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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第13話:特別編:イベルタル市街地大規模動乱【夜戦争】 ―決戦・イリーザ 対 黒鎖《ヘイスォ》―
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夜戦争ⅩⅩⅦ プロアとマーヴィン、その怒りの口上

 大窓から突入してきた男の叫びが響く。


「精術駆動! 空戦舞、乱れ独楽!」


 両足に履いたブーツがかすかに火花を放つ。そして、空中に浮いたままに、勢いよく体を回転させながら、周囲にいた男たちの頭部を立て続けに蹴り飛ばして行く。


――ドカァッ!――


 そのあまりの速さに蒙面(モンメン)たちは武器を向けることしかできない。


 その傍らでは赤毛のあの男が左腕の義手をそのまま武器として振り回し、すぐ近くの蒙面(モンメン)たちを殴打する。


――ゴッ!――


 瞬時に頭蓋骨が砕かれてその場に崩れ落ちる。

 突然の形勢逆転に蒙面(モンメン)たちは言葉を失う。


 今この場で彼女たちの前に現れた2人は間違いなく救世主だった。

 レベッカが赤毛の男の名前を叫んだ。


「マーヴィンさん!?」


 その言葉にマーヴィンはニヤリと笑う。


「おう! もう大丈夫だ! 何も怖くねえぞ」

「はい!」


 マーヴィンは女たちを安堵させて右手で左腰に下げた大振りなカットラス剣を抜き放つ。


 チコは窓をぶち破って入ってきたブーツの男に思わず声をかけていた。


「プロアさん!」


 プロアは落ち着いた表情のまま労わるように声をかけた。


「もう少しの辛抱だ、今、花街全域に職業傭兵たちの応援が駆けつけている。この他にも騎馬自警団や馬喰連中も救援のために街中を駆け回っているよ」


 部屋の中に飛び込んできたのはマーヴィン・ラウドと、ルプロア・バーカックだった。

 ローザが確認するように重ねて尋ねてくる。


「本当?」

「こんなこと嘘ついても何の意味もねえよ、それより――」


 プロアとマーヴィンは蒙面(モンメン)たちと女たちの間に割り入り立ちはだかると鋭く睨みつける。

 ドスの効いた声でマーヴィンは威嚇する。その右手には青銀色に鈍く輝くカットラス剣が握られていた。

 

「お前ら覚悟はできてるんだろうな? 俺が世話になった女たちの店でこれだけ派手に暴れまわったんだからな」


 さらにプロアが言う。


「お前たちがこの街でプリシラと呼ばれている女、すなわち職業傭兵の旋風のルストに関わりのある人たちを真っ先に狙うだろうということは予想がついていた」


 マーヴィンは頷いた。


「ちいとばかし、たどり着くのが遅れちまったがな」


 その言葉と視線の先には女たちをかばって倒れた3人の男たちがあった。

 マーヴィンは右手に握ったカットラス剣の刃峰で自らの首を軽く叩いた。


「それより、落とし前つけてもらうぞお前ら。俺は1度世話になった女には必ず義理を通す主義でな。この状況を見て見ぬふりをしたら漢じゃねえよ」


 同じくプロアが荒っぽく言葉を浴びせる。


「お前らがルストの事を目の敵にしていて一番先に恥をかかせようとするのが読めていた。そこで一番足の速い俺が真っ先に駆けつけたってわけさ」


 プロアは言った。


「諦めろ、お前たちにもう退路は無い」


 そしてふたりは一歩前に出る。プロアが告げる。


「おとなしく捕らえられるか」


 マーヴィンが脅す。


「俺たちにぶっ殺されるか」


 2人の息の合った声が部屋に響く。


「好きな方を選びな」


 恐ろしくドスが効いた声を聞いた時、蒙面(モンメン)たちは一斉に行動を開始した。


――ダダダッ――


 動きは2つに分かれた。もと来た入り口扉へと戻る者と、窓際へと駆け寄る者たちだ。銀虹亭のサロンルームの壁には大きな両開きのガラス窓がある。プロアが蹴破って飛び込んできたあの窓だ。そこから4人程が出て行き、残りは正面入口扉や裏口側から蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。


 その情けない行動にマーヴィンが吐き捨てる。


「ちっ! 不利を悟ったらさっさと逃げ出しやがった」


 その傍らでプロアは冷静に判断を下した。


「もうじきこの店に他の連中が駆けつけてくる。助かるまでもうすぐだ。それじゃマーヴィンのおっさん」

「おう!」


 お互いに視線を合わせてうなづきあい、一斉に駆け出す。マーヴィンはビルの階段のある正面入り口の方へと、プロアは店の窓際へと、それぞれに追いかけ始めた。


 その2人にアンジェリカたちが声をかける。


「ありがとうございます」

「助かりました」


 彼女たちはプロアたちの戦いが激化するのはこれからだと理解していた。

 アンジェリカが抑揚の籠もった落ち着いた声で問いかけた。


「お2人ともご武運を」


 その言葉にうなずきながらマーヴィンとプロアは、それぞれの戦いの場へと向かったのだった。


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