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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第2話:助命への道 ――死刑囚パリスと救済者ルスト――
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グリムゲート監獄 Ⅵ ―偽装処刑―

 それから数日間、私はグリムゲートに滞在した。

 事の顛末を見届けると同時にパリスを無事に出獄させることも任務だからだ。


 処刑が行われたのは面会をしてから三日目の朝だった。速記官に案内されて処刑場に向かう。

 40フォスト(約72メートル前後)四方の何もない場所。唯一死刑囚を固定するための鉄の柱が建てられている

 周囲の壁の一つに覗き窓が設置されている。死刑の様子を観察するための場所だ。

 私はそこで息を潜めてじっと待つ。すると処刑場を囲む壁の扉のひとつからパリスがあらわれた。あの黒い布の袋を被せられ灰色の木綿の服を着せられている。

 当然周りは見えないから、看守に誘導されて連れてこられた。誘導しているのは尋問の時に居合わせたあの人だった。


 パリスをあの鉄の柱に立ったまま縛り付ける。最後に布の袋を少し捲り上げて顔を確かめて準備は終わりだ。

 彼が出て行き、小銃を持った3名の看守が現れる。パリスと相対する位置に彼らは立つ。


 そして銃口を上にして待機していると、もう一人看守が現れる。

 尋問時に居合わせたもう一人の看守だ。木製の小さな箱を持っておりそれを開くと金属薬莢式の弾丸が三つほど入っていた。それを処刑役の看守に一つ一つ渡していく。

 3人に行き渡ったのを確認していよいよ準備が終わる。弾丸を持ってきた看守が壁際に控えて佇み、声を上げる。


「弾込め!」


 小銃はボルト閉鎖式の最新型。閉鎖を開いて弾を中へと入れる。


―ガシャッ―


 金属が打ち付け合う重い音がする。弾がセットされたのだ。


「構え!」


 三つの銃口がパリスを狙う。間髪置かず声が発せられる。


「撃て!」


――パ、パァン!――


 引き金が引かれ、弾が撃たれ、パリスの体に赤色の小さな点が三つ浮かび上がる。そこに処刑場の隅に控えていたあの看守が歩み寄る。

 脈を取り死亡を確認する――ふりをする。少し時間を置いて彼は宣言した。


「死亡確認、処刑終了」


 その言葉と同時に処刑役の看守が出て行く。そして、それと入れ替わりに木造りの簡素な棺が持ち込まれる。

 鉄の柱からパリスが解放され二人がかりで棺の中に横たえられる。棺の蓋が閉じられて、四人がかりで棺は持ち出された。

 こうして問題なく処刑は執行された。


「よし」


 次の段階だ。今度は棺の中のパリスを遺体を装って外へと運び出さなければならない。私は急いだ。


 パリスのほんのわずかな私物が私に渡される。すると棺は軍用馬車にすでに乗せられていると言う。荷物をまとめて馬車に向かう。私を見送ってくれたのは今回終始、協力してくれたあの二人の看守だ。


 正面入り口前で二人とやり取りを交わす。


「それではこれで、死刑囚パリス・シィーア・ライゼヒルトの死刑執行を確認したと同時に、処刑後の遺体をお預かりいたします」

「ご苦労様です」


 私も彼らに言葉を返した。


「お役目ご苦労様です」


 その時、彼らの口元に静かに笑みが浮かんだような気がした。


 軍用馬車に乗り込み監獄から出ていく。

 吊り橋を渡り険しい山道に入る。そして見張り台から見えなくなるまでおとなしくそのまま馬車を走らせた。それからしばらく走ったところで周囲に誰もいないのを確認した上で私は馬車を止めた。

 急いで荷室に回り込み、棺の中を確かめる。するとそこには。


「パリス、大丈夫?」


 声をかけると少し疲れたような感じで声が返ってきた。


「はい、なんとか」


 そこには服を赤い塗料で汚したパリスが横になっていた。彼女は死んでなんかいない。無事に出獄を果たしたのだ。


「疲れたでしょ?」

「はい。すごく緊張しました。それに弾が本物だったらどうしようってすごく怖かったです」


 その恐怖は当然といえば当然だ。


「でも、処刑の際にあまりにリラックスされて安心されても変に思われるのよ。そのためには不安に怯える状況も必要なの」

「はい。分かります」

「そういう事だから、安心してゆっくり休んでちょうだい」

「はい」


 棺のふたを閉じて馬車を走らせる。

 そして私たちはそのまま最初の監視所へと向かったのだった。


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