夜戦争LⅩⅩⅥ 南門の衝突、華人街と黒鎖《ヘィスオ》
対して、華人街側は30人を超える。その総数から言って有利に思えるのは華人街側の方だった。
多種多様な武器を備えて華人街側は守りに徹していた。
襲い来る黒鎖の武術家集団を前にして、艮は命じた。
「撃て!」
4人いるフリントロック銃手が引き金を引く。発射された鉛玉が居並ぶ男たちの分厚い胸に次々に食い込んでいく。しかし――
「だめだ、全然効かない!」
小銃程度の鉛玉ではその猛攻を止めるには至らなかったのである。
艮が呟く。
「鋼気功か!? 功夫だけは欠かさず鍛錬しているようだな。銃手は後退して武器を変えろ! 〝棍〟と〝槍〟を中心にして近接戦に備えろ!」
そして、艮が叫んだとほぼ同時に華人街勢力と黒鎖の武術家集団はぶつかり合ったのである。
――ガガァッ!――
それはまさに稲妻と稲妻のぶつかり合い。己が信念に基づいて鍛え上げたわざと肉体が掛け値なしに衝突した。
華人街勢力は〝棍〟と〝槍〟を中心にして防御陣を構築しその両サイドに〝剣〟や〝柳刃刀〟といった刀剣所持者が控えるという構図だった。
この他にも無手の武術家が10名以上、防御陣の2段目に控えている。
その前段が黒鎖勢と真っ向からぶつかり合った。
まるで火花が散るような熾烈なぶつかり合い。
一見して武器を持つ華人街の者たちの方が有利に思えた。しかし忘れてはならない。黒鎖は闇に生きるものであるということを。
――ゴオオォッ――
ぶつかり合った陣営のとある箇所で爆炎が吹き上がる。
剃髪頭に馬甲を素肌の上に直接羽織った屈強な体を持つ男がその掌から直接に炎を吹き出したのだ。爆炎で吹き飛ばされて2名が昏倒した。
その技の正体を艮は即座に見抜いた。男は右腕に刺青を彫っていた。奇怪な文様が特に目を引いた。
「その刺青、符巫術の応用か?」
「いかにも」
符巫術とはいわゆる古来から伝わる紙片や羊皮紙に書かれた呪文や文様により、精霊科学や魔導術に基づく特殊効果を発揮するための技術体系であり学問だ。科学技術が発達したことや、伝承が途絶えることもあるため、失伝した物も多いと言うが、そもそもがフェンデリオルの精術武具や念話装置も、そうした精霊科学に基づく符巫術に類似したものを取り入れ、より近代化して応用発展させたものだ。
符巫術による文様を自らの肉体に直接彫り込み精術的効果を狙ったものだろう。
艮の問いに答えたのは黒鎖側の集団の頭目と見越された男だ。黒い革ズボンに上半身は素肌を晒している。さらに乱雑な長髪は後頭部で束ねられていた。奇妙なのがその両手の中指にはめられた指輪である。
男は眼前の棍使いの男を1人、掌底であっさり吹き飛ばすと、艮に視線を向けて向かい合った。
「精術武具を所持しながら戦うより武術を繰り出しやすいからな」
「刺青は消せん。術が不要となってももとに戻せんぞ?」
「後先のことなど考えてられるかよ。勝ちゃあいいのさ。勝てばな」
対する艮も眼前の痩身の1人の男を、足払いで姿勢を崩させてから右肘と左拳の両激で圧倒して一気にその意識を奪った。
「名を聞こう」
「黒鎖、武魔衆頭目、理海皇――拳魔の理と覚えてもらおうか」
名乗られたら名乗り返すのが流儀だ。
「華人街武術家師範、艮大門」
「そうかお前がか! 軍師・艮!」
その言葉には彼が艮の存在を知っているということであり、嬉しそうな言葉のニュアンスには歓喜が滲んでいた。







