第3-3話 3人の夢の続き
三つ葉は心城学園から駅までの途中にあるレストランで、7回建てのビルの1階に3店舗が出店している真ん中の店舗である。
店舗自体はあまり大きくなく、入って左側が奥に向かって厨房があり7個の椅子が備え付けてあるカウンターが厨房との境になっていて、カウンターの後ろに4人掛けのテーブルが入口から奥に向かって壁伝いに3個置いてある。全席が埋まっても19人しか入れない、小さいレストランである。
営業時間は、11:00〜14:00 、17:00〜22:00と営業をしている。
今日の練習も午前練習だったので、13時過ぎに店に入った。
今日は土曜日なので、この前よりも客は多かったが、テーブル席の一番奥の席が空いていたので、僕達はそこに座った。
マスターが厨房から「ハンバーグランチでいいか?」と大きな声で聞いてきたので、奈緒が「はい、お願いします。」と返事をした。
13:30を過ぎると徐々に中にいた客は会計を済ませて店を出て行った。
そこへマスターが食事を持ってきた。
「はい、どうぞ」
と3人分の食事を持ってくると、一度店を出て、すぐに店に入って来た。
僕達のテーブルを横切る時に
「ランチ営業はもう時間だから、closeに変えたんだよ。もう客は入って来ないって事だ」
営業時間もそうだが、こんなので儲かるのだろうか?
そんな事を思いながら、食事に集中する。
耕太と勝利は食べ終わり、のんびりと食べる奈緒を待っていると、残りの客も全て会計を済まして店を出て行った。
マスターが近づいてきて
「お前達、何か飲むか?」
その言葉に耕太が「アイスコーヒー下さい」
続いて奈緒が「じゃあ私、アイスミルクティー下さい!」
そして恥ずかしそうに勝利が「オレンジジュース下さい」
すかさず耕太が「もう高校生なんだから、ちょっと背伸びしてみろよ」
「カフェインは背が伸びなくなるって聞いたことがあるから嫌だよ!」
奈緒「全く勝利は相変わらずお子ちゃまだよね」
3人の会話を聴きながら、「お前達は仲がいいな」
勝利「幼稚園前からの幼馴染なんですよ。」
「そうか、まあ、いつ迄も仲が良ければいい事だな」
と言って、厨房に入っていった。
そして5分程待っていると、4つの飲み物を持ってテーブルに運んでくる。
4つ?何でホットコーヒーが多い?
3人に飲み物を配り、奈緒の横の空席にホットコーヒーを置いて、当たり前の様に奈緒の横に座った。
「ところでコーチは何か言ってたか?」
耕太「コーチもこの店があることを知ってましたよ。マスターがやっている事も分かってましたよ」
「そうか、知ってたんだ」
「でも、まだ店には行ってないって言ってましたけど、理由は聞きませんでしたけど、何かあるんですか?」
「う〜ん。まあいいか!」と独り言の様に呟いた後に話し始めた。
「俺と流と美奈子は、小学校から仲が良い3人組だったんだ。小学校の時から俺がピッチャーで流がキャッチャーをやっていて、中学の時は都大会で優勝もした事があった。高校に入ってからは美奈子がマネージャーになって、3人で甲子園を目指していた。ところがいきなり美奈子が妊娠したと言って、学校を辞めてしまい、流もキャプテンなのに上の空で野球に身が入っていない。そして美奈子の父親が流と知って、俺はアイツを殴り飛ばして、それからアイツとは話もしていない。夏の大会も3回戦で敗れて高校を卒業した。」
その話を聞き、勝利が話し掛けようとしたが、耕太が「勝利!ダメだぞ話したら!」
「えっ何で?」
「俺たちが話していい内容では無いだろ!」
奈緒「もしかして、マスターは美奈子さんの事が好きだったんですか?」
マスターは照れながら「あ〜好きだった。この店の名前も美奈子とのエピソードが元になって付けたんだ」
さすがにその内容を聞く勇気は無かった。
すると
カランカラン
店のドアが開く音がした。
マスターが「昼の営業は終わってますよ」
すると入口のドアから二つの人影が映り出された。
店に入って来たのは、流コーチと奥さんの美奈子さんであった。
「流・・・」
マスターの口からコーチの名が溢れた。
1歩1歩、コーチが前に僕達の方に近づいて来る。そして僕達のテーブルの前で立ち止まり
「貴志・・・・」
少し間が空いて、息を整えて再度話し始めた。
「貴志ごめん」今まで黙ってた事がある。聞いてくれるか?」
いきなりの問いに「おう」と返事をすると、後ろにいた美奈子さんが前に歩み出て話し始めた。
レイプにより妊娠した事、その子供を産んだ事、結婚して産んだ娘と一緒に過ごしている事をマスターに伝えた。
「美奈子・・・お前、そんな事があったのか?」
美奈子の頬に涙が伝わり、床に落ちる。
「貴志ごめんね。今まで黙ってて」
するとコーチも続いた
「ごめん貴志、この事は美奈子と俺と家族しか言ってなかった。美奈子と俺だけでは無くて、お腹の子供の為にも誰にも言えずにいたんだ。本当にごめん」
マスターも言いたい事はあったのだろうが、子供の事を出されて、何も言えなかった。
するとコーチがマスターに話し掛ける。
「貴志、今日はお前に話があって来たんだ。」
マスターが険しい表情に変わる
「今更なんだよ?」
「一緒に甲子園目指さないか?」
「なっ?」
美奈子「私のせいで小さい頃からの夢を壊してしまって、ごめんなさい。15年も経っちゃったけど、また3人で夢の続きを見たいの」
マスターは小学生の時の美奈子が無邪気に笑いながら話し掛けてきた言葉を思い出す。
(3人で甲子園に行こう!)
マスターが慌てて席を立つ。
コーチ「おい!タカシ!」
「便所だ!」
マスターがトイレに行き、5分が経つとトイレのドアが開きマスターが出て来て厨房に入る。
そしてカウンター越しに姿を見せて
「でっどうやって、夢の続きをするんだ?」
コーチ「うん。それなんだけど、心城学園のピッチングコーチをやってくれないか?」
「ピッチングコーチ?」
「うん。ただしボランティアなんだけど」
「ピッチングコーチか・・・」
すると微笑みながら美奈子さんが
「タカシ、一緒に甲子園行こうよ!」
一瞬マスターの口元が緩み
「コーヒーでも飲むか?」
とコーチと美奈子さんに問い掛ける。
コーチ「ハンバーグが美味しいって聞いてるよ、その3人から」
と僕達を見る。
マスターは、「今日は材料がもう無いんだよ。今度、打ち合わせの時にご馳走してやるよ」
コーチ「えっ?じゃあコーチを受けてくれるのか?」
「まったくしょうがないなあ、受けてやるよ。その代わり俺流にしごいてもいいか?」
「もちろん」
勝利「え〜それは勘弁して下さいよ」
マスター(高坂)がピッチングコーチとして加わり、経理やプリント等の事務処理全般の手伝いを行ってくれる奈美子さんも心城学園のスタッフとして入った瞬間であった。




