夜戦争ⅩⅩⅩⅩⅢ 繁栄の大鐘楼にて
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■読者様キャラ化企画、参加キャラ■
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バナーラ・カルコラーモ
ビルダ・プルヌーソ
イベルタルの市街地の中心地点、中心市街区オスタメント、
環状交差点が存在し、その中心にはイベルタルの繁栄を象徴する建物がモニュメントとしてそびえている。
――繁栄の大鐘楼――
そう人々から呼ばれている。巨大なオベリスクのようであり、多層階構造の塔のようにも見える。細長い正四角錐の建物は4面が正確に東西南北を見つめている。
その表面には、古代フェンデリオル文字で、フェンデリオルの精神文化を象徴する4大精霊についての碑文が彫り込まれている。
北に地精を示す〝黒色狼〟
南に火精を示す〝サラマンダートカゲ〟
東に風精を示す〝シャンタク鳥〟
西に水精を示す〝銀色大海蛇〟
それらがイベルタルの街の日々の営みを見守り、すでに200有余年の歳月を刻んでいるのだ。
その巨大なオベリスクの如き塔は外見からはわからないが、周囲を見回すためののぞき窓が壁面に設けられている。無論、それに気づいている人間はごく僅かである。
その建物の中は5階建ての構造となっていた。
入り口は一階部分と、環状交差点の外側にある極秘地下通路を経由した2つがあった。
そして今、繁栄の大鐘楼の内部の4階部分に集まっていた3人の人物がいる。
商人ギルド連合会会頭次役のバナーラ・カラコルーモ、
都市自治議会付属広報部所属の広報官にして通信師のビルダ・プルヌーソ嬢、
そして、旋風のルストこと、エルスト・ターナーである。
フェンデリオルの紳士の装いとしては標準的なルタンゴトコート姿のバナーラに、白いブラウスに厚手の生地のスペンサージャケットにゆったりとしたつくりのコットン生地のロングスカートのビルダ、そしてルストは彼女のシンボルとなっているあの黒い傭兵装束をしている。
髪の毛と瞳の色は、バナーラがブロンドに青い瞳、ビルダがストロベリーブロンドにブラウンの瞳、そしてルストがプラチナブロンドに緑の瞳をしている。
そんな彼らが縦横2フォスト(約4m四方)の広さのスペースの中に集まっている。
部屋の片隅にはアップライトピアノサイズの大出力型の大型念話装置が設置されている。ピアノの鍵盤のごとき操作卓と、年和の接続状況を表示するクリスタルプレート製の表示装置が設けられている。それを前にして席に腰を下ろしているのは、普段から広報官という役目を果たしているビルダだった。
その彼女を背後から見守るように佇んでいるのがバナーラだった。
その彼らの傍らでルストは愛用の超小型端末でプロアと会話をしている。プロアが先程の空の戦いを終えてアーヴィンと合流したときの対話だった。
『今夜の戦いはまだまだ続くわ。敵のさらなる作戦を阻止しないといけない』
『ああ、一般市民の犠牲者だけはごめんだからな』
『もちろんよ。それじゃあお願いね』
『任せろ』
やり取りを終えて念話が終わる。そしてルストはバナーラとビルダに視線を向けた。
「バナーラ次役、プロアに下命した銀虹亭の救援行動、間に合ったそうです。銀虹亭の専属酌婦の彼女たちも無事とのこと」
「そうか! それは何より、シュウ女史も安堵するだろう」
そして、バナーラはビルダに指示する。
「ビルダ、シュウ女史に打伝しておいてくれ。銀虹亭は無事だとな」
「承知しました」
ビルダが念話をシュウ女史が待機している水晶宮に飛ばしている傍らで、ルストはバナーラと対話を進めていた。
「プロアからの報告で分かったのですが、黒鎖の蒙面集団は花街の市街地の建物を〝下から〟ではなく〝上から〟襲撃しているそうです」
「上から? と言うと屋上かね?」
「はい、もともと蒙面は非常に身軽で跳躍力もあります。ほぼ全員が武術経験者だと見て間違いありません。その身の軽さを生かして建物の屋上に登り、屋上から屋上へと移動して、目標とする施設を屋上や屋根から侵入して襲撃を繰り返していると」
「それは――、予想外の盲点だったな」
「えぇ、ですが、花街が襲われることを想定して、職業傭兵を一気に全数投入したのが功を奏しました。カーヴァ協会長が事前に施していた自己防衛策も好結果につながっています。まずは独立記念塔の破壊の失態を取り返せたと思います」
その言葉にバナーラはいぶかしげにしていた。
「フェンデリオル民族の歴史的記念物の喪失を取り返せたと?」
だがルストは明言した。
「建物は再建可能です、ですが人命は再建できません」
その名言にはバナーラもうなずくしかなかった。







