夜戦争LⅩⅩⅩⅣ 義侠の男たち
しかし、それらの言葉を持ってしても、敵の戦う意思はついえなかった。
武魔衆の1人が大きく指笛を鳴らした。
――ピュイッ!――
指笛の音は周囲の建物へと反響してより広く広がっていく。そしてその音と引き換えに姿を現したのは〝新たな黒い姿〟
「蒙面!」
「やっぱり潜んでいたのか」
黒鎖の主要戦闘兵力、蒙面、現れたその数は50名以上。
若者たちのざわめく声を耳にしてパックは答えた。
「想定されたことです。おそらく華人街の南門を突破して、しかるのちに街の中へとなだれ込むつもりだったのでしょう。ならば今倒すのも、後で倒すのも同じことです」
しかしその言葉を持ってしても周囲の緊張は解けなかった。武魔衆と黒鎖が集まって大集団となった彼らはじりじりと握り寄ってきた。
そのあまりの数の多さにパックも最後の号令をかけることができなかった。そんな気の迷いを敵も感づいたのだろう。威圧感を持ってしてその距離を続々と縮めようとしていた。
「犠牲者の発生は避けられまい」
だが腹をくくるしかあるまい。大きく息を吸い込み号令をかけようとしたその時だ。
「ちょっと待ったぁあああああ!」
裂帛の怒号が響いた。
「おらぁああああ!」
気合いの入った大声をあげながら脇の路地から建物の影から続々と現れる姿があった。契約よりも金よりも、義侠心により戦火の真っ只中へと躍り出ることを厭わない勇猛果敢な人々。
『キラーソ』と呼ばれる野外戦闘用のジャケット・スーツに、『スケレート』と呼ばれるカーゴパンツと言う装いが彼らの制服だ。
「遅れてすまねえ!」
「イベルタル職業傭兵20名! 加勢に来たぜ!」
「あんたたちと俺たちで合わせればあいつらの数を抑えられる!」
「あとは俺たちの気合だけだ!」
その言葉を受けて華人街勢と職業傭兵勢はお互いに顔を見合わせて頷きあった。
「感謝いたします!」
「共に戦いましょう!」
風が動いた、時は間に合った。華人街の人々の必死の抵抗がギリギリ間に合ったのだ。
時告げるは今。パックは叫んだ。
「迎え撃てぇ!」
華人街の若者たちが槍を手にし、職業傭兵たちが牙剣を構えていた。
「おおおおおおおお!」
轟くような怒号が響いて彼らは一気に走り出す。
――華人街南門前――
今ここでは決着のためへの戦いが始まっていた。







