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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第2話:助命への道 ――死刑囚パリスと救済者ルスト――
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グリムゲート監獄 Ⅴ ―ルスト、真実にたどり着く―

 聞きたいことは、あともう2つある。


「もう一つ、この燃え残りの文章から〝ケンツ・ジムワース〟と言う人物名が浮かんできたんだけど聞き覚えない?」

「ケンツ? 闇夜のフクロウにはそういう人は関わっていませんが、でもデルファイがそういう名前の人物を相手に何かをしていたようです」

「その内容とは?」

「さぁ、ただ恐喝のようなことをしていたと人づてに聞かされたことがあります」

「恐喝か――」


 その言葉が妙に引っかかった。国を売り飛ばすような大罪に加担するような男がチンケな恐喝をするだろうか? そしてそれがこの老鼠語の文書に書かれている案件なのだ、ただの恐喝であろうはずがない。


「もっと大きい事件につながってるわね」

 

 そして私はため息を付いた。


「今回の事件はまだ終わってないわね。むしろもっと根深いものよ」


 その時だ、看守の一人が口を開く。


「私的発言をお許しください」


 監獄の看守は発言が制限されている。囚人の収容に影響を与える可能性があるからだ。だが、私的にどうしても発言したい場合にはこう一言断ってから述べるのが約束だった。


「どうぞ、発言に同意します」

「恐縮です。今回の54号は発令されて幸運だったと考えます」

「えぇ、私もそう思うわ。彼女から今の証言を聞かなければ、今回の案件の捜査はこれで終了していたもの」

「隠された事実が明らかになる。これも司法取引の場においてはよく起きることです」

「えぇ、そうね」


 わたしは彼に頷いた。

 そしていよいよだ。あの事を聞かなければ。


「パリス、最後にも一つ。聞くわよ」

「はい」

「今回の精術武具の密輸出事件、実行を決断したのは誰なの?」


 これが一番重要だった。全員の視線がパリスに注がれていた。注目されているその意味を理解しているのか、彼女は慎重に言葉を紡いだ。


「それは、闇夜のフクロウの実質的パトロンである古小隆(グァシェンロン)が持ち込んだものです。これをデルファイが受け取ったのですが、流石に彼でも迷っているようでした」

「それで?」

「私は、実質的にお飾りで実権はありません。重要な局面はすべてデルファイが牛耳ってましたから。それでも部下たちが慕ってくれてるから我慢していました。でも、古小隆からの要求がエスカレートして行くにつれて、彼を後ろ盾にしているデルファイも横暴に振る舞うようになりました。もう限界だと思っていたわたしはデルファイが古小隆に答えを渋っていた場で半ばヤケでこう言ったんです」


 パリスはそこで息を飲み、こう言った。


「〝やっちゃいなよ。この国に一泡吹かせられるだろうしさ〟って。私がそう口にしたことで組織の部下たちも盛り上がりました。そう言う状況でデルファイは態度を明確にせざるを得なくなりました。そして、アイツはいいました、『この案件を引き受ける』って」


 よし、これでいい。これで言質はとった。


「速記官、今の発言記録したわね?」

「はい、記録しました」

「看守のお二人も聞きましたね」

「はい」

「明確に」


 彼女がけしかけたと言う形ではあるが、実際に案件を受け取り、実行を決断したのはデルファイと言う男なのは確定した。

 私たちのやり取りを驚いてみているパリスにわたしは言った。


「つまり、古小隆なる人物が持ち込んだ計画を、引き受けて実行に移したのはデルファイ・ニコレット――そう解釈してよろしいのですね?」

 

 パリスはわたしが話した言葉の意味を理解したようだ。ハッとした表情を経て彼女は言った。


「はい。それで間違いありません」

「結構です。司法取引を成立させるに値する証言が得られたと判断します」

「では?」

「ええ、あなたはもう死刑囚じゃないわ。あなたには未来が残っているのだから」


 私のその言葉を聞いて、パリスはようやくに笑顔を見せたのだった。



 †     †     †



 司法取引が成立したことで、その瞬間からパリスは極刑判断から除外されることになる。

 私は彼女に今後の流れについて説明した。

 すなわち偽装処刑と監獄からの移送処置だ。


「ぎ、偽装処刑?」

「ええ、グリムゲート監獄では銃殺刑が採用されています。その際に石膏で作った模擬弾と血のりを使って本当に処刑されたと言う状況を作ります。その上で遺体を装ってこの監獄から搬出いたします」


 さすがにパリスも不安があるようだ。


「本当に大丈夫なんですか?」

「私たちを信じて。と言うよりあなたが私たちを信じてくれないとここから先はうまくいかないのよ」

「はい――」


 不安に顔を曇らせる彼女に私は言った。


「あなたの事件に黒鎖が関与していると分かった以上、あなたは生存していると言う事実を絶対に外部に漏らしてはいけない。生きていると分かれば絶対に暗殺者が送り込まれてくる。これはあなたを守るために絶対に必要な処置なの」


 迷いを見せていたが真剣な表情で彼女は答える。


「はい。皆さんを信じます」


 そこで看守が告げる。


「処刑は数日中に日の出とともに行われます。

 なお、速記官を含めて、ここにいる人間しか特別判断基準54号の件は知りません。他の看守はあなたを通常処刑と同じ扱いをいたします。恐ろしいでしょうがこの監獄を出るまで耐えてください」

「はい。わかりました」


 そして、


「エルスト特級、これにて面会を終了させていただきます」

「ご同行ありがとうございました」


 そして再びパリスの手に枷がハメられる。表向きは死刑囚のままなのだから当然だ。


「パリス・シィーア・ライゼヒルト、面会終了だ。独房に戻す」

「はい」


 パリスは素直に求めに応じた。またあの目隠しのための黒い袋が用意される。この監獄の中での位置関係を把握されないためにこの黒い布袋が使われると言う。


「ルストさん」

「ええ」

「本当にありがとうございました」


 その言葉と同時に袋が彼女の頭に被せられる。そして尋問室から彼女は出て行った。


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