夜戦争LⅩⅩⅩⅨ 乱戦、傭兵たちの怒り
だが彼らは語り合う。
「手加減する必要なんかねえよ。何しろこいつらは俺たちフェンデリオル民族の歴史の足跡を爆破したんだからな」
「〝独立記念塔〟か」
「ああ、消火作業やってる正規軍の連中に聞いたが完全な瓦礫になってるそうだ」
その言葉を語る時、彼のみならず職業傭兵の彼らの顔に一様に怒りの形相が浮かんだ。
「350年かけた独立の歴史の証拠が石ころの塊かよ」
「どんだけ火薬ぶち込んだのか、柱1本残ってねえってよ」
1人の職業傭兵の男が右手に握りしめた牙剣が汗で滑り落ちるのを握り直す。
――チャッ――
それと同時に目の前から両刃直刀の剣を振りかぶった1人の蒙面が迫ってくる。
それを真っ向から迎え撃ち上方から振り下ろされた剣を、牙剣の握りの柄の方で弾いていなすと、手首の返しで刃峰を翻し、さらに数歩を一気に踏み込んで敵の首の付け根目かけて振り下ろして切り裂いた。
――ザバッ!――
敵を1人屠ったことが戦いのさらなる勢いとなった。
「押し返せぇ!!」
鋭く響く怒号を受けて職業傭兵たちはさらなる勢いを駆って追撃に向かう。
「おおお!!」
だが、後詰めで加勢してきた40名の蒙面たちも負けてはいない。
薄刃の両刃の直刀である剣を2本両手に携えて襲いかかってきた。
剣を2振り持つことの意味は、片方を防御とし、もう片方を攻撃とするためである。1対1で敵と向かい合ったとしても相手が1本の武器しか持っていないのであれば、片方でそれを受け、もう片方で相手に致命傷を与えることができる。
その布陣には、敵を確実に削り取るという意図が隠されていたのだ。
精術武具を駆使して数の面での不利を押し返そうとする職業傭兵たち。
数の優位性と確実に敵にダメージを与える事を意図した蒙面たち。
その様相は混戦へと向かいつつあった。
刃の刃が真っ向からぶつかり合い、熾烈な鍔迫り合いが始まる。
その最中、カークは声をかけられた。
「カーク殿」
「パック?」
「すまないがここを離れる。後は任せた」
どこへ行くとは尋ねなかった。何かやることがあるのだろうと事情を察した。
「分かった。気をつけろ」
「片付けない」
そう言葉を残して足早にかけていく。それでも通りすがりに武魔衆の残党の1人を、軽身功による跳躍の後、鋭い蹴りの2連撃で頚椎をへし折っていく。
しっかりと果たすべき役目はこなして行った。そして彼は周囲の建物の脇路地へと姿を消していく。まるで何かを探すかのように――
彼らが熾烈な戦いを続けているその真上では、トゥフとタクトが最後の仕掛けを発動させようとしていた。
4階建ての建物の屋上の外れ、真下からの視線を避けるように身を潜めていた彼らだったが、真下の戦いの様相はしっかりと経過を見守っていた。
トゥフがつぶやく。
「始まったぞ! 双方が真っ向からぶつかり始めた」
「分かった」
そしてタクトは腰に下げた愛用の精術武具である〝天装のコルネット〟を取り出し、両手で構えると眼下を見据えた。
「周囲異常なし、いつでも行けるぞ」
トゥフは彼の補助として周囲の状況に注意を払っている。
「よし、行くよ」
「おう」
意識を集中させ精術を発動させるための理論を頭の中で構築し実行する。
天奏のコルネットは無詠唱で機能を発揮させる。タクトは自らの頭の中に攻撃対象を見据見据えて、大きく息を吸いんだ。
――パァアアアアアアアアッ!!――