夜戦争LⅩⅩⅩⅩⅢ パック、虎の男と遭遇する
「お前がいなくなって次の大会では俺が賜杯を手にした。だがそれはあまりにも虚しい結果だった。なぜだかわかるか?」
「ええ、分かります。私がいないからです」
「そうだ! 龍の男――白王茯! あの戦いにおいて俺にかなう男はお前しかいないのだ!」
それは怒りを帯びた言葉だった。そして、深い悲しみを伴った言葉だった。
「お前のいない武林に何の意味があろう、どんなに技を磨いてもこの俺を満たしてくれるものは誰もいなかった」
「そして私の後を追って国を出たのですか?」
「そうだ」
「それがあなたがこの国にいる理由ですか」
「その通りだ」
1つの疑問は解けた。しかしもう一つの疑問が解けない。
「ではなぜあなたが、あなたほどの男が! あのような連中と一緒にいるのですか!? 自らの拳を汚しているようなものではないか! なぜ、黒鎖の者たちと行動を共にしているのですか?」
それは義憤だった。見過ごせない理不尽だった。
「私が戦った武魔衆の者たちは主に拳による拳打を中心に技が組み立てられていました。このやり方は正 橘安あなたの流派です。彼らはあなたの弟子ではないのですか?」
「そうだ。少々出来の悪い弟子だがな」
「ええ、技のキレがない。戦いの駆け引きにおける裏読みができていない。自らよりも弱い者をいたぶるには優秀でしょうけど。誰かを守るために自らよりも強い存在に立ち向かう力は持っていないでしょう」
「なるほどよく見ているな。どんなに教えても頭が悪いので飲み込みが悪くてな。それでも強くなりたいと頭を下げて教えを請うて来る。無碍にはできなかった」
「それで彼らを弟子にとったと」
「ああ」
そこで一呼吸おいて正は尋ねてくる。
「時に白王茯お前は弟子は取らないのか?」
その言葉にバックは顔を左右に振った。
「いいえ、私は弟子はとりません。ですが理由あって教えを請うて来る者にはそれぞれの事情を鑑みながら可能な限り指導してやることがあります」
「弟子としては取らないのだな」
「ええ、弟子と弟子でないものとで分け隔てはしたくないのです」
「お前らしい言葉だな。自由を尊び、無欲であろうとする」
「あなたはどこまでも真っ向から自らの意思を通そうとする」
「その通りだ」
「そんなあなたがなぜ、あのような汚れた道を歩いていたのですか? 今それがどうしても納得できない」
心の底から吐き出した義憤をパックは正にぶつけた。それに対して帰ってきた言葉があった。
「汚れた道か、その通りだな。だが私がこの道を歩いているのはお前のためでもある。白王茯」
「私のため?」
「そうだ」
それは前であると同時に新たな疑問だった。パックの心の中に疑問と不安が同時に沸き起こった。