夜戦争ⅩⅣ 酒房カルド、酌婦の女たちとその正体
男性店員は6人の襲撃者の中のすぐそばの1人に狙いを定めて一気に肉薄する。ステップを踏み拳闘の動きで敵の間合いに飛び込む。
「シィッ!」
革マスクの男――すなわち黒鎖の蒙面は不気味な発声で威嚇の音を鳴らした。それと同時にナイフを握った右手を引いて、男性店員に突き刺そうとする。
だが、男性店員は左手に握りしめた鉄拳でナイフを弾いて敵の攻撃を軽くいなす。それと同時にまずは右手で軽く敵の顔面に右のジャブ、軽めの打撃だったが敵の意識を軽く飛ばすには十分な攻撃だ。
そして、その間に左の拳を大きく引くと、右足を軸足として踏みしめ、左半身とともに左の拳を全力で踏み出した。
「金がねえなら、身ぐるみ置いてってもらおうか!」
その叫びと共に男性店員の彼の左の拳は、強烈に敵の胸ぐらの胸骨の辺りに深くヒットした。
――ゴキッ!――
骨の砕ける不気味な音がする。しかしそれだけではない。その胸骨のさらに裏側にある心臓に打撃の勢いは届いた。心臓と大動脈が一気に破裂して、蒙面の男は後ろへと吹っ飛ばされながら、口から血を吐いて仰向けに倒れた。
「これでも用心棒を兼ねてるんでね」
男性店員の彼が敵を1人仕留めるがその間に、酌婦の彼女たちもそれぞれに敵を仕留めていた。
レイピアの彼女は、敵がナイフを突き刺そうと飛び込んでくる動きに向かい合う。だが、その動きを自らの体軸をわずかにずらし、体捌きで華麗にかわした。
「踏み込みが甘いよ!」
すれ違う瞬間、レイピアを下から上に振り上げる動きで敵の首を一気に切り落とした。
パーマ頭の胸の大きい彼女は自ら先んじて片手用の牙剣で斬りつけていく。敵はそのナイフで応戦して払いのけようとするが、彼女の牙剣はそれを圧倒する勢いで重く強い力で振り抜かれた。
――ガッ!――
ナイフと牙剣が撃ちつけ合う。だが、パーマ頭の彼女のその剣戟は想像以上に重い。敵はキドニーダガーで受け止めるのが精一杯で反撃してくる素振りもなかった。
「どうしたどうした!? 攻めてこないのかい?」
強く踏み込ながら、上段の真正面から一気に敵の右腕めがけて振り下ろす。
――ザッ!――
敵の右手首を斜めに切り落とし攻撃手段を封じると返す動きで敵の頸部を突き刺した。
――ドカッ!――
頸動脈と頸椎が寸断され、当然ながら相手は絶命する。その弱さを彼女はあざ笑うように吐き捨てた。
「随分、ぬるい動きするじゃない! 酌婦相手になに遅れを取ってんだよ!」
その言葉に合わせるように黒髪で痩身の手槍を持った女性が、敵が手にしていたキドニーダガーナイフを手槍の切っ先で叩き落とす。
「おおかた、今まで自分より弱い人しかやらなかったんでしょ」
雑談でもするかのように語りつつ、黒髪の彼女は一切の力みなくあっさりと敵の喉笛を貫いた。
最年少で小柄な彼女が数歩離れて距離を取る。
「そういう事ね」
ドレスの裾を捲り上げ右の太ももを露出させると、ガーターストッキングの裾に挟んでおいた小さな2連発のフリントロック拳銃を取り出す。
「あんたたち邪魔だから消えて」
そう罵りながら彼女は引き金を引いた。
――パンッ!――
鉛弾が打ち出されて額に見事にヒットする。一切反撃する余裕なく敵は崩れ落ちた。
6人居た襲撃者はあっという間に1人だけになった。その彼を前にして最年長者のヴィヴィオは冷ややかな視線のまま襲撃者の男に告げる。
「さて、頭の血の巡りが悪そうなあんたに教えてやるけど」
その言葉と同時に足並みを揃えるように酌婦の女たちが一列に並ぶ。その様は迫力に満ちており、ただの街の酌婦とは思えなかった。その革マスクの蒙面は格下なのか、圧倒的不利な状況の前になすすべなく佇むだけだった。
「大方、夜の街の女が腕っ節がないと思い込んだんだろうけどさぁ。そもそもフェンデリオルの女ってのはね、多かれ少なかれ戦う術を身につけているもんなのさ!」
ヴィヴィオは、両手用の重い大型の牙剣を右手でやすやすと構えると悠然とした時で敵めがけて振り下ろした。
「特にこの店は女が全員〝元職業傭兵〟でね! 腕に自信があるんだよ!」
その圧倒的な斬撃を前にキドニーダガーを構えるも、彼女の牙剣はダガーごと切り裂いた。ダガーが砕け、斜め袈裟斬りにその体が切り落とされる。
「入った店が悪かったね。命ごとぼったくらせてもらうよ!」







