夜戦争ⅩⅩⅩⅩ 天舞の戦い ―2―
プロアの四方を囲むように4方向から蒙面の男たちは襲いかかってきた。剣を右手に逆手に持ち腰の後ろに隠し、左手の手のひらを前へと向ける。その左の手には手袋がはめられている。金属のプレートを取り付け防具としての機能を強化された代物である。
走、攻、守――まさに隙のない布陣。これに対してどう切り返すか? について瞬時に判断を行うしかなかった。
――ならば、全方位攻撃しかない!――
プロアは頭上で円を描いて振り回している鎖牙剣の勢いをさらに増す。右腕に渾身の力を込めて振り回し環状の炎を形成していく。
「精術! 輪環火弾!」
通常で環状に振り回した鎖牙剣が炎の輪を形成する。その炎の輪から分離するように無数の火炎弾が四方八方に乱射されたのだ。だが――
――ガッ!――
まるで空中に見えない足場でもあるかのように足元を踏みしめて蹴り飛ばし、体を移動させて火弾を回避する。連続で火弾を連射しても、むやみやたらに銃弾を撃つのと同じで、狙いが甘いぶん精度は高くない。
「精術駆動! 飛天疾駆!」
プロアは両足のアキレスの羽に力を込めた。そしてさらに高度を稼いで上へと逃れようとする。だが鎖牙剣の重さゆえにいつもの素早さは稼げなかった。
プロアが予想外にかかえた鈍重さに蒙面の者共も気づいている。さらに足場を踏んでより加速すると、プロアの足めがけて4つの剣が振るわれた。
――ブオッ!――
空を斬る4つの刃をプロアはアキレスの羽を履いた両足ですばやく蹴り飛ばす。
――ガッ! カキィン!――
さらに斬撃の瞬間、敵の剣は放電した。たとえ傷つけることに失敗してもいても射程内ならば放電で敵にダメージを与えることが可能なのだ。
「ぐっ!」
放電がプロアの足を襲う。苦悶の声を上げつつ今さらに上昇して距離を稼いで体制を整えることが重要だった。
「くそっ! 装備の食い合わせが悪すぎる!」
地上で大多数相手に鎖牙剣をふるうのであれば優位性を得ることができるだろうが、敵が空中で立体戦闘が可能であり、なおかつ体術や体さばきに優れているとなれば、攻撃側としては重い武器は逆に足かせとなる。
眼下からさらに追いすがってくる4人の蒙面どもをめがけて、プロアは鎖牙剣を振るった。火炎を纏った鋼鉄の鞭が4人のうちの1人を襲ったが、敵は攻撃してくる意図を先読みして剣で受け止めると鎖牙剣をわざと絡ませた。
「しまった!」
1対4の構図となれば、4人のうちの1人と膠着状態になれば残り3人は攻撃し放題になるのだ。完全に引っ張り合いの状態になった。ならば次はどうすればいい? 逃げるか? 武器を諦めるか? 何とか先に1人を仕留めて残り3人に備えるか?
どうするどうすればいい?
残りの3人がより勢いを増して剣を振りかぶって切りかかろうとしてくる中でプロアはギリギリのところで、その脳裏にある事に気付いたのだ。
――カシュッ――
小気味良い音が響いて鎖牙剣のグリップ内に装填していたイフリートの牙を外して掌中に収める。そしてプロアはその手から重要な武器である鎖牙剣を放棄した。そしてさらに勢いよくさらに上空へと距離を稼いだ。
その光景を戦闘を放棄して逃げ出したのだと見えたとしても不思議ではない。
「どうした? 怖気づいたか!」
「地上であればあのような重量級の金属製の武器も有利に運ぶだろうが」
「瞬発力では我らの方に分がある!」
「総合力では我らの勝ちよ!」
「もはや逃げ場は無い!」
「大人しく我らの刃の露となれ!」
そして4人全員で聖句を唱えた。
「精術駆動! 黑豹狩猎!」
その瞬間、体が生えているブーツ状の精術武具が火花を散らす。そして凄まじい勢いで一気に飛び出すように加速した。それと同時に振りかぶった4つの剣をプロア目掛けて同時に斬りつける。どの部位へと切りつけてもダメージを与えられるように計算していた。
「死了!」
今こそ斬り殺されると思われた――その瞬間、
「精術! 多重加速!」
その叫びと共にプロアは凄まじい勢いで地上へ向けて加速してきた。そしてさらに――
「精術奥義! 火神顕現!」
彼が右手に握りしめていたのは、抜き身のナイフ・イフリートの牙。そこから吹き出た凄まじい炎の渦がプロアの全身を一気に追いつくしていた。







