表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第3話:ルスト人物調査行 ――ケンツ・ジムワースと言う人物について――
66/445

3段ケーキスタンドと正規軍への噂話

 私とレミチカが応接セットの席で向かい合わせに座る。ロロはレミチカの少し斜め後ろで静かに立っていた。

 私たちが席についたのを確かめて応接室の片隅に佇んでいる他の侍女にロロが指示を出す。おそらくお茶とお菓子を用意させるのだろう。


 それをよそにレミチカとの会話が始まった。

 先に言葉を発したのはレミチカだった。


「それにしても、大活躍らしいじゃない? いろいろ聞こえてきてるわよ。フェンデリオル正規軍の依頼を受けて難事件を次々に解決しているって」

「そんな、それほど大それた仕事はしてないわよ。正規軍の内部では処理することが難しいしがらみの多い仕事を押し付けられてるだけよ。何しろ、正規軍はいつでも人手が足りてないから」

「それ私も聞いたことあるわ。とりあえず頭数は何とか揃ってるけど、高難易度の難しい案件を解決できるだけの〝頭〟と〝才覚〟を持った人間が圧倒的に足りてないって」


 それを言われて私は思わずため息をついた。


「それを言われると辛いわ。それは違うって言い切れないだけにね」


 私の言葉にレミチカが驚いたような顔をしている。


「え? 冗談じゃなくて?」

「ええ。人手不足は本当の話よ。何しろ以前の元帥閣下がお人好し過ぎて軍を私物化するタチの悪い連中に美味しい所を全部食い荒らされてたから」


 私が何を言ってるかをレミチカは気づいていた。


「ああ、去年起きた〝ワルアイユ動乱〟ね」

「ええ」


 私がそう答えると私とレミチカの間に沈黙が訪れた。その時をとらえるようにロロが飲み物持ってきてくれる。

 フェンデリオルで定番である黒茶ではなく、南洋の方から運ばれてきた海外産の紅茶だった。ほんのりとやわらかな香りが漂ってくる。

 それに続けて出されたのはケーキスタンド。三段になったトレイの上に古今東西の様々なお菓子が並べられている。

 私とレミチカの目の前に紅茶のカップと取り皿が置かれる。

 レミチカが私にすすめてきた。


「さあどうぞ」

「それじゃあ遠慮なく」


 私が手にしたのは中にカスタードクリームがたっぷり入ったシューケーキ、シューの皮の外側にはシュガーパウダーがたっぷりとかかっている。

 レミチカもミルクレープをトレイに取る。

 それを食しながら会話は進む。


「とにもかくにも、仲良しこよしで正規軍の中枢を固められたのが一番痛かったわ。私のお爺様もかなり手こずったみたいね」

「あなたのお爺様、ユーダイム候ね」


〝私のお爺様〟――、ひと癖もふた癖もある人物なのだがこの人について語るのはもう少し後にしよう。


「ええ、正規軍の中央幕僚本部に相談役として復帰したけど、不正行為を働く輩を摘発するだけでもかなりの時間を費やしたって言ったわ。優秀な人材を食い物にしてふんぞり返ってる豚が多すぎたのよ」


 私がそう言葉を吐いたとき、レミチカがなにか思い出したかのように言った。


「そう言えば、あなたの部隊の隊員にいらっしゃったわね、バルバロン様と仰ったかしら?」

「よく覚えてるわね」

「ええ、あまりに衝撃的な話だったからね。軍務に忙殺されている間に奥様が恋愛詐欺に引っかかり、その事実に逆上して詐欺師ともども手をかけてしまった」

「あれね? あれは未だに前線の兵士から上層部を批判する象徴として槍玉にあげられてるそうよ。つまり、


『上層部は士官たちの家族の保護も出来ないのか?』 


――ってね。他にも下級中級の候族出身のお坊ちゃん軍人が現場を振り回して兵を無駄に消耗したりとかもあったし。とにかく優秀な人材が軍の外に流出しすぎたのよ」

「その究極の行き着いた結果が〝ワルアイユ動乱〟ね。まったく恥ずかしい限りだわ」


 レミチカは過去の大きな事件を思い出し、ため息をついた。

 私がさらに言う。


「そういうことね。軍の中枢に居座ったネズミが正規の証拠書類そのものを軍の中枢の内部で偽造、それをもとに何の問題もない辺境領の乗っ取りを画策したあの事件よ」


――ワルアイユ動乱――


 1年前の真夏に起きた国境侵犯事件だ。

 国境沿いの領地ワルアイユが、隣接する大領地の領主の謀略により乗っ取りを画策され、その手段として国家重要物資であるミスリル鉱石の国外横流し疑惑をでっち上げられ、それを理由にワルアイユ領の強制占領が行われそうになった事件だ。

 その乗っ取りを指揮していた中心人物らの一人が正規軍の中央本部の幹部の一人だったということが世の中に衝撃を与えたのだ。

 あの時のことを思い出しながら私は呟く。


「あの時にフェンデリオル正規軍への信頼は大きく傷ついたわ」

「でも、それを救ったのは当時のあなたじゃない。ワルアイユ領と祖国を救った救国の英雄として」


 その言葉に私は苦笑した。


「そんな大それた事したと思ってないわ。私は目の前の出来事を必死になって乗り越えただけよ。何しろ、黒幕の陰謀を打ち破らないと、私自身も国賊の犯罪者として処刑台に送られていた可能性もあったからね」


 私の言葉にレミチカは言った。


「そうね。敢えてこう言わせてもらうわ、生還おめでとう」

「どういたしまして。でも信頼のおける仲間や、自分の実の妹みたいな可愛い身内もできたからそう悪いことばかりではなかったけどね」

「たちの悪い〝毒父親〟も退治できたわよね」

「ええ、逃げ回る生活にも終止符を打てたしね」


 冗談めかして私たちは笑いあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
関連作品リンク .
【旧作】旋風のルスト
逆境少女の傭兵ライフと無頼英傑たちの西方国境戦記
Link⇒第1部:ワルアイユ編
Link⇒第2部:オルレア編
旋風のルスト・外伝 ―旋風のルストに憧れる少女兵士と200発の弾丸の試練について―
▒▒▒[応援おねがいします!]▒▒▒

ツギクルバナー
【小説家になろう:ツイッター読了はこちら】
小説家になろうアンテナ&ランキング
fyhke38t8miu4wta20ex5h9ffbug_ltw_b4_2s_1 cont_access.php?citi_cont_id=541576718&size=200 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ