第10話 何でアイツが
肝試しでアイツに救われて、アイツと口喧嘩してテントの中に入ったが怒りが収まらない。
外の椅子に座ろうと、テントから出ようと、出入口のファスナーを開けて、外に出ようと体を乗り出すと、目の前で誰かが転ぶ。
転んだ人に手を貸そうとして、相手を見るとアイツの姿が目に入った。
「さっきはごめん。」
「何が?」
「何がって、僕を心配して来てくれたのに、あんな事言ってごめん」
何で謝っているのか知っていたが、心配して行った事を認めたくなかった私は知らないふりをした。
「だから何が?」
「いや、だから」
「だから別に何とも思ってないから、いいって言ってるのよ!
別にアンタを助けるつもりで行ったんじゃあ無いから!」
「じゃあ何で、あんな所に一人で行ったんだよ!」
その言い方に腹が立つ
「そんなの散歩よ、散歩」
「そうなんだ。分かったよ。ただ取り敢えず謝りたかったから、勝手に謝らせてもらうよ。さっきは本当にごめん。」
何でそんな態度を取られないといけないの!
私は怒り口調で言う
「アンタ、もう身長は伸びないわよ!」
「アンタのお父さんも、手と足が大きいのに、背が小さいでしょ。アンタの手足が大きいのも遺伝よ。だから、もう背も伸びないのよ。」
「君には関係ないだろ!」
アイツは思い込んだ表情で走り去って行った。
予想以上に思い込んだ表情だったので、少し心配になる。
しばらくして肝試しが終わって皆んなが帰って来た。
大人達は大テントにそのまま行って酒を飲むらしい。
子供連れの家族は、キャンプ場内の大浴場に向かう人が多い。
父も小野さん夫婦も、大テントに直行していったので、私は一人で大浴場に行こうと考える。
しかし、アイツが思いつめた表情で走って行った事を圭子さんだけには伝えるため大テントにいる圭子さんの所まで行き、耳元で話し掛ける。
「さっき、身長の事を息子さんに伝えたんですけど、伝えたと同時に走って、何処かに行ってしまって、まだ帰って来ないんです。大丈夫かな?」
予想していた通り、圭子さんは
「大丈夫よ。気にしないでいいわよ。莉乃ちゃんって優しいわね」
「別に優しい訳ではないです。」
取り敢えず伝えたし、お風呂に行こうと歩き出す。
大浴場は、管理棟の所にあるので、さっき行った肝試しの入口の近くだった。
たかが身長の事ぐらいで大袈裟ね。
背が高ければ野球が上手くなる訳が無いでしょ。
世界で一番背が高い人は、どれだけ野球が上手いのかしら?馬鹿馬鹿しい!
私はそんな事を考えながらお風呂に入った。
湯船に浸かりながら、今日1日を振り返る。
アイツのアイスクリームを叩きつけて、アイツが子供を助けて溺れて、アイツが鹿から守ってくれて、アイツが・・・
今日1日でどんだけアイツが出てくるのよ!
自分に突っ込む。
アイツ何処行ったんだろう?
私は、お風呂を出てテントに戻る。
何気なく隣のテントを除くが人毛が無い
まだ帰って来ていないんだ・・・
そう思いながら、自分のテントに入る。
美希にLINEでもしようと、携帯を取り出して、画面に映る時間を見たら、21時を過ぎて22時近くになっていた。
何だか落ち着かない
私は美樹にLINEを打とうとした瞬間、
ポツ、ポツ
テントに雨が当たる音が聞こえた。
その音は、すぐに激しい音に変わる。
結構降ってきた
どうしよう?アイツは、まだ帰って来ない。
傘を持って探した方がいいのかな?
でも、私が心配する事は無いわよね。
自問自答する。
時間が経っても雨の音は激しくなるばかりだ。
もう10時近くなっていた。
もう!せっかくお風呂に入ったのに!
私は2本の傘を持って、テントを出た。
確か管理棟の方に走って行ったわね。
雨足は強く、舗装されていない道なので、雨が跳ね返り、瞬く間に足が汚れる。
あ〜あ。せっかくお風呂に入ったのに
管理棟まで辿り着いたが、アイツの姿は見当たらない。
本当に世話がやける奴!
さすがに一人で山道を登る勇気は無い。
まずはキャンプ場の他のエリアを探しに行く事にした。
キャンプ場入口から管理棟までは私達がいるAブロック、管理棟をそのまま通り過ぎるとB、Cブロックのテントエリアに行ける。
山側には舗装されていない車道があるが、車道は狭く車が通るので、私はテントエリアを突っ切って他のテントエリアに行く事にした。
この管理棟の周りのバンガローがDブロックなので、B→Cへと足を踏み入れる。
まずはBブロックを探索するが、アイツの姿は見当たらない。
続いてCブロックに着くが見当たらない。
結局このキャンプ場の端まで来てしまった。
キャンプ場の端は、工事用ポールが車道まで延びていて、等間隔に「建設予定地」と書かれたプレートが付いてる。
う〜ん、これ以上は無理ね。
ここまでやったんだから、もういいかな?
と自分に言い聞かす。
取り敢えず帰りは車道から帰ろう。
ポール伝いに車道まで歩いた。
車道には「車両通行止め」と書かれた、大きな看板が置いてあった。
大きな看板を見る。
「う~ん、人なら大丈夫だよね」
この場合は立入禁止よね?
看板に向かって、ツッコミを入れて、看板の横をすり抜ける。
通行止めになっている道の奥から、(ユラユラ)と灯りが揺れながら、こっちに向かって来る。
人魂?
目を凝らして見ると、懐中電灯を持った人が、傘もささずに歩いて来るのが分かった。
更にその人影が近づいて来た時、その人影がアイツだと分かった。
見つけた!
近づいて、持ってきた傘を渡したが壊れていて傘が開かない。
しょうがなく相合傘でテントまで戻る事になる
「アンタびしょ濡れなんだから私に触れないでよ」
「分かった」
傘を渡すと勝利が傘を持った。
「何でそんなに身長にこだわってたの?」
「いや、何でも無いよ」
「何でも無くないから、逃げ出したんでしょ!」
私の問いに、観念したのか話し始め、身長が高くなりたかった二つの理由を聞き終えると、我慢していた感情を爆発させた。
「アンタ、馬鹿じゃ無いの?」
「はい?」
「身長が高いとか、別に女の子はそこまで考えないわ!身長が高い女の子で気にする子は確かにいるけど、そこまで考えないわ!
ただ、アンタより大野君の方が魅力的だったって事だけよ。」
「そんな事は、分かってるよ!」
「分かってないわよ。大体、身長のせいにして逃げ出す男に誰が惚れるの?
そんな軟弱な考えをする男なんか、付き合ったってロクな事にはならないわ。」
「そこまで言うこと無いだろ!君が聞きたいって言ったから言っただけなのに」
「結局アンタは、中途半端なのよ!自分の事を見もしないで、何かのせいにしようとしている。
今の自分が全てなのよ。
今の自分で野球も恋愛も勝負しなさいよ!
何かのせいにしてばかりいるから、全てに負けるのよ!」
「・・・」
「まさか、もう背が伸びないなら告白してやれ!なんて考えてないでしょうね?」
「えっ!」
「やっぱり考えていたのね。本当にアンタは中途半端な男ね。」
「僕はアンタって名前じゃない。」
「アンタはアンタよ!話してあげるだけ、ありがたいと思いなさい!」
「別に・・・」
私は睨みながら
「えっ?」
「いや何でも無いよ。」
「それで彼女にフラれたら、野球も辞めるの?アンタの夢って、何なの?」
しばらく間が空き
「僕の夢は、野球と彼女と付き合う事の半々かな」
にやけた表情で話してきた。
この馬鹿!
本当に緊張感が伝わらない。これは親譲りなのか?
「ところで君は、夢はあるの?彼氏は?」
えっ!ここで話を変える?
「私の事は関係ないでしょ!」
「まあ、そうだけど。」
「アンタねえ。なら聞くな!
それと、理由はどうであれ、野球の夢は捨てる必要はないんじゃあないかな。小学校3年から一生懸命頑張ってきたものまで捨てる事は無いよ。
野球の夢は、彼女からの贈り物だと思って、頑張ってみたら?」
「君って、いい事言うね。とても彼氏がいない子だと思わないよ。」
「今の言葉に彼氏は関係ある?
それに私の事を莉乃様か莉乃さんって呼びなさい。アンタに君って呼ばれると寒気がする。」
「分かった。じゃあ母と一緒で、莉乃ちゃんにするよ」
と笑顔で言ってきた。
「もう何でもいいよ」
すると前から声がする。
父だ。
「もう雨は降ってないぞ」
本当だ。
私は傘を勝利から奪い取り、傘を閉まった。
何だか恥ずかしくなり、テントに走った。
テントに着くと、横のテントの前に大野さんと圭子さんが座っている。
圭子さんが話し掛けてくる
「莉乃ちゃん、大丈夫?勝利に襲われなかった?」
親子そっくりだ
「いいえ。大丈夫です。」
キャンプの初日が幕を閉じた。




