第12話 凄い投手?
まずいラーメンを食べ終えると、大テントの横の広場で親子がキャッチボールをしている。
「あれ?確かあの人が甲子園に出場した事がある川村さんだよ。確かキャッチャーって言ってたから、投げてくれば?」
すぐに、メチャぶりする。
「嫌だよ」
「行ってきなよ」
「嫌なものは嫌だ!」
すると、広場でキャッチボールをしていた川村さんが、大きな声で僕を呼ぶ
「小野さんの息子さん」
手を振ってくる。
えっ僕?
自分の顔に人差し指を向けると、大きくうなづいた。
「何ですか?」
大きな声で答えると
「投げてくれないか!
息子にピッチャーの見本になってくれ!」
僕は見本になる程、上手くない。父がみんなにエースで四番と言い振りまいているので、みんなが誤解している。
「行ってきなさいよ!エースで四番の控え選手!」
まったく嫌な言い方をする。
「分かりました。今行きます。」
僕はそう言って広場に走った。彼女も面白半分でついてきた。
お父さんが息子に
「このお兄さんが、ピッチャーで凄い人なんだよ。将来はプロ野球選手になれる人なんだよ」
父は、みんなに何て言ってるのだろう?ハードルが上がっていく。
すると子供が
「お兄ちゃん、凄いボール投げて」
笑顔で言ってくる。
さすがにマズイと思ったのか、彼女が小声で話し出す
「辞めた方がいいわ。子供の夢を壊しちゃう」
まったく、投げろと言ったり、勝手な事ばかり言う。
ピッチングをする前に、肩を作るために4、5分キャッチボールをする。
「いい球の回転だね。じゃあ座るから投げ込んでいいよ。」
横で彼女が
「辞めるなら今よ。調子が悪いとか、適当に言って辞めなさいよ」
そんな言葉に耳を貸さず
僕は大きく振りかぶり、アンダースローでミットに向かって投げ込んだ。
ズボッ!
ミットの音が響きわたる。
「お兄ちゃん凄い!プロ野球選手みたい」
子供の目が輝いている。
2、3球投げ込むと、ミットの音を聞きつけて、近くにいた家族が集まってきた。
「凄いな。アンダースローで、こんなに早い球は見た事無いよ。まるでボールが浮き上がっているみたいだ。」
廻りがざわつき始める
するとキャッチャーの川村さんが、僕のとこに来て
「凄いボールだね。お父さんが自慢するのが分かったよ。ちょっといいかな?」
何だろう
「お父さんは、握力も背筋力も人並み外れているから、きっと君も握力が強いのかな?」
「はい。握力は学校で一番です。」
「そうか、手を見せて」
僕は手を見せる
「思った通り、お父さんに似て大きいね」
「はい」
何を言いたいんだろう?
「本当は上投げだと思っていたから、パームボールを教えようと思っていたんだけど、アンダースローだからナックルかフォークボールを教えてあげるよ」
フォークボールは何度か投げた事があるので
「じゃあ、ナックルを教えてもらってもいいですか?」
すると投げ方、ボールの押し出し方を丁寧に教えてくれた。
「まずはキャッチボールみたいに立ってるから、ナックルを投げてみて?」
投げれる事は投げれるが、コントロールが定まらない。
4、5分そのまま投げ続けると、大体感触が掴めて来た。
「じゃあ座るから、投げてみて」
僕は大きく振りかぶり、アンダースローで投げた。
ボールはど真ん中から、ユラユラ揺れてからストンと下に落ちた。
ボールがミットをかすめて後ろに転がっていく。
「オー!」
周りの人が僕のボールを見て驚いた。
「凄いよ。これは分かっていても打てないよ。それにストレートも速いから、絶対に有効な球種になると思うよ。硬球に変わっても、充分通用すると思うよ」
僕だけの魔球を手に入れたようで嬉しい。
これなら大野に勝てるかもしれない。
「お兄ちゃん、僕もお兄ちゃんの様に、凄いピッチャーになるからね」
子供が笑顔で僕に言ってきたので、グローブを子供に返しながら
「うん。絶対になれるよ。君も頑張ってね」
と頭を撫でた。
何かヒーローになった気分だ。
そして横にいる彼女に
「じゃあ、テントに戻ろうか?」
と、少し調子に乗って、威張ってしまう
「アンタは、ソフトボールの選手なの?」
その質問に周りの人達は爆笑した。
彼女は何で笑われているのか分からず、怒ってテントに戻って行った。




