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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
幕間:深夜の邂逅 ――逃亡者デルファイと断罪者の2つの影――
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闇夜に佇む2人の強者 ―古《グァ》と正《ヂォン》―

 闇夜の中に(ヂォン)の声が響く。


「甘いですよ貴方、『老鼠語は門外不出、組織の外に読み方を知っている者はいないだから漏洩するはずがない』――そう思ったのでしょうが、あなたは世の中を知らなさすぎる」


 (ヂォン)の声は凄みを帯びていた。その口調の変化にデルファイは不安を隠せなかった。(グァ)はある事実を告げた。


「人物はまだ特定できてねえが、フェンデリオルの最高学府であるドーンフラウに、老鼠語の研究をしていた女の学者さんがいたんだとよぉ」

「え?」

「んで、その学者さんとつながりがあったのはいったい誰だと思う? それを当てたら首の皮1枚繋いでやる」


 闇夜の暗がりの中、2人の強者に見下ろされて、デルファイは心臓を掴まれる思いだった。そして、明確な答えを見つけ出さなければ、2人のうちいずれかからとどめを刺されるのは間違いない。

 誰だ? 一体誰だ? 今の自分を追い詰められる可能性のあるやつは一体誰だ? だがその時デルファイの脳裏にある一人の人物の顔が浮かんだ。


「あ――、まさか制圧作戦を指揮していたあの小娘か?」


 (グァ)がナイフの切っ先をぶらぶらと振り回しながら退屈そうに問いかける。


「思い出したか?」

「は、はい。確か――〝旋風のルスト〟」

「正解だ」


 そして(ヂォン)が詳細を補足する。


「あの有名な女傭兵は想像以上に学術関係に顔が広いらしい。独自のルートで老鼠語文章の燃え残りを調べ上げてそこから次の行動へと繋いだと言います」


 そして、(グァ)がドスの効いた声で脅しをかけた。


「お前がやらかしたヘマが、一体どんな事態を引き起こしたか分かっただろう?」

「ま、まさか。ケンツ博士に調査が?」

「そのまさかだよ! 王八蛋(馬鹿野郎)! ケンツ博士の足取りを追って、今日明日にでもこのイベルタルに乗り込んでくるはずだ! こっちより先にケンツ博士の身柄を抑えられたら、俺の計画は水の泡だ!」


 そして、(グァ)は立ち上がるとデルファイの下腹に足を乗せて踏みつけた。


「このまま蛋蛋(キ○タマ)ぶっ潰してやろうか! この始末どうするつもりだよ!」

「お慈悲を! 今一度チャンスを! もうひとつの私の配下を使ってケンツ博士の身柄を先んじて掌握します! そして今度こそケンツ博士に〝あの極秘物資〟を入手させます! 今度こそ! 今度こそしくじりません! お慈悲を! 古大人(グァターレン)!」


 自らの部下からの懇願の声に(グァ)は口調を変えて穏やかな声で問いかけた。


「次にしくじったら本当に次はねえぞ?」

「覚悟しております! 流れの食い詰め者だった俺を拾ってくれた古大人(グァターレン)への恩義は今でも忘れておりません!」

「本当だな?」

「はい! 天地神明に誓って!」


 デルファイのその声を耳にして、(グァ)は踏みつけていた片足を外した。


「中途半端な混じり者だった半々(パンパン)だったお前を拾ってやってからもう10年以上が経つ。お前はそれ以降、実によく働いてくれた。それに免じて今回の件は許してやる。しかしこれが本当に最後の機会だ」


 半々(パンパン)――混血を意味するスラングの一種だ。デルファイと言う男の出自が分かろうというものだ。

 デルファイは体を起こし、両手を地面について額を地面に擦りつけながら感謝の言葉を口にした。


「ありがとうございます!」

「礼はいい。結果を出せ」

「はい!」


 するとその時、頭上の雲が左右に割れてほんの微かに月灯りがこぼれてきた。


 そして、デルファイと言う男の前に立ちはだかっていた2人の強者の姿があらわになる。


 (グァ)と呼ばれる男は、細面のまるで毒蛇のような鋭さを持つ剣呑そうな男だった。龍の図柄の刺青が彫られた体の上に、漢服の上着を前を閉めずに自らの肉体を晒したまま羽織っている。痩せ型だが、野獣のように鍛え上げられた体をしていた。


 相対する、(ヂォン)と呼ばれた男は、短めに刈り込んだ髪に銀縁の眼鏡、穏やかそうな風貌からは学者のような気配が感じられる。しかし分厚く屈強な体からは圧倒的な迫力が感じられた。


 (グァ)が言う。


「よし、話はこれで終わりだ。アジトに戻るぞ」

「はい、古大人(グァターレン)


 そして、(ヂォン)も語る。


「このまま草むらの中のけもの道を戻って行くのも少々面倒です。ちょうど船もありますし乗せていただきましょう」

「ああ、確かにその方が面倒な少ねえな。おい」

「は、はい」


 デルファイは古に声をかけられて何が求められているかを即座に理解した。


「貨物の運河船ですが、これでよろしければ」


 運河船には東方人の1人の船頭が声をひそめていた。余計な面倒ごとに巻き込まれないように隠れていたのだ。だが、これ以上避ける事は不可能と判断して自ら(グァ)たちを招き寄せる。


「どうぞ、お乗り下さい」

「おう」


 船頭に案内されて貨物船の荷台の覆いの中に身を潜める。偽装された船内は思ったよりも狭くはなかった。(ヂォン)が船頭に命じる。


「トルメント停泊場手前で都市内に入る枝道の水路に向かってください。その後、雑居街近くにて人目を避けて降ろすように」


 その言葉を残して3人は船の中に入り込んでいく。船に乗り込む際に(ヂォン)は袖の内側から高額金貨を一枚取り出すと船頭に投げ渡す。手間賃と口封じを兼ねたチップの一種だ。

 そして、船が出発するのと同時に頭上の月は再び雲に覆い隠されていた。

 都市郊外の草地が再び闇夜に塗りつぶされていく。その闇世の中を3人の男たちは何処かへと消えていったのだった。


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