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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第3話:ルスト人物調査行 ――ケンツ・ジムワースと言う人物について――
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ルストからの懇願と、ブリゲンの詫びの言葉

「局長、実はここだけの内密な話としてお聞きいただきたいのですが?」


 私の態度に疑問をいだいたようだが、それもすぐに押し隠して口を開いた。


「どうした? 何を抱えている?」


 私は言葉を選んで打ち明けた。あの、プロアとのやり取りのことだ。


「私の部下にプロアと言う男がいるのはご存知ですね?」

「あぁ、バーゼラル家の元御曹司だったな」

「はい」


 私の仲間のプロア――、ルプロア・バーカックは、実は本来は別な身分がある。本名はデルプロア・ガルム・バーゼラル、とある上流階級の出自を持っている。


「彼なら知っている。忍び笑いがどうかしたか?」


 忍び笑い――プロアの二つ名だ。


「彼は今回の件で個人的にも動いています。その彼の独自の情報網の中でフェンデリオルの闇社会勢力――特に地下マーケット勢力からの依頼を受けたそうです」

「なに? 地下市場勢力からだと?」

「はい、彼はもともと、闇社会の地下の闇オークションのエージェントをしていました。闇社会でも〝黒鎖〟は猛威を奮っているそうです。そして、その急先鋒として辣腕を振るっているのが古小隆(グァシェンロン)と言う男です」

「先程の密輸事件の首謀者である闇夜のフクロウ、その黒幕とされている人物だな」

「はい、闇社会勢力では彼らにより甚大な被害を蒙りつつあるそうです。彼らはその問題に対抗しようとしているそうです」

「それがどうかしたのか? 闇社会と言えば所詮は犯罪勢力、社会の敵に過ぎん」


 局長は憮然とした表情であっさり突き放した。取り付く島は無さそうだ。だが、伝えるべき事実は伝えなければプロアに顔向けできない。


「わかっています。ですが、彼等からの切実な申し出があるのです」

「――――」


 局長は沈黙してしまった。どうやら答えを選んでいるようだ。このまま無視されれば、それはそれで諦めるしか無いだろう。そう思ったときだった。


「つまり『古小隆(グァシェンロン)を追い詰めるために全精力を傾けるので、その一点においてのみ協力して欲しい』と言う事か?」


 彼の口から出てきたのは、私が伝えようとしていた事実だった。あっさり言い当てられたのであっけにとられてしまう。


「ご存知だったのですか?」

「いや、状況から類推しただけだ。闇社会勢力と正規軍勢力は不倶戴天の敵同士だ、絶対に相容れん。だが、対立の壁を超えて、手を結ばねばならない時はかならずある――、そう今までの経験から見い出しただけのことだ」


 あっけにとられるよりも感心してしまった。その洞察力に局長の経験の深さと確かさを私が感じた。


「それで、局長の考えは?」

「そうだな、必要なその時が来れば情報提供と制圧行動、この2点において協力するのはやぶさかではない」

「では」

「協力しよう。私も防諜部第1局としての本来の任務を全うしよう」

「ありがとうございます」


 私は立ち上がり頭をふかぶかと下げた。


「喜ぶのはまだ早いぞ。こういうことは根回しが必要だ。軍警察にも話を通しておかねばならん。協力するそのタイミング、それを正確に測り、我々と彼らの橋渡しをするのは――」


 そうだそれはきっと、


「私ですね?」

「そうだ」


 局長は表情を緩めて語り始めた。


「ルスト、いいか覚えておけ」

「はい」

「世の中を守るのは表社会の正義だけでは成り立たん。時には、その国、社会に見合った〝裏の社会の力〟も存在することが重要になる」

「はい」

「理想論だけで世の中を浄化してしまい、裏側を綺麗にしてしまうとそこに新たな別の力が入り込んでくる。そうなると世の中はさらに乱れる」


 その話を聞いて私はあることを気づいた。


「裏の社会には裏の社会の秩序を守る一定規模の力が必要と言う事ですね?」

「そうだ。どんなにこの世を綺麗にしても、悪事を働いて不当な利益を得ようとするものは必ず現れる。ならば、今ある闇の勢力を消し切らずにうまく制御することも重要になってくるのだ」

「〝必要悪〟の考え方ですね」

「そういうことだ。これから先、この世界で生きていくためにはそれが極めて重要になる。手を結ぶ相手を常日頃から見極める目を養っておけ。いいな?」


 これは教えだ。大切な教えだ。

 局長は私に国防活動という世界で生きていくために必要なことを手を取るようにして教えてくれている。その意味でもこの人は私にとって大切な師匠であるのだ。

 ただそこで彼は意外な事を口にした。


「すまない。お前にはもっとじっくりと時間をかけて国内案件で経験を積ませるつもりだった」

「えっ?」


 それは彼が私に対して秘めていた想いだった。


「2年から3年、国内案件を中心としてお前に諜報捜査官としてのキャリアを積ませ、それと同時に特殊部隊イリーザを独立部隊としての格を上げる。そうすることでお前たちの〝独立性〟を確かなものにしてやりたかった」


 だがそこで彼は大きくため息をついた。


「しかし、状況がそれを許さない。正直言おう」


 そこで彼が吐いたのはとても大きなやるせなさだった。


「私自らヘルンハイトに乗り込んで、あの国の貴族連中を皆殺しにしてやりたいと思ったよ」


 物騒な物言いだ。だがそこに彼が私に対して抱いている思いを垣間見た気持ちがする。


「ルスト、想定より早い国外任務になってしまうが、今まで以上に支援策を講じる。そのためにも現時点で必要な行動はしっかり済ませておけ。いいな?」

「もちろんです。準備が出来次第、イベルタルに向かいます」

「頼むぞ」

「はい」


 次の行動は決まった。今度は〝北〟だ。

 フェンデリオル最大の商業都市イベルタル、

 そうで私は人探しをすることになる。その難易度はこれまで以上に上がるだろう。

 しかし、やるしかないのだ。


 と、その時だった。

 応接室のドアがノックされた。


「はい」

「失礼いたします、お話終わりましたでしょうか?」


 メイラだ。何かあったのだろうか?


「ええ、終わったけどどうかした? どうぞ入って」

「失礼いたします」


 ドアが開けられ侍女のメイラが中に入ってくるなり深々と頭を下げる。


「ブリゲン様、失礼ですがご朝食はお済みですか?」

「いや、まだ済ませていない」

「お忙しい身の上だとお聞きしてましたので、ご朝食を済ませていないのではと思い、簡単なものをご用意しました。いかがでしょうか?」


 さすがメイラ、状況を読み取って必要なことを先回り用意する。侍女や執事には重要なスキルだった。

 メイラからの申し出に局長もまんざらではなさそうだ。


「ありがたくいただこうか。これでも一人暮らしでね、朝はつい抜いてしまうんだ」


 私は笑いながら言う。


「駄目ですよ。朝はちゃんと取らないと」

「そうだな」

「それでは2階へ」


 私たちは必要な話し合いを終えると、雰囲気を新たに2階のリビングへと向かった。そして、私たちは朝食を交えながら会話を楽しんだのだった。



 †     †     †



 朝食を終えて局長は礼を言いながら、隠れ家から去っていく。玄関まで見送ると局長はメイラに告げる。


「美味しい朝食ありがとう。久しぶりに楽しんだよ」

「そう仰っていただけて光栄です」


 そして私にも語った。


「とりあえず、まだ未到着の情報があるな?」

「はい、捜査対象者の資金回り関連です」

「その情報が来るのに2日はかかるだろう。その間に顔を出せるところに出しておけ」

「えっ?」


 私が言葉の意図を理解できずに惚けていると、局長は苦笑しながら言った。


「北に行く前にお袋さんに会っておけという意味だ。次に動けば、帰ってくるのに1ヶ月2ヶ月はかかるかもしれんからな」


 それもそうだ。イベルタルの次は北同盟国ヘルンハイトだ。そうなれば簡単に帰ってくることはできない。


「ありがとうございますそうさせて頂きます」

「ああ、お前のお袋さんのミライルさんによろしくな」

「えっ?」


 そう言い終えると、ロングコートを羽織り、私の隠れ家から出て行く。


「ではな」


 そう言葉を残して彼は去っていく。だが、そこに局長はひとつの疑問を残していった。


「局長、なんで私の実家のお母さんのこと、知っているのかしら?」


 なぜなら、私の母親というのは、誰もが気軽にそう簡単に会える存在ではないからだ。ひとつの疑問を残しながら、状況はまた次へと動き出したのだった。


「メイラ」

「はい。2日ぐらいは時間が取れるから久しぶりに実家に戻るわ」

「承知しました。お母上様もさぞお喜びになられると思います」


 そう語る彼女の言葉は嬉しそうだった。

 もっともこれはこれで大変なことでもあるのだが。


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旋風のルスト・外伝 ―旋風のルストに憧れる少女兵士と200発の弾丸の試練について―
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