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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第3話:ルスト人物調査行 ――ケンツ・ジムワースと言う人物について――
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新聞記者『キッシーム・ワイマーズ』

 入り口玄関をくぐって階段を上る。2階フロアにあるドアをノックする。


「はいどうぞ」


 中から声がして私は声をかけた。


「失礼いたします」


 ドアを開けて中に入る。


「キッシームさんいらっしゃいますか?」


 中はオフィスになっていた。ドアの入り口近くにジゴ袖のブラウス姿にロングスカートという2ピース姿の受付秘書らしき女性が控えていた。

 その他に二人ほどそれぞれの机で原稿を書いている。そして窓際の一番良い場所に陣取っているのがオフィスの主であるジャーナリストの彼だった。


〝キッシーム・ワイマーズ〟


 鋭い視点の記事を書く有能な新聞記者だ。

 特定の出版社に所属せず独立したオフィスを持ち、いくつかの新聞社や出版社と契約を結んで記事を提供しているのだ。

 私が実家に居たときの幼い頃からの付き合いだ。不躾で失礼なところが無く、紳士的で良識をわきまえた取材が好感が持てた。何より報道して良い事と悪いことの区別がつく、そういう人物だ。

 そのため上流階級界隈では彼の取材なら受け付けると言う人も少なくないという。


 普段から取材に歩き回っているためか、ほどよく日に焼けた肌と、整髪料(ポマード)でしっかりと手入れされた栗毛の髪が特徴的だった。

 シャツにボタンベストにネッカチーフネクタイ、腰から下にはズボンに革靴と最先端のファッションに身を包んでいる。

 新聞寄稿用の原稿書いてたのだろう。ペンを走らせていたその手が止まる。顔を上げて私の方に声をかけてきた。


「やぁ、いらっしゃい」

「お久しぶりです」

「珍しいね。君が僕のところに来るなんて」

「はい。少々お聞きしたいことが」

「わかった。僕でよければ何でも」


 手からペンを離して立ち上がるとオフィスの中を横切る。向かう先には別な扉がある。応接室だ。

 彼は入り口近くに机を置く秘書に声をかけた。


「応接室を使う。誰も近づけないでくれ。それとお茶を二つ」

「承知しました」

「来たまえ中で話そう」


 私も応接室の中へと向かった。彼と向かい合わせに座り会話が始まる。


「それで話とは?」

「この写真を見て頂きたいんです」


 私は持参したケンツ博士の顔写真を応接テーブルの上に置いた。


「ケンツ・ジムワース博士、最近北の同盟国からフェンデリオルに移籍してきた製鉄工学の学者です」


 彼は写真を眺めているとすぐにピンと来たようだ。


「ああ、彼か」

「ご存知なのですか?」

「ああ、有名な人物だ。熱狂的な平和主義者としてね」


 彼は軽く溜息をつくと写真を手に取った。


「戦禍に見舞われる可能性のない平和の国ヘルンハイト、その中でも筋金入りの戦争反対主義者だ。僕たちの業界でもすこぶる評判は悪い」

「なぜですか?」

「ん? 君なら分かるだろ? それくらい。この国はこれまでも、そしてこれからも戦火に向かい合いながら生きていかねばならない」


 彼が真剣な表情で私を見つめ返してきた。


「そもそも、我がフェンデリオルは〝地政学〟的に見ても、戦乱が避けられない」


 地政学的――、私が寝室でいつも眺めている世界地図に見ているものだ。

 彼の応接室のメインテーブルの片隅には小さめの世界地図がさりげなく置かれていた。いかにも、世界情勢を積極的に取り扱うキッシーム記者らしいインテリアだ。

 それを眺めながら会話は進む。


「それは私もよく存じてます。西からやってくる巨大な国家の力、国の北と南には山地があり、東側には複数の国家、それらに挟まれた状況にあって敵対国の進軍ルートに国土が存在するからです」


 彼はうなずく。


「その通りだ。国家を築くにあたっては最悪の場所と言っていい。そうなれば否応にも自分たちの身を守るための軍事力を常日頃から養っておかねばならない。それがフェンデリオルと言う国の宿命だ」


 そこまで話した時に秘書の女性が現れて温かい黒茶をテーブルに置いていく。彼女が姿を消して会話が続いた。


「そんな状況の国で軍隊を否定する発言をして、居場所が確保できると思っているのなら、おめでたいとしか言いようがない」

「本当にその通りです。

 今調べているのは、彼がなぜ我が国にやってきたのか? です。彼ほどの人物であるならそもそも国家が手放さないはずです。私が政治家であるなら国家予算を割いてでも保護します」

「そうだな。普通はそうする」

「ということは、彼の母国であるヘルンハイトでは、そうでなかったと?」

「その通りだ。ここだけの話、彼も厄介払いされたんだ」

「えっ? なぜですか? 彼の持っている知識と技術は民生用に限定したとしても極めて有効であるのでは?」

「そうだな。ヘルンハイトがこれまで通り非交戦主義を守り通しているのならな。だが世界の情勢は急速に変わりつつある」


 そう告げて彼は立ち上がると壁に貼ってある世界地図の傍に立ってそれを指さした。

 彼は私に視線を向けながら語り始める。彼の取材に基づく政治知識が流れ始めた。


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