夜戦争LⅩⅣ 白煙の向こうから現れる者たち
艮大門は、右手を大きく振りながら周囲の者たちに大きく指示を下す。
「お前たちよく聞け! 建物の類焼が広がる前に、隣接する建物を破壊する! 軍隊が軍事陣地攻撃用に用いる焼夷放火兵器が使われた! 水をかけて消化するのは不可能だ! 火災が広がる前に隣接する建物を一刻も早く破壊しろ! 家財道具の運び出しなども協力しあって速やかに行え!」
艮の下した指示に地域住民も加わり速やかに作業が開始される。そこでさらに艮は周囲にいた青年団の若者たちに声をかけた。
「戦闘可能なものは南門の外に出て警戒を怠るな! こちらの守りを破壊したことで次の攻撃を繰り出してくる!」
「好的!」
剣、小銃、戦棍――、考える様々な対人用の武器を持った若者たちが続々と集まってきている。彼らは燃え上がり続ける華人街の建物を背にして、一列に並んで人垣による防壁を作り上げた。
体格身長様々な若者たちが集まっていたが、いずれも共通しているものがある。
艮は進み出ると羅漢服の上に羽織った馬甲を脱いで投げ放つ。周囲に並んだ若者たちに艮は告げた。
「我が弟子たるお前たちに告げる。常日頃からの武術の功夫の積み重ねを今ここで思う存分発揮するが良い!」
「応!」
「〝蚩尤〟の加護は我らとともにあり!」
「おおおおおおっ!!」
蚩尤――東方における最古の武神の名である。医農の神とされている神農の愛弟子であるとも言われる神だった。
艮を中心として並んだのは総勢33名、いずれも艮大門が自らの道場で鍛え上げた愛弟子たちだった。自らがこの街を死守する砦とならんことを覚悟して決意した者たちである。
周囲一帯に黒色火薬による濃密な白煙が立ち込めていた。風は渦を撒き周囲への視界を通りにくくしている。32人の若者とそれを率いる艮大門はそれぞれに武器を構えて襲撃者を警戒していた。
その彼らが携えた武器は――
無手の素手の者が10名、
黒色火薬によるフリントロック式の小銃を持つ者が4名、
東方風の直刀両刃の〝剣〟を持つ者が2名、
東方風の湾曲した刀身を持つ片刃の〝柳刃刀〟を持つ者が6名、
〔し〕の字のような鉤状の形状を持つ2本1対の刀剣武器〝鈎〟を持つ者が1名、
人の背丈と同じ程の棒状武器の〝棍〟を所持する者が6名、
伝統的な槍状武器である〝槍〟を所持する者が4名となる。
その総数33名、当然ながらそれを率いる頭目である艮は武術家であり、優れた功夫を積み上げてきた達人でもある。
全員が緊張度を高めているその中で、風向きが変わり周囲を取り囲んでいた白煙が吹き飛ばされようとしていた。
「白煙が消える!」
艮の掛け声と共に全員が緊張を帯びた。
白煙の向こう側から悠然とやってくるのは総勢20名ほどの人影。
服装は様々で、革ズボンにファー付きの革ジャケットという姿もあれば、武術家としては定番の羅漢服や短袍や長袍、褲褶と呼ばれる東方風ズボンに前合わせの帯締めの上衣など、東方系民族にありがちな服装で固められていた。
武器を所有する者、素手の者、顔つきが異様な者、仮面をつけているもの、鍛え上げられた肉体の者、極端に体躯の小さな者、実に様々な者たち
「来るぞ!」
艮は弟子たちに警戒を促すために大声で叫んだ。
前方へと視線を向ければ、そこには恐るべき者たちが居並んでいる。そのいずれもが剣呑なまでに攻撃的な気配をかもし出していた。
そして、それを率いるのはまさに屈強なる1人の男だった。上半身を裸であり、腰から下には黒い革製のズボンを履いている。髪は長く、乱雑に伸ばした髪を後ろへと流して束ねている。
その佇まいを見た時艮は直感した。
「あいつが襲撃部隊の体隊格だ!」
そう判断した時、先んじて襲いかかってきたのは襲撃者たる黒鎖の方であった。地鳴らしをたてながら敵は襲いかかってくる。
「来るぞ! 全員覚悟を決めろ!」
艮の声が響く中、2つの勢力は派手にぶつかり合ったのだった。







