
「またウチの作品で歌ってくれませんか?KIさんの歌は、心を動かす力がある。」
僕は社長に質問する。
「また?」
「僕が社長として製作会社を立ち上げて、最初の作品がTVアニメの「二人の希望」という作品なんだけど、主題歌を歌う歌手が決まらなかった。」
「そんな事ってあるんですか?」
「作品を生かすのに誰でも良い訳では無くて、一人が決定していたんだが、突然辞退して来た。
妥協すれば、代役はいたんだが、どうしても妥協したく無かった。
その姿を見た小野さんが、引退した筈のKIさんを紹介してくれたんだ。
その時は奥さんって事は黙っていて、KIさんも快く引き受けてくれた。
依頼主もKIさんが歌ってくれる事になり、二つ返事でOKが取れた。
何とか作品は無事に完了したが、このドタバタ劇は、私が前に勤めていた大手製作会社の仕組んだ嫌がらせだったのを、聞いて愕然とした。
急に製作の意欲もやる気も無くなってきてしまった時に、さっき歌ってくれたアナと雪の女王を社内放送で歌ってくれたんだよ。
あの時は、僕も社員も本当に泣いた。
社員の前だったが、涙が止まらなかったよ。
その時に、小野さんの奥さんがKIだって知ったんだよ。」
そんな事があったんだ。
僕は何にも知らなかった。
「みんなに言って自慢しちゃおうかな?」
「勝利、みんなには言ってはダメよ。
関係がギクシャクしちゃうから。今の場所に引っ越して来たのも、前の場所でギクシャクしちゃったから引っ越したんだからね」
「えっ!そうなの?」
「そうなのよ」
父「まあまあ、そんな事より明日は早いから、早く寝よう。日の出が5時ちょっと前だから、3時30分にここを出発するよ」
「えっ?もしかして、その時間に僕も起きるの?」
「当たり前だろ!その為に来たんだから!」
父が莉乃の方を向き
「莉乃ちゃんは、何かあったら起きればいいからね」
「それは無いだろ!」