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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第2話:助命への道 ――死刑囚パリスと救済者ルスト――
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軍警察本部犯罪取締第4局ゼイバッハ大佐

 (ルスト)は、あれから首都オルレアに帰還した後に本部へと出頭、所定の報告を済ませた後、部隊の仲間たちに任務完了を宣言した。


 フェンデリオル正規軍軍本部の外郭施設のひとつ。フェンデリオルの治安を預かる国家軍警察本部の庁舎内にある犯罪取締第4局、組織犯罪対策部の中に設けられた作戦本部に私は出頭する。


 犯罪取締第4局を総括するゼイバッハ大佐が私たちを待っていた。

 数名の副官を伴いながら、作戦本部が据えられている会議室の一つに彼は現れた。


 年の頃は50近くですでに頭が薄くなりかけているが、神経質そうな雰囲気とは裏腹に、組織犯罪取り締まりと言う過酷と多忙を極める部門を預かる者としてその経歴と勇猛果敢さは尊敬に値する人物だった。


 正規軍の将校と異なり、軍警察の幹部将校たちは比較的引き締まったスリムな体型の人たちが多い。上の役職になったからといって安心して革張りの椅子の上に座っているような人達ではないからだ。

 ゼイバッハ大佐自身も、今月に入ってすでに7件の犯罪取り締まり本部を駆け回っている。その7つの案件のうちの1つが今回の密輸出事件であり、早急な事態解決が急務だと判断して、私たち特殊部隊イリーザの出動要請を軍本部に行なったのも彼の判断だ。


 会議室の中にU字型に並べられた机と椅子。下座にあたる列の左端の方に私たち8人は座る。その私たちに視線を向けながら大佐たちが入ってきた。


「任務完遂ご苦労だったな」


 立ち上がろうとする私たちに彼は告げる。


「ああ、座ったままでかまわん。余計な礼儀抜きで行こうじゃないか」

「大佐どのがそうおっしゃるのであれば」

「余計な時間は取りたくない。食事をする時間も惜しいのでな」


 彼の言うとおりだ。


「犯罪は待ってくれません」

「その通りだ」


 大佐は満足気に笑みを浮かべた。

 私たちと向かい合わせの席に彼らは座る。


「本題に入ろう」

「はい」


 私は報告を始めた。


「すでに第4局事務部に提出させていただきました報告書はご覧頂けましたでしょうか?」


 私は現場からの帰路の中ですでに報告書を作成して提出しておいた。


「すでに一通り読ませてもらった。大変満足のいく結果だった。組織のナンバー3にあたる人物が消息がつかめていないということが気がかりだが、組織そのものが壊滅状態にあるのは間違いない。その意味でも成功と呼ぶに相応しいだろう。ただ一つある一点をを除いてな」


 大佐は私からの報告に不満があるようだ。組織のナンバー3であるデルファイ・ニコレットは制圧行動の混乱に紛れてその消息がつかめていない。まんまと逃げおおせたとするのがおおよその見方だ。

 しかし、ゼイビッヒ大佐の不満は別なところにあった。

 

「なぜ敵の首魁の助命嘆願が入っている?」


 パリスを拘束した私が個人的意見として彼女の助命嘆願を入れておいたのだが、その事を問題視していた。


「精術武具は軍事機密物資、その正当な理由なき国外持ち出しと分解解析は、国家法で厳重に処罰されるべき案件として規定されている。極刑を持ってしてこれにあたるのが犯罪取り締まりの常道だ」


 私を睨みながら大佐は言う。


「これに例外はない」


 だが私は怯まずに答えた。


「彼女に限って言えば、その生命を奪ってしまうのはあまりにも無慈悲すぎます」

「情状酌量を与えろというのか?」

「はい」


 私の言葉に大佐は沈黙した。部屋の壁に掛けられた針時計の歯車の音が部屋にこだましている。大佐が慎重に言葉を選びながら思案しているのが分かる。


「報告書に記されてあったが、今回の首謀者であるパリス・シューア・ライゼヒルトには、国家の要職にあった様々な人物たちが彼女とその家族に対して財産の収奪を最終目的として謀略をしかけ、結果家族は離散させられる憂き目にあったとある」


 私は大佐の言葉に頷いた。


「その通りです。それに加担していた者の中には、この軍警察の要人も含まれていました。ましてや我が国の上流階級である候族を取り締まり総括管理するはずの中央紋章管理局の職員までもが加担していた――、この状況から逃れられる下級中級の候族は存在しません」


 法と権力は国民を守るもの。しかし今回の現実は違う。私は断言をする。


「犯罪や違法なる悪しき企みから、市井の人々を守るべき側の者たちが無垢なる人々を搾取する。彼女はその被害者です。何らかの救済はあってしかるべきです」


 すると大佐の傍らの副官が口を開いた。


「だが! 国家機密物資に関する規定においてはこの例外が認められたケースは今までただの一度もない! 認めるわけにはいかんのだ!」


 強い口調の言葉、それを受けて言葉を発したのは、私の部隊の一人、最年長のダルム老だった。


「仰ることは分かります。精術武具はこの国を支える最後の切り札。その切り札を脅かす行為はタブー中のタブー。これの例外を認めてしまえば、その例外を狙って模倣が現れる。市民生活の治安を預かる者としちゃあ、納得するわけにはいかんでしょう」


 大佐が渋い顔で答える。


「分かっているなら、なぜあのような意見書を加えた?」


 彼の問いかけはもっともだ。だが私にも意見がある。


「犯罪者であっても、例え一分でも彼らの側の意見に利があるのであれば、それに耳を傾けなければ犯罪を起こす者たちとの対話は成り立ちません。何よりパリスは事件を起こしたことを心より悔いて反省し身体拘束にも素直に応じています。それに理由がもう一つあります」

「それは?」

「今回の事件の背景です」


 その言葉を告げた時、彼らの表情が変わった。


「これは私の勘ですが、あんな18歳の小娘がたった2年足らずで小規模とはいえ組織を立ち上げられるものでしょうか? しかも国境を越えて密輸ルートを構築する。国内で小規模な窃盗団を切り盛りしているのと訳が違います。あまりにも出来過ぎているんです」


 先ほどの副管が再び反論してくる。


「つまりまだ判明していない、背景事情があると?」

「はい。もしかすると彼女とは別の意思決定が働いていたのかもしれません」


 そして、大佐が強い口調で質問してきた。


「そう考える根拠は?」


 私はその考えに至った理由を口にした。


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逆境少女の傭兵ライフと無頼英傑たちの西方国境戦記
Link⇒第1部:ワルアイユ編
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旋風のルスト・外伝 ―旋風のルストに憧れる少女兵士と200発の弾丸の試練について―
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