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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第3話:ルスト人物調査行 ――ケンツ・ジムワースと言う人物について――
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ルストの掴んだ世界の情報と、危機的な〝答え〟

「もちろんです」


 私はここでキッシーム記者からえられた情報を開示した。


「そもそも現在のオーソグラッド大陸をめぐる軍事情勢は急速に変わりつつあります」

「例えば?」

「科学技術の発達による軍事侵攻ルートの新たな開拓です」

「新たな軍事技術の獲得か」

「はい」


 私は頷いたが、そこで話は終わらない。


「しかし軍事技術だけではありません。海洋航海技術の発達も影響しています」

「〝海〟か? 問題のカギは?」

「はい」


 私は一呼吸おいて順番を説明した。


「これまで、海の領域において最も強い勢力を持っていたのが、南方の海洋国家である〝パルフィア王国〟そして、北の凍てついた海を支配していたのは北方の国家〝ジジスティカン王国〟

 これに対し、敵対国家である〝トルネデアス帝国〟は砂漠での歩兵戦闘に特化した国家です。海の領域においては一歩遅れていました」

「そうだな。だからこそ連中は大陸を横切って我々の国を攻めるしかなかったのだ」

「その通りです。ですがその状況が変わりつつあります」


 私のこの言葉にブリゲン局長の表情に驚きと焦りが浮かんだ。


「トルネデアスが船舶技術を発達させたということか?」

「はい」

「やはりそうか」

「やはり?」

「うむ」


 局長が語り始める。


「トルネデアスの軍事戦略が陸上だけではなくなってきていると言うのは、フェンデリオルの軍上層部でも盛んに語られている。ただ現段階ではその可能性が議論されている程度に過ぎない」

「しかし! そんな悠長なことを言ってる場合ではありません」

「分かっているとも、敵側に決定的な切り札が出てきたのだろう?」


 その鋭い問いかけに私は頷く。


「はい。トルネデアスは〝砕氷船〟を建造する技術を手に入れました」

「なんだと?」

「科学技術関連に明るいジャーナリストの方から得られた最新情報です。正規軍が表社会の情報ルートでその事実を知る頃には、大陸の北側から既に上陸を成功させているでしょう」


 いつでも沈着冷静なあの局長が驚きを隠さずにいる。それほどまでに重い問題なのだ。

 私は身を乗り出して強い口調で訴えた。


「今この段階で手を打っておかなければ大変なことになります」


 そこでブリゲン局長は沈黙に入った。右手を自らの顎に当てて視線を落としている。長考に入ったのだ。

 長い沈黙の過ぎた後にようやくに声を発した。


「大陸の北側で海岸線を持っている国家は3つしかない。トルネデアス、ジジスティカン、そして〝ヘルンハイト公国〟だ」


 これまでの会話で出てきていなかった国の名前があらわれた。


「我々フェンデリオルと北側で国境を接するヘルンハイト公国、その地理的条件からこれまでは帝国の侵略を受けてこなかった。極めて険峻な山脈地帯に阻まれて西からの軍事行動を阻んできたからだ」


 私も頷いて言葉を続けた。


「それに加えて、ヘルンハイト公国の北側海岸地帯は、荒涼とした凍結の大地です。森林地帯もなく一年を通じて流れる寒流に阻まれて人跡未踏の死の大地とされてきました」


 ブリゲン局長が反論する。


「しかしそれも、トルネデアスが耐寒技術を持っていないと言う前提のもとに成り立つ考え方だ。おそらくは砕氷船とそれを運用するために必要な耐寒装備を手に入れつつあるだろう」


 局長の額に冷や汗が浮かんでいた。


「問題はこれを解決するのが、我が国フェンデリオルではないと言う事だ!」

「その通りです。我が国だけでなく兄弟国であるヘルンハイト自身がこの問題に対して危機意識を持ち、早急なる対応に乗り出さなければならないのです! ですが――」

「ですが?」


 私の発する声に局長は驚いていた。ヘルンハイトの現状に垣間見た致命的な問題を説明する。

 私は、これまでに新聞記事などから得られた情報を切り抜き集めていた。応接室へと持参していた資料を開いてそれを局長に指し示した。


「ご覧ください。最近の日刊の新聞から切り抜いて集めたヘルンハイト公国関連記事です」


 私はそれらを指差しながらかいつまんで説明する。


「一つ一つの記事はご覧いただくとして、これらの記事から読み取れるのは、ヘルンハイトという国では国家中枢レベルでの国の統制が取れなくなりつつあるという事実です」

「ふむ――」


 局長は私の話を聞きながら一つ一つの記事に目線を走らせていた。


「まず目につくのが金融機関や経済団体がヘルンハイトから距離を置こうとしている事実です。また経済そのものが不況下にある事を示す傍証もあります。あの国の経済が円滑に回っているのであればこんな記事が載ること自体があり得ません」


 金融機関による融資の敬遠、倒産件数の増大、いずれも深刻な事態を示しつつある。

 局長は落ち着いて言葉を吐く。


「国家状況低迷の基本だな」

「はい、問題はそれだけではありません。例えばここ」


【フェンデリオル使用人協会連合会、ヘルンハイトへの越境就労への警告とアドバイスをまとめる】

 

 私はフェンデリオルの使用人協会が発した談話のところを指し示した。ヘルンハイトへの使用人派遣に対する注意喚起だ。


「使用人協会? ヘルンハイトは貴族階級が存在する。そいつらに使用人を供給する連中だな」

「はい。通常であれば越境して出稼ぎをするのは決して珍しくありません。ですがフェンデリオルの使用人協会が隣国ヘルンハイトへの使用人の派遣を控えるように求めています。つまりこれは『現状のヘルンハイトに使用人として勤めることが非常に危険』だと言うことを示しています。とても尋常な状況ではありません」


 局長は冷静に言葉を返してきた。


「国や民族によって身分に対する考えの違いはあれど、普通の上流階級であるなら――


『使用人という存在があってこそ上流階級はその生活の質を維持できる』


――と言う、現実は最低限は頭に入っているはずだ。そうでなければ使用人は必ず逃げる。ひどい目に遭ってまで働きたくはないからな」

「普通であればです」

「そうだ、逆を返せばそれだけヘルンハイトの貴族階級への奉公が、普通ではないリスクを背負っているということを意味している」

「はい。ここから考えるに、間違いなくヘルンハイトの貴族階級が腐敗しています」


 私の考えはまだ続いた。


「そして何よりも一番気になったのはこれです」


【ヘルンハイト公国、国家永世騎士団。退団者急増】


 私が指差したのはヘルンハイト公国の国家防衛の要である〝国家永世騎士団〟の異常事態についてだ。


「退団者急増?」

「はい、トルネデアスの国境侵犯が北の海から迫ろうとしているこの時期においてです。ありえるでしょうか?」


 ブリゲン局長は顔を左右に振った。


「もし現状を正常に認識してるのであれば絶対にありえん。人員を増強するか同盟各国に対して支援を求めるはずだ。しかし、それが為されていないと言うことは国家そのものの情報収集能力がまともに機能していないということを意味している」

「あるいは、利敵行為的な思惑があの国の中で動いてるかです」


 そして局長は深刻そうな表情を浮かべた。


「まずいな。非常にまずい状態だ」

「私もそう思います」


 そして私はさらに言った。これまでの情報を統合した答えを。


「ケンツ博士が国外移籍した今回の件と、ヘルンハイト公国の国情不安の件は、何らかの繋がりがあるはずです。そこに隠されている問題の本質を解決しないと事はもっとさらに深刻な状況へと進んでしまいます」


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