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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第2話:助命への道 ――死刑囚パリスと救済者ルスト――
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正規軍防諜部・極秘幹部庁舎 Ⅲ ―『納得できません』―

「〝極刑判断〟」


 私は腹の奥から不安と怒りが湧いてくるのを抑えながら必死に文面を読み続けた。そしてそこにはこう記されていたのだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■容疑者パリス・シューア・ライゼヒルトへの助命嘆願に対する検討結果について


・地方都市ガローガにて実行された制圧作戦において逮捕拘束された密輸組織の首魁の人物に対して助命嘆願が上程されていた


・個人名パリス・シューア・ライゼヒルトは、国家機密重要物資の国外密売の実行主犯である。主犯パリスが犯した犯罪行為の中で特に重罪となるのが以下の3件である。


1:国家機密重要物資の密輸行為

2:精術武具の分解解析行為

3:分解済み精術武具の国外持ち出し行為


・主犯パリスが実行した上記3件はいずれも国家防衛体制を危機に陥れる可能性のある重大犯罪事案であり、類似の犯罪行為の発生を抑制する意味でも、いかなる理由をもってしても情状酌量や特赦を与えるわけにはいかない


・よって助命嘆願を却下し、極刑を持って犯罪行為に対する処分とすることをここに決定する


フェンデリオル正規軍中央本部

フェンデリオル正規軍軍警察総括本部

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私はその文面を一通り読み終えて気持ちを落ち着けるためにまず沈黙した。そして、目の前の局長をじっと見つめてこう告げた。


「納得できません」


 だが、局長は取り合わない。


「納得できるできないの話ではない。これは国体を維持するためにこの国において貫かれてきた〝鉄則〟だ。一切の例外はない」

「しかし!」


 抗議の声を上げる私に局長は睨み返してきた。


「ルスト」


 私は思わずその鋭い視線に一瞬怯んだ。局長は言葉を続けた。


「覚えているか? お前が1年半前に引き起こしたワルアイユ領緊急避難行為の際の数々の越権行為」

「はい」


 1年半前に私は、西の彼方の辺境領でいくつか違反行為を引き起こした。


「西方辺境ワルアイユ領、これに仕掛けられた領地乗っ取りの謀略行為からワルアイユ領の領民たちを救うために、お前はいくつかのルール違反を犯した。本来であれば実刑判決を受けてもおかしくない事案もあった。だがお前は不問に付された。なぜだか分かるか?」


 分かっている。今回のパリスのケースとは全く正反対の結果を生んだからだ。


「国家機密物資である〝ミスリル鉱石の国外横流し〟を阻止したからです」


 局長は頷いた。


「その通りだ。この国の防衛の最大の要である精術武具、それを〝犯す〟か〝護る〟か、お前とパリスの違いはその程度でしかない。お前がパリスを救いたいと言う考えは、非常に無理のある意見だということは分かるな?」


 分かる。

 本来であるならば、分からなければならない。でも――


「分かりません」


 私はその理由を明確に口にした。


「国家を担うはずの側にある人たちに家族もろとも喰い物にされた。その彼女を原理原則だけで命を奪ってしまえば」


 私は大きく息を吸い込んでこう告げた。


「彼女がこの国に生まれた意味がありません!」


 人は国家と関わり無しに生まれることはできない。

 人は国家に所属せずに生きる場所を得ることはできない。

 それが近代政治社会の原理原則だ。

 だからこそ国家は国民を守らなければならないのだ。

 

 だが局長は言う。


「そんな青臭い事をまだ言っているのか? 膨大な人数を抱える軍隊の中で個人の意見など何の意味もない。1人1人の意見をお前は耳にしてそれを汲み上げながら戦い続けるというのか?」


 局長は重ねて言った。


「1人1人の個人の事情をいちいち聞いているというのかお前は?!」


 そう聞かれたならばこう答えるまでだ。


「その通りです。私はそうやって今日までの日々を乗り越えてきました!」


 それは絶対に曲げられない私の中の鉄則だ。


「1年半前の西方国境でのあの日、数百人を超える人々の前で私は指揮を取りました。あの時私には間違いなく1人1人の顔が見えていた。1人1人の声が聞こえていました」


 私は右手をぐっと握りしめた。


「今私と一緒に戦ってくれている7人の仲間たちもそうです。1人1人が抱えている過去と向き合い、共に手を携えて今日までやってきました。原理原則だけで前に進んでいたら、今私はこの場所に居ないんです!」


 そして私はひときわ大きな声で局長へと告げた。


「パリスに生きる機会を作って下さい!」


 私が彼女になぜここまで関わろうとするのか? それはやはり家族と切り離され一人で生きていかなければならなかった私のとある過去と重なって仕方がないからだ。

 局長は静かに呟いた。


「自分が信じた相手には、たとえ敵であろうと徹底的に誠意を尽くす。お前の爺さんとそっくりだな」


 困ったふうに笑みを浮かべると静かに立ち上がる。 


「いいだろう。そこまで言うならチャンスをやろう」


 局長の目が私をじっと見つめる。


「模擬戦を行う。精術を伴った高レベル模擬戦だ。俺から一本取れ。そうすればお前に力を貸してやる」

「本当ですか?」

「俺は一度口にした約束は反故にせん」


 立ち上がると衣装掛けから革ジャケットコートを取り羽織る。コートのポケットから分厚い手袋を取り出し両手にはめる。


「舞踏館に来い。先に行っているぞ」

「了解しました」


 すなわち局長が先に待機して準備しているということだ。私が模擬戦の場所に足を踏み入れた段階で戦いが始まるということだ。

 局長はそれ以上何も言わずに部屋から姿を消した。


「私の戦いがあの子の命につながる」


 その事実の重さを両肩に感じながら私は戦いの場へと向かったのだった。


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