夜戦争ⅩⅢ 酒房カルド、酌婦たち武器を取り警戒する
少し背が低いが色白で栗毛の髪がよく目立つ愛嬌のある女性が、店の片隅の壁に掛けられていた装飾用と思われていた大型牙剣を外して最年長のその女性に投げ渡す。
「ヴィヴィオ姐さん!」
「あいよ!」
最年長の女性に牙剣を渡した栗毛の女性は、酒便の並んだ戸棚の中から年季の入った薄刃のレイピアを取り出して言う。
「まさかこんなときが来るなんてね」
「仕方ないさ! 水晶宮のシュウの大姐御まで襲われたって言うじゃないか! 今のイベルタルじゃどこにいたって安全なところなんてないよ。エミリア!」
「はい!」
ヴィヴィオに名前を呼ばれ、あのエミリアと言う少女は振り向く。
「あんたは下働きのメリダと一緒に客人を守りな! 絶対に前に出てくるんじゃないよ!」
「はい!」
エミリアのすぐ隣には彼女と同じ露出度の少ないワンピースドレス姿の年若の赤毛の少女がいる。その彼女の手にはフェンデリオルの民族武器である戦杖が握られていた。
「皆様こちらへ」
先輩たちに命じられるままに襲撃者から客を守るために特別に用意した窓のない部屋に誘導していく。店内にその後に、5人の酌婦の女たちと、男性店員が周囲を警戒しつつ身構えていた。
その店の窓は2つの壁にある。建物の外のベランダに面した壁一面の大きさの引き戸の窓と、その隣の壁にある少し高い位置にある少し大きめの両開き式の窓だ。それ以外の壁には客を招き入れるエントランスにつながる入り口扉と、店の裏手の控え室や調理場などにつながる勝手口があった。
店内にいる6人は周囲に神経を使い警戒する。果たしてどちらから飛び込んでくるのか――
レイピアを持った中堅どころの女性が言う。
「本当に来るのかしら?」
標準的な牙剣を手にした大きめの胸のパーマ頭の女性が答える。
「協会長のところだって馬鹿じゃないわよ。誤報を流したら花街が迷惑する事くらいわかってるわ」
室内用の手槍を手にした黒髪の痩身の女性が私見を口にする。
「〝警報〟を流さなければならないような大きな事件が起きたってことなんでしょうね」
小柄で一番歳の若い金髪の少女が言葉を挟んだ。
「下働きのエミリアがお客さんと喋ってたけど、東南のはずれの方でものすごく大きい炎が上がってるんだって」
最年長でまとめ役のヴィヴィオが話をまとめた。
「それだね。東南のはずれには自然公園と独立記念塔が建っている。そこに何かが起きたんだ」
レイピアの女はゆるく両足を開き構えを取りながら視線を周囲に走らせた。
「するってことは、やっぱりあの連中かい?」
一番小柄の金髪の少女が言った。
「それ以外だれが来るって言うのさ?」
そして――
――ドゴォン!――
突如、店の屋根が吹っ飛んだ。武器による破壊か、爆薬か、すぐには判然としない。だが、ヴィヴィオは気合を入れて叫んだ。
「来るよ!」
真っ先に動いたのは男性店員だ。その手に刃物はなかったが、両手には握りしめる形の〝鉄拳〟と呼ばれるナックル形式の武器を装備していた。店の用心棒としても役目を担っている彼らしい武器だ。
その彼が真っ先に、吹き飛んだ屋根の場所へと飛び出す。
同時に、屋根の穴から4人ほどの革マスクをかぶった男たちが飛び込んでくる。
さらに、壁際の両開きの窓を突き破って2人の革マスクの男たちが殴り込んでくる。
いずれもその手に肉厚な両刃の直剣のナイフが握られている。キドニーダガーと言う名の外来のナイフだが、そのナイフの存在は酌婦の女性たちに強い嫌悪感を引き起こした。
「両刃のナイフ!」
フェンデリオル人にとって、両刃直剣の刃物は侵略者の武器の象徴であり絶対的に嫌悪されるものだ。そしてその事実はそのナイフを持っている彼らマスクの男たちは明確な敵であるということを意味していた。
だがそんな、嫌悪の空気を追い払ったものがいる。
「悪いけどよあんたら」
男性店員のドスの効いた声がする。
「屋根の修理代は払う金あるんだろうな!?」
その男性店員は自ら先んじて駆け出していった。







