夜戦争LⅩⅩⅩⅦ タクトとトゥフ、策を練る
「急げこっちだ!」
そう声をかけながら先を行くのが騎馬自警団隊員のトゥフ
「分かった」
それを遅れて追うのが金管楽器型の精術武具を愛用武器とするタクト
2人は連れ立って建物の屋上を歩いていた。物影を利用し、自らの姿が地上から見えないように配慮しながら慎重にあゆみを進める。
一歩一歩前に進みながら、ようやく彼らは屋上建物の道沿いのところへとたどり着く。
そして、建物屋根の構造物を巧みに利用しながら身を隠して眼下の今日の様子を伺い見たのだった。
先に声を発したのはトゥフだ。
「まずいぜ、かなり数を減らしている」
それに問いかけるのがタクトだ。
「どっちが?」
「もちろん、華人街だ」
2人揃ってそっと静かに地上を眺める。するとそこには混迷を極める眼下の戦場の様相が余すところなく映し出されていた。
タクトがつぶやく。
「やはり、一般市民の義勇兵と、完全な戦闘のプロでは、大きな違いがあるか」
華人街の警備役の若者たちが人垣を作り侵入を阻止しようとしていたが、どんなに見事な武器を持とうとも、生粋の戦闘集団である武魔衆の男たちが相手では戦力差は明らかだった
「まずいなこのままじゃ完全に突破されるぜ」
「ああ」
不安げに先行きを思案していると状況に変化が現れた。
ルストの仲間であるパックとカークが現れて並み居る敵を次々に撃ち落とし始めたのだ。
「すげえ」
そう声を漏らすのはトゥフだ。タクトも声を漏らす。
「あれは〝龍の男〟! またの名を〝絶掌のパック〟!」
「そうかあれが、タクトも知ってるんだろ?」
「当然さ」
「おいおい、一気に7人も潰しちまったよ。一切の迷いもなくて流れるように技を決めていく。とんでもねえな」
「ああ、あの人はアデア大陸の武術大会で頂点を極めた人だ。これくらい造作もないよ」
状況が変化した。華人街側の指揮官である艮大門が撃破されたから、華人街側は統率を失い瓦解しつつあった。
だがそれを流れを断ち切り状況的不利を一気にひっくり返したのは紛れもなく龍の男だ。
数の優劣を鮮やかに逆転すると、彼の存在に気づいた街の若者たちが続々と現れて再び戦列を作り始めたのだ。
「いいぞこれなら――」
「いやそれは甘いぜ」
「え?」
「あれを見ろ」
トゥフがさりげなく指を差せばその方向には見慣れた革マスク頭の黒い集団がそこかしこに隠れているのが見えた。
「あれはー蒙面!」
「ああ、二重三重にいやらしいあいつらのことだ。何かしら手を打っていると思ったけど、まさか数のゴリ押しで来るとはな」
トゥフがそんな言葉を吐いていれば、その傍らでタクトは思案していた。
「あれが戦場に参加するとして、数の面で行けば確かに黒鎖勢が有利になるのは間違いない。それを阻止するためにはどうすれば――」
ブツブツとつぶやいていたがタクトは何かひらめいたようだ。
「そうか革マスクだ!」
「えっ?」
「トゥフ! いい案を思いついた! 手を貸してくれ」
「おう、それで何をするんだ」
「うん、戦闘領域全体に音による攻撃を仕掛ける。ただし! 潰れるのは革マスクのあの連中だけだ!」
「何か良い案を思いついたんだな」
「ああ、あいつらならではの秘策だ。ただし、戦闘が始まってから出ないと仕掛けられない」
「連中が顔を出してこないとどうにもならないってわけか」
「その通り、そのためには今少し気配を消して待たなければならないな」
「了解、チャンスを待って息をひそめるのも立派な兵法だよ」
「ああ」
そして2人は秘策を仕掛けるその時を息を殺してじっと待ったのだ。
自らの精術武具をいつでも使えるように準備をしながら――







