夜戦争LⅩⅩⅩⅠ 龍の男現る。―その名は絶掌ゆえに―
大きな湾曲刀を手にした2人の男が現れた。
「かしら」
「理のだんな」
その湾曲刀、理には見覚えがなかったが、艮には見覚えがあった。
「おう、お前らか。なかなかいい得物を持ってるじゃねえか」
「へへ、遅いかかってきたやつが腰抜けでしてね」
「返り討ちにして奪ってやりましたぜ」
「上出来だ」
その言葉に艮は声を震わせながら言った。
「その刀を持っていたものは?」
声を受けて湾曲刀を持っていた2人は艮の方を振り向きながら不気味な笑みを浮かべながらこう答えた。
「この刀の持ち主かい?」
「決まってんだろ」
そして2人は湾曲刀を構えて振りかぶりながら、遅いかかろうとしている。振りかぶった刀を振り下ろしながら艮に告げた。
「ぶっ殺してやったよ!」
刀が振り下ろされるその軌道がひどくゆっくりと艮の視界の中に映っている。しかしもはや回避する術はない。全てを諦めたその時だった。
――フォッ!――
一迅の風が吹き抜けた。
脇路地の街路から1人の男が風のように駆け出してくる。
軽やかに跳躍したかと思うと、切り込みのように身を翻して、湾曲刀を手にした2人の男と艮との間に割り込むと、宙を舞ったまま体を回転させる動きで2人の襲撃者に2連撃でその頚椎を正確に狙って鋭い蹴りを食らわせる。
ふたりを瞬間的に無効化すると、地面に降り立ち右足を回し蹴りの要領で地面スレスレに繰り出して襲撃者の足をはらう。
敵は完全に体勢を崩されて地面に倒れた。
突如現れた、男の動きは止まらない。
湾曲刀を即座に拾い上げると立ち上がりそのまま襲撃者2人の胸ぐらへと突き刺したのだ。
――ドスッ!――
あっけに取られる武魔衆の者たちの前で突如現れた男は、理と艮の間に割り込み立ちはだかった。
「なんだてめえは!」
怒りの形相の理に現れた男は告げた。
「名を問うのであれば答えましょう。我が二つ名は〝絶掌のパック〟」
その2つ名が場に驚きを与えた。
「おお!」
「絶掌の――」
「白王茯!」
「龍の男!」
「来てくれたのか!」
歓喜と称賛の声がにわかに広がった。
そしてそれはもう一つ、どす黒いゆがんだ歓喜の声に繋がっていた。
「そうか貴様が! 龍の男! 絶掌の! 白王茯!」
その威圧的な態度にひるむことなく白王茯こと〝絶掌のパック〟は答えた。
「いかにも」
その完全に落ち着き払った声は敵対する者には脅威を、味方するものには安堵を与えるものだった。緩やかに左半身を前に左の手の平をやや斜めに前方に掲げながら問い返す。
「名を聞こう」
その声に理は答える。
「理海皇、またの名を〝拳魔の理」
名乗るのと同時に理も左拳を前に構えを取る。そんな理にパックは告げた。
「雷撃を用いるようですが私には通じませんよ」
「ほざけ!」
怒号を上げると理は震脚して一気に踏み出してくる。そちらに視線を向けながらパックは軽くチラリと背後に視線を向ける。司会の片隅に艮の姿を見つけるとかすかに頷いた。
その視線に艮も落ち着けを取り戻す。
「すまない」
その一言と同時に艮はその場から離れた。







