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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第2話:助命への道 ――死刑囚パリスと救済者ルスト――
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正規軍防諜部・極秘幹部庁舎 Ⅳ ―闇夜に潜む黒い鷹―

 私は歩みを進める。慎重に、周囲を警戒しながら。

 この邸宅はとある歴史のある上級候族が暮らしていたマナーハウスだった。

 上流階級の邸宅に忠実な構造をしている。

 正面入り口から入って左の一番奥に吹き抜け構造の舞踏館がある。本来であれば来客を招いて、晩餐会や祝賀会を行うのだろうが、今この邸宅は局長が極秘の私的な事務所として用いている。

 舞踏館も、それに倣い、ある程度の加工を施されて戦闘訓練室として用いられている。中央廊下から繋がる両開きの重い木製扉も裏側に防音処置が施されている。

 音や気配だけでは中で何が行われているか把握することはできない。


 扉の前に佇んで、私は軽く呼吸を整える。体にこもる無駄な緊張は力みを生む。力みは無駄に繋がる。

 力を抜き大きく息をする。


 そして左腰に下げた愛用の武器を抜いた。


――戦杖(スタム)――


 ロングのハンマーステッキ形状の打撃武器、 

 私たちフェンデリオル人の民族武器の一つであり、庶民の護身用ともされている。


 私のすぐ隣に先ほどのブライセン副官が控えてくれていた。私に同行してくれたのだ。

 私が右腰から抜いた戦杖に彼の視線が向く。彼は私に問いかけてきた。


「戦杖ですか?」

「はい」

「それにしては通常のものより長いですね。通常は1ファルド6ディカ(約60センチ)くらいですが?」

「私のものは2ファルド(約75センチ)はあります。実戦で何度も改良を加えながらこの長さにしたんです。素材も何度も吟味を重ねた軽金属製です。軽さと丈夫さと硬さを兼ね備えた逸材です」


 するとブライセン副官が言う。


「優れた傭兵や軍人というのはその人固有の戦闘技能を持っているといいます。武器を見ればそれが分かりますから」

「ありがとうございます」


 私は彼に感謝の言葉を述べた。自然に彼が左腰に下げた刃物にも目線が行く。


牙剣(バイン)ですね?」

「ええ、片手用に長さを調整したものです。諜報任務と言う性格上、あまり大きなものは持ち歩けませんから」


――牙剣(バイン)――


 これも私たちフェンデリオル人の民族武器の一つだ。肉厚で刃峰と握りが一体で作られているのが特徴だ。総じて全て片刃であり両刃は存在しない。

 

――両刃の直剣は敵の武器――


 数百年以上に渡り敵対している異民族の固有民族武器が両刃の直剣だからだ。これは私たち民族の古い記憶として染み付いているものなのだ。

 会話を終えてブライセン副官が私に言った。


「ご武運を」


 うなずき返しながら、私はその右手で、愛用武器である戦杖(せんじょう)をしっかりと握り直す。

 銘は無銘ながら、れっきとした精術武具だ。そして、首から提げているのは光精系の精術武具の〝三重円環の銀蛍〟

 自らの装備を確かめ終えると。私は左手で扉を押した。


 扉が開く時、音は無い。

 無音のまま舞踏館の中へと足を踏み入れる。意外にも全ての窓には分厚いカーテンが下してあり、外部の光は制限されている。薄暗がりの夕暮れ時といった雰囲気だろうか。

 室内の床には何も置かれていない。だだっ広い空間が広がっているだけだ。

 ただ、舞踏館の内部の左右の壁には大理石の柱があり身を隠せそうで、1番突き当たり正面には壁一面に据えられたパイプオルガンが堂々と鎮座している。


 私は首から下げた三重円環の銀蛍を外すと左手でしっかりと握る。

 いつ襲いかかられても準備は万端だ。

 

 そして、舞踏館の中ほどに来たときだ。

 

 自分のその背中に鋭く冷たいものを感じ取る。それは危機感の報せだ。


 とっさに前方ヘと倒れこむように前転して転がる。それと同時に体制を整え直し立ち上がり、さらに距離を稼ぐ。

 見渡せばそこには一人の人物が佇んでいた。


 それはとてもよく響く美しい低音の声で語りかけてくる。

 それはとても強く威厳を持った声だった。


「よく、かわしたな」


 私の眼前に佇んでいたのはブリゲン局長だった。

 濃紺のボタンシャツに黒いダブルボタンのベスト、上着は黒のスペンサージャケットだ。その上に革ジャケットコートを羽織っている。

 右腰には、まだ公式には支給すらされていないはずの雷管式のリボルバー拳銃がホルスターに収められている。

 彫りは深く、目つきは鋭く、よく手入れされたあごひげをうっすらと蓄えている。

 髪は黒、瞳は翠。

 その風貌は人ではなく1羽の〝鷹〟を思い起こさせる。


 その漆黒の衣装は、この薄暗い空間の中で、夜の闇夜に溶け込むようにそのシルエットを曖昧にしている。

 革手袋越しに握られているのは、一振りのナイフ。それもつや消しの黒色仕上げで光の反射は全くない。

 装備のすべてが徹底して自らの姿をおし隠す事に特化しているのだ。


――夜の闇に潜む黒い鷹――

 

 それが彼の異名の由来だった。

 彼はそれ以上何も語らない。鋭く私を睨みつけて右手に握りしめたナイフを腰脇に静かに引き絞る。


――!!――


 私はその動きに戦慄する。

 何らかの攻撃のアクションだと直感したからだ。

 私は直感する。


――まさか、精術武具?!――


 私たちの国にはある特殊な武器がある。

 それが〝精術〟と呼ばれる精霊科学体系を駆使した精霊武器(エレメンタルウェポン)【精術武具】だ。


 私が持っている無銘の戦杖や三重円環の銀蛍はその一例だ。

 風火水地の4大精霊をはじめとする多彩な属性を持ち、それぞれの武具がそれぞれに特化した特性を持っている。


 三重円環の銀蛍は光精系、

 私の無銘の戦杖は地精系、


 ブリゲン局長が手にしているのは――


 局長がひき絞っていた黒いナイフを前方へと突き出す。それと同時に目に見えない威圧のようなものが飛んでくる。


「くっ!」


 私は自分の体をとっさに傾けてかわした。左の肩口を目に見えない斬撃が飛んでいった。


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逆境少女の傭兵ライフと無頼英傑たちの西方国境戦記
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