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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
幕間:深夜の邂逅 ――逃亡者デルファイと断罪者の2つの影――
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逃亡者デルファイ

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■読者様キャラ化企画、参加キャラ■

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橘安正さん  キャラ名:正橘安ヂォン ジュアン

 時は深夜、時計の針が零時を過ぎて、日付が変わろうという時刻だった。頭上に月はなく僅かな星あかりだけが頼りだ。だが都市近郊と言うこともあり、全くなにも見えないわけではない。

 場所は、北部都市イベルタルの南方郊外、イベルタルへと向かう運河水路の支線の1つ、そのほとりに1隻の貨物用運河船が停泊していた。周囲に人影はなく、野原の草むらだけが生い茂っている。その一部に農作業用の荷卸しの護岸が石積みで作られている。停泊した船の荷台にかぶせられた覆い布の隙間から1人の男が姿を現した。

 肌の色は東方人よりはやや白く、髪の色は濃い茶色をしている。東方人と呼ぶには顔の彫りが深く、独特の風貌をしている。髪は長く後頭部で束ねている。瞳の色は茶色でフェンデリオル人と呼ぶのも難しい。

 革靴にキャンバス地のズボン、ボタンシャツに毛皮のジャケット、頭にはジャケットに付属のフードを目深にかぶっていた。

 男は足音を潜めて船から降りると護岸を歩いて、作業用の農道へと足を進めた。月明かりに照らされながら男はその場を離れようとしていた。


 草むらの中にある細い道に気づいて足を踏み入れようとした時だ。道の向こうから二つの人影が現れた。

 船から降りた男は、その二つの人影にたじろぎながら後ずさった。

 先に声を発したのは二つの人影の片割れの方だ。


「どこへ行く。デルファイ」


 長身で痩躯、極めて引き締まったナイフのような筋肉質の体の持ち主だ。月明かりすら乏しいゆえに、その姿の詳細は掴めないが、その左手に鋭いナイフを下げているのはたしかだ。

 月明かりの輝きを弄ぶように、ナイフを振り回しながらその男は船から降りてきた男ににじり寄る。


「どこ行くって言うんだよ? なぁ、デルファイ」


 静かな語り口だが、不快な威圧感がある。どういう風に振る舞えば相手が恐怖を抱くか知り尽くしているタイプの人間だった。男はさらに問いかける。


「デルファイ、まさか俺から逃げようって言うんじゃないだろうな?」


 そう語るとナイフを横薙ぎに振るう。


――ヒュオッ!――


 独特の風きり音を鳴らしながら、男の白銀のナイフは逃亡途中のもう一人の男の鼻先をかすめる。鼻梁の真ん中ほどにかすり傷が生じてじんわりと血が滲んでいる。恐怖のあまりに腰を抜かして、後ろのめりに尻餅をついてしまった。

 そのうえでデルファイと呼ばれた男は死の危険を感じてか、焦りを隠さずに詫びを口にし始めた。


「め、滅相もありません。古 大人(グァ ターレン)、お、俺は――」


 言い訳がましい言葉を並べようとしたときだ。(グァ)と呼ばれた男の隣に佇む丈の長い黒衣の長袍(チャンパオ)姿の巨躯の男が言葉を発した。


「見苦しいですよ。デルファイさん。事実を完結に素直に話せば、古 大人(グァ ターレン)と言えど慈悲を与えるでしょう」


 その言葉に(グァ)は苦笑いする。


「おいおい、(ヂォン)!、それじゃ俺が慈悲もへったくれもねぇ、冷血漢に聞こえるじゃねえか」

「おっとコレは失礼しました」

「まぁ、当たらずとも遠からずだがな」


 軽く笑い声を上げると、(グァ)はデルファイに近づきしゃがんで右膝を地面につく。デルファイの顔を覗き込むようにして距離を近づけた。


「デルファイ、お前、こんな予定と違うところになんで居る? 予定だったら明日の朝にトルメントの停泊場で落ち会う約束だったじゃねーか」

「そ、それは――」

「言えねぇか?」


 (グァ)は吐息がかかるほどに距離を近づける。左手のナイフでデルファイの左頬をヒタヒタと叩きながら語り続けた。ナイフの刃の冷たさがことさらに恐怖感を煽り立てていた。


「言えねぇよなぁ? とんでもないしくじりやっちまったもんなぁ? 俺の機嫌がいい時を狙って言い訳かまさねぇと命すら危ういもんなぁ? 先回り俺の縄張りに入っておいて、様子を伺おうって魂胆だろう?」

古 大人(グァ ターレン)――お、お許しを――」

「許して欲しいって言葉が出るってことは、自分のしくじりの酷さを自覚してるって事だよな?」

「は、はい――」


 デルファイがそう応えるのと同時に、(グァ)はナイフの切っ先でデルファイの頬を微かに切り裂いた。血が滲み、痛みを与えるには十分な傷だった。そして、その痛みにデルファイと言う男は(グァ)と言う人物のいらだちと怒りを感じ取っていた。

 だが、デルファイは悲鳴すら上げなかった。ここで醜態をさらせば最悪な状況になることは分かっていたからだ。

 その時、(ヂォン)と呼ばれた男がある事実を指摘する。


「デルファイさん、あなたなぜ『老鼠(ラオチュー)語』の手紙をアジトに残したのですか? あれは必ず一切の痕跡を残さずに処分するのが組織の定法で決められているはずです。中途半端な燃え残りが、この国の軍警察の手に渡ったと言います。それについての弁明をお聞かせ願いたい」


 (グァ)と異なり、(ヂォン)は理路整然とした語り方で問いかける。それはまるで役人か学者のようである。しかし闇夜の中に浮かび上がる彼のシルエットは巨体と言うにふさわしいほどに上背がある。(ヂォン)に見下ろされて威圧感を感じない者はいなかった。

 デルファイは冷や汗をかきながら必死の思いで弁明をした。


「俺の組織、闇夜のフクロウの表向きの首魁はパリスです。組織が瓦解して制圧されそうになった時、パリスが本当に組織の中心人物であると軍警察の連中に信じさせる必要があった。それで燃え残りの部分をパリスが生活の場に使っていた部屋の暖炉に置いてきたんです」

「なるほど。なるほど。最後まで確実にパリス嬢に全ての責任をなすりつけるために姑息の証拠を残したというわけですね? 指令通りに物事をこなすしか能のないあなたにしてはなかなかお考えになられたようだ」

「は、はい。ありがとうござい――」


 ニヤニヤ笑いを浮かべながら安堵の表情を浮かべていたデルファイだったが。それを遮ったのは(ヂォン)自身に他ならなかった。


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