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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第3話:ルスト人物調査行 ――ケンツ・ジムワースと言う人物について――
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ルストに下された2つの命令

 局長もさらなる悪化した状態というのは頭に浮かんでいたらしい。


「国境侵犯の危機とそれに対する認識の遅れ。しかし同盟各国は危険な状況を冷静に認識している。この違いが同盟関係に亀裂を生じる可能性は極めて高い」

「おっしゃるとおりです。そしてその次の段階として、現在のヘルンハイトの政権を否定し、これを排除しようとする動きが出るでしょう。そうしなければ同盟各国のチームワークで維持してきた国家間平和の状況を脅かしかねないからです。そうなれば最終的にたどり着くのは、同盟各国間における紛争の勃発です」

「つまりは【世界大戦】か」

「はい」

 

 考えたくはないが、ありえない話ではないのだ。

 そしてもう一つ考えられる状況がある。それを口にしたのはブリゲン局長だった。


「それにだ、敵対国家であるトルネデアスなら、この状況は渡りに船だ。ヘルンハイトの状況をさらに悪化させるべく何らかの工作を行なっていたとしてもおかしくない」

「むしろ行われていると認識するべきです。それがあるからこそ、あの国の混乱は深刻化しているのだと思うのです」

「わたしもそう思う。ならば私がお前に下す命令は一つだ」


 局長はある一つの考えに至った。私に右手の人差指を指し示しながら告げた。


「ルスト、ヘルンハイトに向かえ。その目でヘルンハイトの現状をつぶさに見て来い。その情報をもとにして我がフェンデリオルがどう動くべきか判断しなければならん」

「おっしゃる通りです。私もその必要があると思います」

「よく言った。だが、その前に」


 局長はもう一つの事実を指摘した。


「ヘルンハイトの内情を詳しく知っている人物が一人いるな」


 私はその人物の名前を口にした。


「〝ケンツ・ジムワース博士〟ですね?」

「そうだ。彼の身柄を抑える必要がある」

「重要証人として」

「そうだ」


 だが、そのためには大きな障害があった。あの連中だ。


「しかしながら、ケンツ博士は現在、黒鎖の勢力から接触を受けようとしています。そしてもっと深刻な状況として非常に攻撃性の強い指揮官がフェンデリオルの黒鎖に派遣されているという事実です」


 それは古小隆の事だ。おそらくはその男が問題解決と鍵になるのは間違いないだろう。


「その連中と戦いながらの状況になるということか」

「その可能性は非常に高いと思います」


 それを踏まえた上で私は局長にあることを求めた。


「局長、私が先行して現在ケンツ博士が滞在していると言うイベルタルに向かいます。そこでケンツ博士の所在が把握でき次第〝私の仲間〟の召喚を行うことをお許しいただきたいのですが」


 局長は少し沈黙していたが、落ち着いた声で答えてくれた。


「ケンツ博士の身体拘束の際に戦闘リスクが生じる可能性があるのであればお前単独では厳しいだろうな」


 そして局長ははっきりと頷いた。

 

「よかろう。お前の判断でのイリーザ部隊員の召喚を認める」

「ありがとうございます」

「もっとも俺としてはそうならないように願っているよ」

「善処します」

「うむ」


 一通りの会話を終えて局長は今後の行動を示唆した。


「お前はイベルタルに飛べ」

「ケンツ博士の身体拘束ですね?」

「最終的には。その前に身辺状況調査を徹底的に行え。彼の周囲にどんな人物がいるのか? 正確に把握するんだ」

「はい」

「何より現状として、博士と黒鎖との接触が、一方的なものなのか、双方で臨んだものなのか、見極める必要がある」


 その言葉を聞いて私は局長に問いかけた。


「局長はケンツ博士が自ら黒鎖に接触した可能性があるとお思いですか?」

「可能性はゼロではない。もしそうならこちらも覚悟を持って臨む必要がある」

「了解です」


 こればかりは同意するよりほかはないだろう。


「博士をめぐる状況が最悪を極めている以上、彼自身が支援してくれるのであれば相手は誰でもいいと判断を誤っているかもしれません」

「そういうことだ」

「心得ました。注意して事にあたります」


 局長は頷いてくれた。


「私は独自にヘルンハイトについて調査を開始する」

「局長が? ヘルンハイト方面は、傍聴部の第3局の担当では?」


 フェンデリオル正規軍の情報部門である傍聴部には複数の部局がある。

 ブリゲン局長は国内総括の第1局

 第2局が東方国家であるフィッサール方面、

 第3局が北のヘルンハイトで、

 第4局が南のパルフィア方面となる。


「これは私の判断だが、ヘルンハイト方面を担当している〝傍聴部3局〟はまともに機能していないはずだ。まともに機能していれば今回お前が集めてきた事実は既に把握されて当然だからだ。しかしそれはこちらへと伝わってきていない。それが何を意味しているか分かるな?」


 私は一瞬息をのむと意図的に落ち着いて答えた。


「ヘルンハイト政府筋との癒着の可能性ですか?」

「その可能性は高いだろう。ヘルンハイト政府が信用ならない状態にあるというのであればなおさらだ」


 死体掘りが死体になる――、他国の領内に潜入して極秘情報を集めなければならない諜報捜査官が、逆に相手側に懐柔されて飼いならされてしまうということは決して珍しくない。だからこそ、通常は人員を長期間配置せずに定期的に入れ替えるのだが、それでも裏切る者は裏切るのだ。


「金か物かは分かりませんが、目の前の利益に眼がくらんだのでしょうね」

「おそらくな。まぁ、第3局の問題は別ルートで対応しておくよ。さて――、いいかルスト」

「はい」

「ここから先は、誰が味方で誰が敵なのか、判別が難しくなる。くれぐれも気を抜くなよ? 一瞬の気の緩みが命取りになるぞ?」

「わかりました、こちらもそれを前提に行動しようと思います」

「頼むぞ、くれぐれも慎重を心がけるようにな」

「はい」


 私の局長のやり取りは一つの答えを見た。それぞれに成すべきことが見えたのは僥倖だった。

 だが、まだ伝えるべき事実がある。

 私は居住まいを正して局長をじっと見つめながら語りかけた。


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