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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第13話:特別編:イベルタル市街地大規模動乱【夜戦争】 ―決戦・イリーザ 対 黒鎖《ヘイスォ》―
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夜戦争ⅩⅩⅩⅣ 龍の男、風のように立ち去る

 威勢がよかったのそれまでで、そこから先は威圧することもできなくなっていた。

 パックは悠然として語る。


「さぁ、先ほどの挑発はどうしたのですか? 私は逃げも隠れもしませんよ?」


 かすり傷1つ負わせることができないのは間違いなく襲ってきた蒙面(モンメン)たちの技量が低すぎるからだ。生き残った3人はパックを包囲することなくひと塊になる。


「お、おのれ」

「さぁ、どうしたのですか? 私はここにいますよ? 私の首に多額の賞金がかけられているのでしょう? 私の命ひとつで金に変わる。それがあなた方の戦いの動機だったのではないですか?」


――ジャリッ――


 パックは余裕を隠さぬまま、一歩一歩蒙面(モンメン)たちへと歩み寄る。槍を構えることもなくまさに無為の姿勢だ。

 それでもなお蒙面(モンメン)たちは、もはや襲うこともできなくなっていた。圧倒的な技量差の前に、攻撃を加えることで反撃され、そこで死に至ることがほぼ確定となってしまうからだ。


 引くか? 死か?

 その究極の選択に3人が出した答えは一斉襲撃だった。

 パックは目を細めて静かにつぶやく。


「愚かな」


 3人同時に迫ってくる敵に対してパックは真ん中の敵めがけて槍を正面から繰り出した。

 だがそこで、その蒙面(モンメン)は自らの両手の鍵爪で挟み込むようにしてパックの持つ(ツァン)の動きを止めた。

 男はそこでマスクの中でニヤリと笑う。パックの持つ武器を封じたことを確信したからだ。


 だが――


――ギリッ!――


 パックは、槍をこじるようにしてひねると、そのまま鉄の鉤爪に引っ掛けて外れなくしてしまったのだ。その瞬間、その敵の眼に浮かぶ表情が一瞬焦りに変わった。

 さらに一歩踏み込んで右手を腰脇に構えると左足を前にして姿勢を整える。そして、右半身ごと前方へと繰り出すと滑るような動きで腰脇に構えた右の拳をひらいて掌底を敵の胸ぐらヘ一気に叩きつける。


――ドンッ!――


 その瞬間、大砲で撃ち抜かれたが如く敵の体は後方へと吹っ飛ばされていく。

 残る2人も振り下ろしてきた2つの鉤爪をパックに同時に手首を掴まえられた。


「捉えた!」


 パックは1度後方にそのまま下がって敵を2人同時に引きずって前のめりにさせる。そしてさらに一気に前方へと跳躍して、彼が握りしめた2本の腕をあらぬ方向へとへし折る。


――ゴキッ!――


「ぎゃあっ!」

「がぁああっ!」


 関節が粉砕されて腕は使用不能となる。

 さらに右側の男の頚椎を全体重をかけて踏みつけて砕く。

 こうして10人いた襲撃者は最後の1人となった。


 悠然と立ちはだかったままパックは、10人目の蒙面(モンメン)の男に告げた。


「まだ戦いますか? ならば遠慮なく殺しますがいかがでしょう?」


 圧倒的な技量の差、数で押しても全く手の届かない存在。その無力さと絶望感は男の心を完全にへし折った。


投降(トウシィァン)


 それは負けを認め、投降の意思を示した言葉だった。しかし、敵の軍門に降るつもりもなかった。蒙面(モンメン)として社会の闇の存在として生きていた彼にとってこのような状況の時で選ぶ手段はひとつだけだ。


――ガリッ!――


 口の中で何か丸薬のようなものを噛み砕いたような音だった。マスクの中に自決用の薬物を忍ばせていたようだ。周囲が止める暇もなく男はあっさりと命を失った。


 襲ってきた数10人、犬死にした数10人、そこには何の意味もありはしなかった。弔いの言葉すら湧いてこなかった。

 パックは自らの持ち物である組み立て式の槍を回収する。そんな彼に背後からかけられる声がある。


「あの――、助けていただき、ありがとうございます」


 自然体のまま背後を振り向けばそこにいたのはパックによって救われた踊り子や酌婦の女たちだった。その視線は熱く、パックに畏敬の念を抱いているのは間違いなかった。

 パックは彼女たちに問いかけた。


「お怪我はありませんか?」

「はい、おかげさまで」

「それは重畳、今この街に職業傭兵の一団の支援が駆けつけようとしています。こちらの劇場の遺体の処理などは彼らが行ってくれるでしょう」

「はい、ありがとうございます」


 踊り子のリーダーと思わしき彼女と言葉を交わしている時だった。

 劇場の外から1人の職業傭兵が駆けつけてきた。そして、パックの姿を見つけて声をかけてきた。


「ランパック準1級! こちらにも応援願います!」

「承知しました、直ちに向かいます」


 答えるが早いか歩きだそうとする。その背中に踊り子の彼女は声をかけた。


「あの、お名前を――」


 パックは足を止めて振り返り静かに答えた。


「〝絶掌のパック〟――ランパック・オーフリー」


 そして緩やかに微笑む。


「それでは失礼」


 それだけ言葉を残して風のように去っていく。

 舞台という場所で生きる彼女たちにとってその姿はあまりにも鮮烈だった。

 踊り子たちも、酌婦の彼女たちも、いつまでもその姿を視線で追っていた。


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