夜戦争ⅩⅤ 酒房カルド、酌婦の女たちと駆けつけた職業傭兵たち
革マスクの男たちは、攻撃らしい攻撃をすることなくほぼ一瞬にして壊滅した。しかし後に残ったのは死屍累々の亡骸だった。
「しかしこれどうするかね」
襲撃者は撃退した。しかし厄介な後始末が待っていり。それにだまだ不安要素はある。
パーマ頭の女がぼやきながら言った。
「うちらはこうしてなんとかなったけど、他の店のことも心配だしね」
「ああ、そうだね」
「こっちからも他の店の手助けに行こうよ。怪我人が出てる店もあるかもしれない」
「そうだね。それじゃあ、パジェルとアルトは私と一緒に外に出てよ」
「あいよ」
「わかったわ」
レイピアを持った女性がパジェル、手槍を持った女性がアルトだ。
小型の拳銃を使っていた最年少の彼女が言う。
「それにしても、協会長のカーヴァ・パパの考えは正しかったね――、
『全ての店に武器を用意しておくこと』
『戦闘未経験の者にも武器を持たせて戦闘練習をする』
――協会長の物事を見る目は確かだわ」
「そうだね私もそう思うよ」
その時だった。けたたましく店の中に飛び込んでくる人影があった。女たちと男性店員はとっさに身構えた。年長者のヴィヴィオが叫ぶ。
「誰だ!」
その叫び声に思わず怯んだのが、店に飛び込んできた2人の男たちだ。
「おおっと! ちょっと待ったちょっと待った!」
「俺たちゃ敵じゃねえよ! 助けに来た、職業傭兵だ」
カーゴパンツに野戦用ジャケットコート、標準的な装いの職業傭兵だ。その中の1人が事情を説明した。
「職業傭兵ギルドから臨時の緊急招集が入った。今200人以上規模でイベルタルの主要各所にて監視警戒が行われているんだ」
さらにもう1人が話す。
「その大半は花街に駆けつけたんだけど、例の黒鎖の革マスクの連中の姿をチラ見してよ。追いかけてって駆けつけたってわけさ」
彼らのその言葉に酌婦の女たちはほっとした表情を浮かべた。
「ありがとよ。駆けつけてくれただけでも嬉しいよ」
「いや、無事で何よりだ。それよりねえちゃん達は戦闘もこなせるのかい?」
当然の問いかけだった。ヴィヴィオは事情を打ち明けた。
「イベルタルの花街にはね意外と元傭兵ってのが多いんだよ。怪我をして引退したりして、食い詰めて流れてくるのさ。あるいは一般市民だけど込み入った事情ありで市民義勇兵としての戦闘技能を身につけたりとかね」
「そういうことか。じゃあねえちゃん達は全員元職業傭兵って訳か」
「ああ」
彼らがそんなことを話している時、さらに1人の男が飛び込んできた。
「おい! この建物の下の階の店は無事だぞ!」
「おおそうか」
「しかし他の建物の状況から見て、革マスクの連中は建物の屋上を走り回って上の方から侵入してきてるな。他の建物でもそうなんじゃないか?」
「そうかよし、それじゃあ屋上に出て別の建物に移動しようぜ」
「ああ」
職業傭兵の彼らで話がまとまった時だ。ヴィヴィオを含めた3人の酌婦の女たちが名乗り出た。店の外に出ることを意識してすでに履物をブーツに代えて、肩からはハーフサイズのマントを掛けていた。
「私らも行くよ。この辺あたりの道案内は必要だろう?」
「そうかい? それなら助かるぜ」
「いいのよ、こういう状況だからみんなで助け合わないとね」
既に腹をくくっているのを、職業傭兵の男は察したのだろう。ニヤリと笑って言った。
「それじゃ、この騒動が終わったら改めてこの店で、姉さん達に飲ませてもらうよ」
「これはおおきに」
冗談でもそう言ってくれることが嬉しかった。
そしてヴィヴィオは振り返ると店に残される女たちに告げた。
「あんた達は店の片付け。それと状況が落ち着くまで客人を休ませといておくれ」
「分かったわ」
職業傭兵の男が声をかけてくる。
こうして彼らは6人の集団になり店の外に出て屋上へと向かったのである。







