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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第13話:特別編:イベルタル市街地大規模動乱【夜戦争】 ―決戦・イリーザ 対 黒鎖《ヘイスォ》―
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夜戦争LⅩ 精術武具戦闘部隊|火龍衆《フォロンヂョン》

 安堵する(ファン)を確かめると(ユァン)は体を離してしっかりと立ち上がる。


「さてそれでは私も、そろそろ現場へと出向く準備をしませんと」

「ああ、行くんだね戦場」

「ええ」


 そう答える(ユァン)に、(ファン)は机の片隅からある物を取り出した。中指と先ほどの大きさの小さな小さな金属の球体だ。それを3つほど(ユァン)に渡す。


「これ使って」

「これは?」

「私が作った最新型の閃光弾。叩きつけるか握りつぶすことでものすごい光を放出する。目くらましには役に立つと思うよ」


 (ユァン)は頷きながらそれを受け取った。


「おお、これは良い。大きさが小さいので隠し持つのに都合が良い。有効に使わせていただきましょう」

「うん、くれぐれも気をつけてね」

「はい」


 (ユァン)(ファン)から受け取った閃光弾を懐にしまいながら語りかける。


「お礼代わりにひとつ忠告を残しておきます」

「なに?」

正 橘安(ヂォン ジュアン)古大人(グァターレン)のところに、2人の新しい幹部が参入してきました」

「うん、名前だけは知っている。紅狼(ホァン・レアン)とブアル・ボースって新参者でしょ?」

「はい」

「あの2人がどうかしたの?」

「あの2人は絶対に信用してはなりません。あの2人は危険です」


 (ユァン)の真剣な口調の中に宿る真実を(ファン)はそれとなく悟った。


(グァ)(ヂォン)はそのこと知ってるの?」

「いいえ、提携する外部組織からの移籍者としか見ておりません。ですが私の勘ではもっと厄介なところから送られてきてる人間かと思われます」

「それってまさか、上級評議会?」


 その問いに言葉では答えなかったが(ユァン)ははっきりと頷いた。


「分かった気をつける」


 理解してくれた(ファン)(ユァン)は安堵したようだ。


「そうそう、忘れるところでした」

「え?」


 (ユァン)のつぶやきに(ファン)は疑問の声を漏らす。それと同時に(ユァン)は右手を掲げて指をパチンと鳴らした。

 それからほどなくして(ファン)の工房の中に数人の男女がぞろぞろと入ってくる。

 その中の目つきが悪い1人の男が(ユァン)(ファン)に対して声をかけた。


淵 大人(ユァン ターレン)小幻(シャオファン) 精術武具戦闘部隊火龍衆(フォロンヂョン)全員頭数揃ったぜ」

「ご苦労様です」


 そこに並んでいるのは総数6人の男女、いずれも東方風の人種の人間たちであり年の頃はいずれもが20代ぐらいだろう。その装いは実に多彩でありフェンデリオルで標準的なシャツにズボンを基本とした洋装から、東方人の通常的な漢服姿までそれぞれの個性に合った個性的な装いを身にまとっていた。

 思い思いに佇む彼らに(ファン)は声をかける。


「ご苦労様。急に呼び出して悪いわね」


 その言葉に彼らのリーダー格と思われる1人の男が前に進み出てて告げた。


「なに、別にかわいやしねえさ。あんただったらいつでも飛んでくるぜ」

「ありがとう。(シュウ)


 無愛想な(ファン)は珍しくも破顔して笑顔を見せた。

 その両手に特徴的な手袋をしている(シュウ)も右手に腰を当てて佇みながらお礼の言葉を返す。


「いえいえどういたしまして。俺たちは一癖も二癖もある変わり者だ。どこにも居場所がない。そんな俺たちに声をかけてくれて戦う術を与えてくれたのはあんなだからな」


 その言葉が(ファン)には地味に嬉しかったり違いない。


「それは私も同じだよ。(ユァン)やあなたたちがいてくれたから私も生きる術をここで見つけることができたんだ。でも」


 (ファン)は少し寂しそうな顔を見せる。


「それも今夜限りかもしれない。勝つにせよ負けるにせよ今までと同じ暮らしは無理だろうからね」

「夜戦争だな? 噂に登ってきてるぜ」

「どんな風に?」

(グァ)のヤツがいよいよやけくそになったってな」

「あ、そんなふうに思ってるんだ」

「少なくとも、火龍衆(フォロンジョン)のメンツの中ではな」

「否定はしないよ。何しろ自分が可愛がっていた(シュイ)の姉さんを自ら破滅させて、挙句この街の女帝様を怒らせちまったんだからね」

「馬鹿な話だ」

「ああ、馬鹿な話さ」


 そう答えながら(ファン)は大きくため息をついた。


「そういう事だから、あとは好きにしていいよ。一緒に戦うも、こっそり姿を消すのもどちらも自由だ」


 そう声をかけられても誰1人としてそこから離れることはなかったのだ。

 (シュウ)が彼らの気持ちを代表するかのように声を発した。


「ケツ割って逃げるのはごめんこうなるぜ。俺たち6人、そして火龍衆(フォロンジョン)の下っ端連中、全員あんたについていく」


 その言葉に答えるかのように(ファン)は彼らの名前を呼んだ。


チィユ 原風ユェンフォン

「おう!」

「易 范范イー・ファンファン

「はい」

「羅 蜜瓜ルォ・ミィグア

「あい!」

「包 丽薇バオ・リーウェイ

「はい」

「凱 維陽カイ・ウェイヤン

「おう」

「艾 怒涛アイ・ヌータオ

「はっ」


 6人全員の声が返ってきたところに(ファン)は告げた。


「今夜は好き勝手に全員暴れな。そして明日の朝になったらまたこのメンツでやり直すんだ」


――やり直す――


「その言葉に全員が頷いていた」


 そして(ユァン)が最後を締める。


「それではお行きなさい。それぞれが思うがままを行うために」


 その言葉を覚えると同時に6人は掻き消えるように姿を消した。そして後で残されたのは(ユァン)(ファン)のみ。


小幻(シャオファン)、それでは私もこれで」


 (ユァン)は、うやうやしく頭を垂れる。


「気をつけてね」

「御意」


 ついに(ユァン)もここから立ち去った。後に残されたのは(ファン)のみだった。彼女は余分な言葉は何も口にしなかった。そして無言のままこの工房から姿を消したのである。



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