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心のこもった美食ディナーと、家族の団らん

 とその時だった、談話室の入り口の扉がノックされた。

 その音に反応したのは筆頭執事のセルテスだ。


「はいどうぞ」

「失礼いたします」


 入ってきたのはセルテスの下で活動する執事の一人であるマルセットと言う男だ。フェンデリオルでは我がモーデンハイム家に限らず、大身な上級候族となると執事が複数存在し、それを束ねる筆頭執事が存在することも珍しくないのだ。


「お伝えいたします。当家ご令孫、エライア様へのご面会希望の方がお見えになられておりますがいかがなさいますでしょうか?」


 それを聞いた瞬間お母様の眉間にシワがよった。


「だれ? その無粋な人間は?」

「はい、中級候族ランセッタ家ご当主ホイテンス様でらっしゃいます」

「そう」


 その名前を聞いてお母様大きくため息をついた。


「理由をつけて追い返してちょうだい。どうせまた、エライアへのお見合い相手の紹介なのだろうから」


 その言葉を聞いた時私は思わず間抜けな声を出してしまった。


「は?」


 一瞬の沈黙の後にもう一つ。


「お見合い?」


 呆気にとられているとお母様は私から少し離れながらこう答えた。


「ええ、月に1度くらいに色々な人が、こちらのお嬢様にふさわしいとお話を持ってくるのよ。18歳となれば結婚適齢期でしょ?」

「そんなまだ早すぎます!」

「ええそうね。あなたのように手に職をつけて働いている女性は婚期を少し遅らせたり、そもそも結婚しなかったりするから、やたらと持ち込まれるお見合い話は私としてもありがた迷惑以外の何物でもないわ。だから今のことは忘れてくしまって構わないわよ」


 この言葉からすると、お母様は私の結婚話を勝手に勧める意志は毛頭ないようだ。


「それを聞いて安心致しました」

「おほほ、当然じゃない。今までいろいろあってなかなか親子として触れ合う事が出来なかったけど、今ようやく水入らずでこうやって形で会えるんですもの、それを誰に邪魔させるものですか」


 そのタイミングを捉えてセルテスが部下の執事にこう命じた。


「お客様にはお帰りいただいてください。丁重に」

「はっ」


 お母様は〝丁重〟と言うところにより力を入れて告げた。それを聞いてその執事は出て行った。

 そしてお母様が言った。


「さて、邪魔者は追い払ったわ。何をしましょうか?」


 無邪気に笑うお母様に私はこう答えた。


「ケーキを食べながら雑談なんてのはいかがでしょうか?」

「良いわねそれ。それじゃあ中庭に行きましょう」

「はい、お母様」


 こうして私たちは親子水入らずの時間を心ゆくまで楽しんだのだった。


 †     †     †


 そこからは特別、お話しすることはあまりない。

 親子としてお茶を飲みながら談話し、

 お母様が私に用意してくれていた屋内着用のデイドレスに着替えたり、

 その際にお母様と一緒に、お母様お気に入りの施術士に全身美容してもらったり、

 それが終わったら音楽室で、モーデンハイム家お抱えの楽士による音楽演奏を楽しんだりと、

 実に色々な方法で余暇を楽しんだ。

 この辺、本当に上流階級の親子の交流そのものに他ならない。二人で外出をしなかったのは、移動する時間を惜しんだから。


 夕暮れになればモーデンハイム家本家に家族待遇の居候として、モーデンハイム家に滞在しているアルセラが学校から帰ってくる。


 アルセラは、西方の辺境領ワルアイユ家の令嬢にして現当主と言う立場にある。彼女の父親である人物が突然命を落としたため、まだ未成年である彼女がワルアイユ家の当主の座を拝命したのだ。


 まあこの辺の年末は、1年以上前に私が中心となってある事件を解決したことがきっかけなので、語ろうと思えば語れるが、サクッと割愛する。そして、3人での談話と、お仕事を終えて屋敷にご帰宅なさったお爺様を交えての夕食ということになる。


 日中、これまでの離れていた時間を取り戻すかのように濃密な時間を過ごしたわたしは、お母様たちの用意してくれた贅を尽くした豪華なディナーで喉を楽しませることになった。


 数種類のきのこをふんだんに使ったクロスティーニ、最初にきのこが出てくるのは私がきのこが好物だから。

 次が東方のフィッサールから取り寄せた海燕のスープ、希少な高級品だが栄養価が高く美容に良いとか、

 魚料理は精術を使った冷凍保存を駆使して南方の海から取り寄せたティヌーソ(クロマグロ)のステーキ、 

 肉料理は魚料理が意外と濃厚なものだったので、ハーブや野菜を鶏肉で包んだガランティーヌ(蒸し焼き)

 口直しのソルベは蜂蜜と柚子の果肉で作られたもので甘みと酸味が絶妙だった、

 そして、最後のデザートは、妹分のアルセラの故郷の定番メニューだったシュネノックレ、メレンゲとカスタードクリームで作る素朴な味わいのデザートだ。

 

 食でお腹を満たすと、定番の黒茶をたしなみながら皆で語らい合う。

 食と言葉を楽しんで、その日のディナーは終りとなる。

 私たちのディナーが終わると、使用人たちの食事の時間となる。そのためこの時間はおとなしく自室でくつろぐ物とされていた。


 私は久しぶりに自分の部屋に戻ってきた。

 幼い頃に与えられた自室だが、3年前に一度出奔して離れて、1年前に舞い戻り、その半年後に再びここから巣立った。2階のバルコニーのある部屋からは夜には星空や月が楽しめた。嫌なことも良いことも、たくさんあった大切な場所だった。


 ディナーのときに来ていたリージェンシードレスを脱いで、肩のこらないコルセット不要のエンパイアドレスに着替える。肩から上にカシミアのショールを羽織り、自室の暖炉の前にてソファーでくつろぐ。

 食の味覚も満足だったが、家族水入らずの夕食は何よりも心が満たされた。

 

「やっぱり、帰ってきてよかった」


 暖炉に火に温められながら夜空の星を眺める。ほっとひと息をつける瞬間だった。

 体中で満足を噛み締めいてたのだが、誰かが私の部屋をノックした。


「はい? どうぞ」

「失礼いたします」

「あら、セルテス。どうかしたの?」


 ノックの主は筆頭執事のセルテスだった。だが彼は真剣な表情で私に告げた。


「おくつろぎのところ大変申し訳ございませんが、御当主様が応接室にてお持ちです」

「分かったわ今行くわ」


 御当主様、つまり私のお爺様だ。

 何事かある――

 そう答えながら立ち上がると、お爺様の待つ応接室へと向かったのだった。


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