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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第2話:助命への道 ――死刑囚パリスと救済者ルスト――
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グリムゲート監獄 Ⅳ ―独白、パリスの過去―

 そして、パリスは自らの過去を滔々(とうとう)と語りだした。

 それは悲惨というより他はなかった。


「私は、家を乗っ取られた後、財産も何もかも。着る物すらむしり取られて本当の裸で娼館に売り飛ばされました」


 彼女が震えている。心の奥底に隠した恐怖と苦しみが彼女を襲っている。私は自ら手を伸ばして彼女の手をそっと握った。


「私が売り飛ばされた娼館は本当にひどいところで、折檻や虐待はあたりまえ。売上が悪いと食事が出ないこともありました。衛生や避妊なんかでたらめで、病気になるのもしょっちゅう」


 そこで彼女は涙を流す。


「今までに2度妊娠して、その度に折檻を受けて無理やり流産させられました。医者の診察ではもう二度と子供を産めないだろうと言われました」


 人として、女性として、尊厳の何もかも奪われる日々。世の中の何もかもを呪わずにはいられないだろう。

 私は自らの過去の中からあることを話しはじめた。


「娼館では、本来なら病気と妊娠については細心の注意を払うものなの。病気は命に関わる、妊娠は娼婦の価値を下げる。まともな経営感覚を持った人なら娼婦には無理をさせないものなのよ」


 私の言葉に驚いてるのがわかる。


「えっ? なぜわかるんですか?」

「私もね、下働きだけど娼館で働いていたことがあるの。事情があって実家を逃げ出して正体を隠して暮らさなければならなかった。そこでとある娼館に匿ってもらったの。だから娼館のある花街の裏事情は大抵のことは分かるのよ」


 そして私は言う。


「時々、あなたが囚われたようなひどい娼館があるのよ。死亡者を出して問題になるの」


 私の言葉に頷いてパリスは言葉を続けた。


「このままでは殺される。そう感じた私は隙を見て娼館の裏口から、ほとんど下着姿で逃げ出しました。雪の降る日で凍死してもおかしくなかった。でもそうするしかなかった」


 でも彼女の地獄はそれで終わりではなかった。


「凍りついた道の上を裸足で歩いた。あっという間に足の裏が凍りついて血だらけになった。でも、戻れば今度こそ殺される。そう考えたら戻るわけにはいかなかった。でも、不幸は畳み掛けてきた。逃げ出した私を質の悪い男たちが襲ってきた。誰もまともに助けてくれなかった。ああ、このまま死ぬんだ。そう思った時だった。あの人に出会ったのは」

「誰に出会ったの?」

「窃盗団の首領、イグナス・カーバイト。半死半生で死にかけていた私を助けてくれた。意識を失って事切れていた私は、気づいたら清潔で暖かいベッドの上で治療してもらっていた。食事もやっとまともなものを食べさせてもらった。涙にまみれてたけどあの時のパンの味は今でも忘れない。

 そして、あの人は言ったの『行き場所がないならいくらでも居ていい』」


 それはパリスが救いの手を差し伸べられた瞬間だった。


「そして、その組織に身を置いたのね」

「はい。窃盗団〝みみずくの爪〟規模は決して大きくなかったけど凄腕が揃っていた。私は助けてくれた恩返しと生きていくために、窃盗と密売の世界に足を踏み入れたそれが15の時」


 彼女は更に続ける。


「転機が訪れたのはそれから1年後。それなりに実力を身につけていく中でいつしか私はイグナスの親父さんの片腕になっていた。自分でも驚くほどの実力を示すようになっていた。私自身が現場の指揮をとることもあった。このままこの世界で生きていく自信をつけた時だった。あの事件が起きたのは」

「何があったの?」

「組織の乗っ取りです。当時組織のナンバー2の地位にあった男がイグナスの親父さんを謀殺して組織を乗っ取ったんです。表向きは事故死を装って。そして私はその男にこう言われました。『殺されたくなかったら、お前がこの組織を統率しろ。お膳立てはしてやる』って。

 事実上の傀儡になれという話でした。拒否はできなかった」


「どうして」

「その男〝デルファイ・ニコレット〟は、裏で東方系の闇社会と繋がっていたから」

「闇夜のフクロウのナンバー3ね?」

「はい。絶対に目立たない位置にいつも控えていて、組織の利益はしっかりと持っていく。そういう抜け目のない男です。今回の事件でも自分一人だけは独自の逃走ルートを確保していたはずです」


 私は記憶を掘り返した。


「ええそうね。ほとんどが逮捕されたか処分されたけどその男だけが行方不明になってるわ。手段は分からないけど逃げおおせたと軍警察では考えているわ」


 その言葉を聞いて彼女は言った。


「その燃え残りの文書はデルファイが持っていたものです」

「やっぱり。もしかしてデルファイって男、黒鎖(ヘイスォ)の構成員だったんじゃない?」

「おそらくそうだと思います。一度だけ、デルファイの上役の男に会ったことがありますから」


 重要情報が出てきた。黒鎖の上部の人間が関与していたのだ。


「名前はわかる?」

「はい。〝古小隆(グァシェンロン)〟、デルファイがそう漏らしていました。今まで私が会った裏の世界の人間とは比べ物にならないくらい凄みを持った人でした」

「なるほど。やっぱりフィッサール由来の黒鎖の息のかかった幹部がいたのね」

「仕事の一部はその人からデルファイが受けていたようです。そういう時にデルファイが受け取って読んでいたのがそう言う文書でした」

「ちなみにあなたはこの文書読める?」


 彼女は顔を左右に振る。


「いいえ。読めません。デルファイは誰にもその文字の読み方を教えませんでしたから」


 そうなると事情は難しくなってくる。組織に黒鎖が関与していたことになるのだ。しかも、黒鎖の構成員だった人物が逃げおおせた。


「デルファイと言う男は闇夜のフクロウがあの場所で壊滅することを読んでいたのね」

「おそらくそうだと思います」


 そうなると彼女の潜伏した部屋でこの燃え残りが見つかったというのは、黒鎖とのつながりを彼女に擦り付けるためにこれみよがしに残したのが妥当だろう。


「その男、あなたに全ての責任と罪を被せるために、この燃え残りをあなたの所に置いてったのね」

「そういう男でした。あまりの小狡さに人望はほとんどありませんでしたから」


 なるほど、想像通りの人物だった。

 私は腑に落ちざるを得なかったのだ。


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