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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第13話:特別編:イベルタル市街地大規模動乱【夜戦争】 ―決戦・イリーザ 対 黒鎖《ヘイスォ》―
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夜戦争ⅩⅩⅩⅩⅥ イベルタル行政合同庁舎屋上

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■読者様キャラ化企画、参加キャラ■

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カーヴァ パトロ


 そこは、花街を見下ろす位置にそびえる高層建築物の屋上だった。建築階数は7階で花街の主だった建物が3階建てが多かったのを考えればその倍近い高さがある。

 イベルタルの花街に隣接する区域に立つイベルタル行政合同庁舎の屋上だ。そこからなら〝不夜の街〟の異名もあるイベルタルの花街の明かりを一望できるのだ。

 その建物の屋上に明かりはないが、星明かりと、眼下の花街の夜の光が乱反射して、手元が分かる程度の明かりは確保できていた。ただ、高い場所故に吹きさらしで体感温度はかなり寒い。


 その屋上にてある人物がライフル銃を構え狙いを定めている。

 イベルタル娼館・酒楼業連合協会の協会長を務めるカーヴァ・パトロその人である。本来は非戦闘員であるはずの彼は意外にも銃による狙撃の準備を終えていた。

 使用しているのはパーカッションキャップ式の先込め銃。当然ながら単発式であるそれを複数用意して連射できるように備えている。ニルセンの所持している装填速度で有利なドライゼ銃で無いのは、彼自身が使い慣れているタイプの銃を用意したからだろう。


 その場に居合わせているのはカーヴァ自身と、その補助を務める4人ほどの青年の男女たちだ。

 ボタンシャツに少し丈の長いスペンサージャケット、襟元にはクラヴァットを巻き、防寒用のロングコートを羽織っている。足にはブーツ、手には革手袋をはめ、姿を隠しやすいように、頭にはツバ付きの帽子を乗せていた。

 補助の青年たちも似たような装いをしており、カーヴァの周辺で待機していた。彼らが担う役目はカーヴァが用いる銃器の装填準備作業だ。

 カーヴァの補助を務める青年たちの1人の少女は通信師だった。可搬式の念話端末を使って通信を受信していた。送られてきた伝文を一通り聞き終えて彼女はカーヴァ協会長に内容を伝える。


「協会長、商業ギルド連合のビルダ広報官より一斉通信がありました。黒鎖(ヘィスオ)の下級戦闘員が建物の屋上伝って移動を繰り返してるの間違いないようです」

「やはりそうですか、しかし、このまま黙って見過ごす訳にはまいりませんな。皆さんそうでしょう?」


 カーヴァはいつになく冷静な表情で青年たちに語りかけていた。


「ここからでも分かります。おそらくは花街全域に駆けつけてきた職業傭兵や自警団の隊員さん達の尽力により最悪の事態は避けてるでしょうが、やはり〝下から登る〟と言うのは不都合が多い。ここはやはり――」


 そこで、カーヴァは青年たちに右手を差し出す。青年たちは用意しておいたパーカッションキャップ式の先込め式ライフル銃を手渡した。それを受け取り構えながらカーヴァは続けた。


「ここはやはり、建物の上で徘徊する〝ゴミ〟はさらにより上の高さで排除するのが効率的です」


 カーヴァが手にしているライフル銃はライフルド・マスケット式と呼ばれるもので、先込め式マスケット銃の銃身内に弾丸の軌道を安定させるライフリングの溝を設けたものだ。

 民生用のライフル銃としては広く普及していたが、通常はパッチと呼ばれる布に球形の鉛弾を装填するため、弾丸の装填に手間がかかるのが欠点だった。

 だがそこはカーヴァほどの人物となれば、本来軍用に開発途中だったものを特別に入手することも可能だ。カーヴァは部下の青年たちに尋ねた。


「軍から提供いただいた新しい弾丸(たま)の取り扱いには慣れましたか?」

「新型の〝ミニエー弾〟ですね? はい、パッチ(布切れ)で包んで装填する従来型と違い、速やかに装填でき、非常に便利です」

「それは重畳、次々に間髪おかずに連射しますので弾丸の装填は怠りなくよろしくお願いいたしますよ」

「了解しました」


 常時戦時下である現在のフェンデリオルでは、少しでも敵対国に対して優位に立つためにも、精術武具の穴を埋める存在として銃器の開発がめざましい進歩で続けられている。

 かつてクレスコ伍長が、銃器特戦部隊で支給されたリボルバーライフルは、軍事用としてはこの時代における最先端の存在だ。

 そこに至るまでに金属式薬莢の開発があり、その前段階として紙薬莢を用いたドライゼ銃や、後装式フリントロックの1つであるファーガソン式銃など様々な機構が日進月歩の勢いで開発が続けられてきた。

 その開発には弾丸に対しても行われており、鉛で作られた球形弾をはじめとして、楕円形の弾丸も試みられている。そして銃身が溝の無いスムーズボアと呼ばれる物から、弾丸の軌道を安定させる螺旋溝(ライフリング)の刻まれたライフル銃身が実用化されるに至って、それに相応しい弾丸として試みられたのが、やや丸みを帯びた円錐形の椎の実形の形状をした【ミニエー弾】だった。

 先込め式でも弾を装填しやすく、なおかつ発射時に弾の底面が広がりライフリングの溝に食い込んで弾丸の軌道を安定させるので飛距離も命中率も飛躍的に向上した弾丸だった。

 軍用としては金属薬莢弾が主流となりつつあるが、民生用としては今なおフリントロック銃が主流を占めており、様々な形式のものが運用開発品の民間用転換という形でもたらされつつあるのだ。もちろん、最新型ほど値段は高い傾向にある。


 さらに、カーヴァのライフル銃にはスコープが取り付けられている。ライフルの銃身とほぼ同じ長さで引き抜き鋼管で作られた頑丈な作りのマルコム式スコープというものだ。

 ガリレオ式望遠鏡の原理を使ったもので、光学式の照準装置としては、民生用で最先端に属するものだ。スコープを取り付けたライフルドマスケット銃が4丁揃えられておりその中の1つを手に、7階建ての建物の屋上でカーヴァは膝立ての姿勢で銃を構えてスコープを覗き込んだ。


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