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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第2話:助命への道 ――死刑囚パリスと救済者ルスト――
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グリムゲート監獄 Ⅸ ―ルスト帰還、ブリゲン再び―

「ルスト、よくやったな」


 局長はニヤリと笑いながら言う。


「俺の予想を越えてドでかい成果を上げてきたじゃないか」


 私は答える。


「お褒めに預かり光栄です」

「ああ、俺も鼻が高い。報告を読んだ軍警察本部のお偉方が片っ端から真っ青だったよ」

「そうなんですか?」


 私はしれっとして言う。


「当たり前だ。主犯を捕まえて終結したと思っていた案件が、実際には主犯と黒幕が別にいて、今なお逃げおおせていたのだからな。即日捜査本部を再度開くことになった。主犯の人物と組織のパトロンとされる人物の捜査と逮捕を目指してな」


 その言葉聞いて私は苦笑しながら言う。


「まさに最初からやり直し――ですね」

「ああ、組織のトップが誰で、どうやって組織が運営されているか? それらは作戦が実行されるまでに把握されてしかるべきだ。だが今回はそれが達成されておらず、捜査活動実態は大きく間違っていたことになる」

「非常に恥ずべき状態です」

「そうだな」


 パリスが組織のトップではないお飾りであること、ナンバー3のはずのデルファイが組織を掌握していたこと。せめてこれくらいは強制制圧行動が開始される前に実態把握が完了しているのが本来あるべき状態なのだ。

 局長は言う。


「おかげで軍警察にたいして、ソルシオン元帥閣下は苦言を呈しておられた。メンツ丸つぶれの軍警察も捜査本部を最召集して捜査を一からやり直すそうだ」


 ソルシオン元帥とは、フェンデリオル正規軍の事実上のトップであり、参謀本部を掌握する立場にある人物だ。そして私の表向きの上司でもある。

 私は日の光のさす部屋の中で局長に言う。


「妥当な判断です。それでは私もそちらに合流するのですか?」

「いや、それはいい」

「えっ? どういうことですか?」


 その言葉のあとに意外な言葉を聞いた。


「お前にはもう一つ別な案件を調査してもらう」


 私は心の中で〝そらきた!〟と思った。だがそれと同時にそうなるのは時間の問題だった。

 私には心当たりがあった。


「〝ケンツ・ジムワース〟と言う人物の追跡と調査ですね?」


 私の問いかけにブリゲン局長ははっきりと頷いていた。


「察しがいいな。その通りだ」


 局長は自らの机の中から一枚の調査書を取り出す。


「ケンツ・ジムワースとは、最近になり北同盟国のヘルンハイトから越境移籍してきた大学教授だ」

「大学教授? 学者さんですか?」

「そうだ。製鉄工学の世界的権威らしい。この国の最高学府であるドーンフラウ大学にて教鞭を振っているそうだ」


 私はそこまで話を聞いて


〝大学教授〟

〝最高学府〟

〝闇組織〟

〝黒鎖〟

〝接触命令〟


 これらのキーワードが自らの頭の中で瞬間的につながった。それで私の心の中を冷たいものがよぎった。


「まずい!」


 局長は真剣な表情で私に言う。


「お前もそう思うか」

「はい。黒鎖とつながっている組織の幹部に、この大学教授の人物への接触命令が下っていたことになります。一体どのような目的で接触を図ろうとしたのか? 突き止めなければなりません」


 特徴は頷きながら言う。


「それだけではない。黒鎖の連中の暴力的な手段から言ってケンツ博士の身にどんな危険が降りかかるか想像すらつかない」

「最悪、命の危険があり得ます」

「そういうことだ。ただし、この案件に関して正規軍や軍警察の人間を簡単に動員するわけにはいかない」


 これについても良くわかる。物的証拠をもって事件として取り扱える段階ではないからだ。

 軍警察が動くのは明確な証拠がある時だ。

 現時点では今回の案件に関しては状況証拠に基づく推測でしかない。


「だからこそ、我々が動くべきなのだ」

「おっしゃる通りです。局長」


 正規軍や軍警察に対して、諜報部門である防諜部の立ち位置とはそう言うものなのだ。


――危険や事件を可能性の段階から摘み取る――


 それが防諜部であり軍外郭特殊部隊と言う物の存在意義だった。

 局長は自らの机の中から支給金の手形証を取り出しながら言う。


「2日ほど短期休暇を取った上で、ケンツ・ジムワース博士の身辺状況についての調査を始めろ。調査の結果、更なる対応が必要な場合は私への報告の上で適時対応する。いいな?」


 私は必要経費となる支給金の手形証を受け取りながら答えた。


「了解しました。速やかに行動開始いたします」

「頼んだぞ」

「はっ」


 そんなやり取りをしながら私は次の任務を受け取った。その時、局長が言った。


「しかし、お前の仲間連中は自分たちが休みを取っているのにお前がこうやって仕事をしているの知ったらなんと思うかな?」


 半ば苦笑しながらそう語る局長だったが、私も苦笑いするしかない。


「まぁ少なくとも局長に対して黙っていないのは間違いないと思いますが?」

「だろうな。何か起きればその時は連絡してこい。言い訳を用意しておくよ」

「その時は是非お願いします」


 私たちはそんなやりとりを交わしながら、報告を終えた。

 その後、局長は邸宅内で早めの昼食をおごってくれた。コーヒーとパスタ料理とブリストと言う組み合わせ、歯ごたえのある硬めのパンも美味しかった。

 私は礼を述べると早速次の任務へと向かうのだった。


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