夜戦争LⅩⅩⅣ タクトとトゥフ、協力し合う
握手を終えて、トゥフは語りかける。
「そっちにも都合があるんだろう? 死兆孔雀はお前に預けるよ」
「そうしてもらえると助かる。組織の中にも技術部門があってね、そこに回して詳細を調べ上げる」
「すげーな。売り買いするだけじゃなく裏付け調査もやるんだ」
「もちろんだよ、きちんとした価値のない私的な密造品はオークションに出しても売れないか後からクレームがつくんだ。どういう出所でそういうものが回っているのかしっかり調べ上げないと組織の名前に傷がつくからね」
「オーケィ、できればその分析結果もうちのところに回してくれると助かるんだが」
「それはもちろん協力するよ。多分今夜の戦いを終えると表と裏の社会の関わり合い方は少しずつ変わっていくだろうからね」
そう言いながらタクトは死兆孔雀を懐の中にしまい込んだ。彼もトゥフの人柄に思い至ることがあったようだ。
「今夜はよろしく頼む」
「ああ」
そう言葉を交わしながらお互いに頷き合った。トゥフは言う。
「行こうぜ、南門の方で大変なことになっている」
「わかった」
「俺の馬に乗れ。行くぞ」
トゥフはそう語りながら自らの愛馬を呼び寄せて2人でまたがった。そして馬上から騎馬自警団の隊員たちに後を託した。
「こっちの方が守りはよろしく頼む」
「ああ、任せろ」
「よしそれじゃ行くぞ!」
そう言いながら手綱で馬に軽くムチを入れる。その瞬間、2人を乗せた馬は南門へ向けて一気に走り出したのだった。
† † †
そして2人は、華人街を迂回するように南門の方へと向かった。華人街の外縁沿いに南下したのでは敵勢力と鉢合わせる可能性がある。それだけは避けなければならない。
だがそこは、イベルタルの街路を知り尽くした自警団のトゥフだ。巧みに裏路地を通り抜けながら絶好の位置にたどり着いた。しかしそこで彼らが目の当たりにしたのはまさに惨状だった。
「やべえぞ」
思わず声を漏らしたのがトゥフ。その後ろでタクトも声を漏らす。
「放火を阻止しきれなかったんだ」
「破壊消化してるけど間に合うかどうかギリギリだな」
「水をかけてもダメそうだね」
「というより――」
トゥフは疑問の声を漏らした。
「放水消火をやった形跡がないんだけどなんでだよ?」
その疑問にタクトは答えた。
「敵はおそらく〝焼夷剤〟を使ったはずだ」
「焼夷剤?」
「ああ、硝酸と消石灰とナフサを使うんだ。簡単に火がつくし、何より水を加えるとさらなる爆発を引き起こす恐れがある」
「厄介だな。だから破壊消化にこだわってるんだ」
「うまくいってないみたいだけどね」
「かといって、大規模な消火活動は正規軍の支援がないから期待できないぜ?」
「それに加えて、火災を放置して敵と戦うことはできないだろうし」
そう語ったところでタクトは思案していたが、馬から降りると周囲を見回してこう漏らした。
「この建物の屋上に行こう」
「何をするんだ?」
「火を消す」
明確に力を込めて言い切るその姿にトゥフは敢えて問いかけた。
「できるのか?」
「できる? 僕のこの〝天奏のコルネット〟ならね」
「〝歌精系〟か。よし!」
トゥフも馬から降りると手近なところに馬の手綱を縛り付ける。
ポケットから銀糸悠悠を取り出してこう言った。
「俺に捕まれ」
そう言われてタクトはトゥフの肩にしっかりとしがみつく。と同時に銀糸悠悠を放り投げると精製した銀糸を屋上の一端に絡みつけて、しかる後に銀糸を急速に巻き取った。当然のように2人の体は屋上へと持ち上げられたのだった。







