夜戦争LⅢ 高級骨董品店 ―orienta《オリエンタ》drako《ドラーコ》―
イベルタル中央市街区オスタメント、イベルタルの重要な行政施設が集中している。名だたる大企業や重要組織あるいは権力に直結する重要機関が軒を並べている場所だ。
東西横断街道の目抜き通りから少し脇道へと入ったところに漆黒のレンガ張りの建物がある。一般的には表側にショーウィンドウが並び壁面が前面ガラス張りという、この時代にしては極めて珍しいガラスショーウィンドウ仕様の高級骨董品店と言う装いで営まれている商店風の建物だ。
店の名前は、
――orienta drako――
すなわち〝東洋の龍〟という意味だ。
その1つを取っても、経営者が東の果てから海を越えてやってきたということは明白だった。
表向きは巨大なアンティークショップという体裁を取っているが、その周辺には個人病院や、タウンハウス風の高級邸宅、スタンディングバークエストの飲み屋など、さまざまな建物が全く別な建物として軒を並べていた。
一見すると全く関係のない建物の群れのように見えるが、実際には目に見えない場所で密接につながっている。そして、それら極秘裏に関連した建物に隠されるようにして設けられている建物がある。地上3階、地下2階のその建物は極秘裏に設けられた〝オークションギャラリー〟である。
もちろん表向きに公開されているオークションギャラリーではない。いわゆる地下オークションであり、非合法に地下に潜って運営されている。
そこは、イベルタルの闇社会の中で黒鎖に匹敵する規模と組織力を持つ地下オークション組織〝ora_talpo〟である。
そのオークション会場を本部として、そこから西側の目立たない場所にある地下1階地上1階のスタンディングバーがある。比較的早い時間から運営しているが、地下フロアだけは屈強な用心棒が入り口に立っていて一般客を入れることはない。
地下フロアのバー店内に降りると、そこでは男装の麗人である1人の女性がシャツと革ベストと黒ズボンのオークションディーラー姿で、バーカウンターの中に佇んでいた。店の中は想像以上に広く20人くらいが店内に堪能していても余裕のある規模を持っていた。
そして今も、店内には数人の様々な人物が店内で思い思いのところにたむろしていた。
カウンター内の男装の麗人のオークションディーラー風の女性の他に、
赤紫の旗袍の長身の東方風女性、
ロマンチックスタイルのシルエットの薄ピンク色のドレスをまとった金髪の美女、
ズボンルックに襟シャツ、革ベストにレザーのジャケットにハンチング帽姿の10代の少年、
さらには定番の黒いメイドドレスに白いエプロンと言う、まごうことなき侍女風の若い女性の姿もある。
これ以外にもテールコート姿の近侍役風の男性に、タイトなロングドレス姿の妙齢の女性もいる。その他にも数人がバーカウンターを中心として囲むように各々の場所で佇んでいた。
それらは明らかに一般的な酔客ではなく、独特の雰囲気を放っていた。そうここは特別な場所なのだ。
それまでグラスを磨いていたカウンターの中のバーテンダーの女性が手を止めてカウンターの片隅にある念話装置を操作した。念話の入感があったのだ。
『はい、こちらリブロ・リベラ』
『私よ、カンティよ』
念話の主は先ほど花街でカーヴァ協会長に治療を施していたカンティだった。







