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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第13話:特別編:イベルタル市街地大規模動乱【夜戦争】 ―決戦・イリーザ 対 黒鎖《ヘイスォ》―
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夜戦争Ⅹ 総隊長アーク、北の女帝シュウと対話す

 通信師を介して中継でつないでもらうと自ら名乗った。


『こちら自警団総隊長アークです』

『私だよ。シュウだ』

『シュウ女史!』

『悪いが要件に入るよ。独立記念塔の辺りで火災が発生しているのは知ってるね?』

『はい、既に把握しています。それとそれに関して正規軍イベルタル駐屯基地のレギオ大佐から、火災対策で正規軍が身動きが取れない状況にあると連絡がありました』


 その言葉にシュウが覚悟をしたような声で答えた。


『やっぱりそうかい。放火と聞いてもしやとおもったんだ。ならば残された連中で踏ん張るしかないね』

『覚悟しております。すでに自警団の全隊員を緊急招集いたしました』

『そうかい。それは重畳(ちょうじょう)、私の方でも合同作戦会議に顔を出した連中全てに警戒態勢に入るように連絡した。その上であんたたちにはある場所に向かってほしい』

『ある場所ですか?』

『ああ、敵の行動がこの街を混乱させることに目的を置いているとするなら考えられる場所がいくつかある』


 その言葉にアークは尋ね返した。


『確信のおける情報からですか?』

『半分は手持ちの情報から、残り半分はアタシの勘だ』


 アークは知っていた。シュウが類まれな策略家であり、恐るべき勘の持ち主であるということも。だからこそ〝北の女帝〟などと呼び称されているのだから。今はそれを信じるしかないだろう。


『それでその場所とは?』

『今はとりあえず中心行政街区周辺に展開しておくれ。追加の情報が入れば適時連絡を入れる』

『わかりました。以後、作戦行動に伴う連絡は、自警団全24部隊の連絡通信師の念話番号に直接お願いします。即座にその通りに動くように通達いたします』

『分かった。そっちも頼んだよ』

『了解です、それでは――』


 そこでアークは念話を切ろうとした。だがそこでシュウがさらに声をかけてくる。


『ああ、それともう1つ。イベルタルの職業傭兵ギルドと話し合いがついた』

『職業傭兵たちが? 本当ですか?』

『本当さ。臨時に200名規模で職業傭兵を動員する見通しがついた。人手が集められれば人数はさらに増やせるよ』

『おお! それは心強い!』

『うちの相談役のバナーラが動いてくれたおかげさ』


 バナーラ・カルコラーモ、シュウの腹心の部下の1人でありイベルタルの商業ギルド連合の会頭次長の立場にある人物だ。彼なら重要組織や重要団体の仲介はお手の物だろう。


『商業ギルド連合に加盟する大小様々な商人から職業傭兵の動員に必要な報酬金を拠出させることになったんだ。状況が状況だからね。みんな喜んで手を貸してくれてるよ』

『良かった。職業傭兵は必要な段取りをふまないと勝手に使うことは出来ませんからね』


 職業傭兵を事件に駆り出すには契約の成立が大前提となる。法と資格と契約により戦場に立つことが正当化されている存在だからだ。逆に言えば、国家の危機だからとタダで動員できるような存在ではない。契約と報酬、それは職業傭兵の力を借りるには忘れてはならない大前提だ。


『おっしゃる通りです。事ここに至れば皆で協力して戦う以外にありません』

『あんたの言う通りだ』

『それでは失礼いたします』

『ああ、また何かあったら知らせるよ』


 そう話しながら念話は切れた。通信師に断りながら歩き出すと騎馬自警団の建物の裏手へと向かう。騎乗する馬を受け取りに行くのだ。歩き出しながら部屋の中の全員に声をかける。


「俺は市街地に向かう。ここからまたさらに新たな事件がたたみかけて来るかもしれん。くれぐれも注意を怠るな!」

「了解です」


 そしてアークは歩き出した。街の人々を守るために。

 しかし彼は通路を歩きながらぶつぶつとこんなことをつぶやいていた。


「それにしても、シュウ女史はなぜ〝あの人〟にていて言及しなかったんだ?」


 それは当然の疑問だった。〝あの人〟が一体誰なのか? 分かろうというものだが、それに対する答えは誰も持ち合わせていなかったのだった。


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