夜戦争LⅩⅧ 戦況膠着、光精と歌精
その言葉と同時にそれまで控えていた蒙面たちが、戦闘準備を始める。一斉に畳みかけて北門を突破しようと言うのだろう。蒙面どもはその手にしていた武器を一斉に構え始める。
女は言う。
「お前たち、あの楽器使いのガキは無視しな。あたしがひきつける。その間にあの腰抜けの門番たちを皆殺しな」
言葉で答えることなく蒙面どもは殺意を気配として表した。それだけでも殺人者としての練度の高さの異常さが嫌でもわかった。それを前にして門番の若者たちはおびえを見せる。
「うわっ」
だがその恐れの言葉を少年は、タクトは抑え込んだ。
「あなたたちはこの場を死守することに専念してください。あいつらとこちら側の戦闘力の差は僕が埋めます! ここを突破されれば南門の攻防もこちら側の不利に傾く。それだけは絶対に避けなければなりません」
その言葉と同時にタクトはある曲を演奏した。
それは勇壮な軍歌、戦場での戦意を鼓舞する曲、腹の底から戦闘意欲を沸き起こさせる曲だった。
門番役の彼らの1人が言った。彼らの中のリーダー的立場の人間だ。
「君の言う通りだ。あいつらをここから入らせてはいけない。侵入を許せば、やることは大抵決まっている」
「その通りです。僕もこの街には大変お世話になってます。灰燼に帰すにはもったいなさすぎる!」
そう答えてタクトはコルネットを口にした。
その瞬間、女が手にしていた死兆孔雀が翻った。放たれたのは横投げにとてつもなく大きな、三日月形状の刃だ。
タクトのコルネットが歌う。
鳴り響いた音は再び光の刃そのものに干渉してこれを打ち砕いて霧散させてしまう。
「ちぃっ!」
次に扇子を閉じてその先端をタクトの方へと向ける。
「精術 武神光槍!」
聖句詠唱と同時に濃密に圧縮された光の槍が一直線に飛び出してタクトを襲う。だがこれに対してもタクトはコルネットを演奏して高圧の音波を放射、光の槍に対して直接干渉してこれを打ち砕いて無散させた。
「くそっ! おのれぇ!」
女の悲鳴のような声が漏れる。何度攻撃を放っても、ことごとくそれはタクトの所有する天奏のコルネットの音波攻撃により干渉されて打ち砕かれてしまう。この場において死兆孔雀の女はこのままでは状況が変わらないということを悟った。
「ものども! かかれ!」
彼女のその叫びと同時に蒙面どもは一斉に襲いかかってきた。それはまさに黒い山津波、その気迫と相まって心理的な威圧はかなりのものだった。
だが、門番の若者たちのリーダー格が大きく叫んだ。
「来るぞ! 武器構え!」
その言葉と同時に全員が武器を抜いて銃を構える。それと同時にタクトは敵全員に向けて干渉を試みようとした。コルネットを口にしようとした時だ。
「おっと! そうはさせないよ!」
今度は女の方がタクトに仕掛ける番だった。広げた死兆孔雀を大きく振って鋭利な光の刃を横投げに大きく解き放つ。
「あたしの攻撃が通らなくても、あんたの攻撃を引き付けて抑制することはできる! 後はうちの精鋭とそっちのぼんくらどもがやり合うだけさね! 残念だったね! 精術! 孔雀羽弁斬!」
そう叫んで大きく何度も死兆孔雀を何度も振り回す。連続で繰り出される光の刃をタクトはそのたびに打ち砕くが、逆を言えば敵の攻撃を阻止するためにそれ以上の行動がタクトにはできないのだ。
最前列の蒙面が手にしていたのは|大刀と呼ばれる肉厚で幅広な湾曲刀で、その重さで敵を一気に切り伏せるための武器だ。それを振りかぶっていつでも切り伏せられるように身構えている。
「くそっ、何か打つ手は――」
焦ってその先の対応を考えていた時だった。







