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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第13話:特別編:イベルタル市街地大規模動乱【夜戦争】 ―決戦・イリーザ 対 黒鎖《ヘイスォ》―
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夜戦争Ⅶ 独立記念塔・崩壊

「ぐ、軍曹!?」


 新兵の彼の目の前で上官である彼がゆっくりと崩れ落ちる。斜め下から頭部側面を正確に狙い撃っている。構えを取る暇もなく即死なのは間違いなかった。


「まさか? 敵襲? 一体どこから?」


 新兵の彼はとっさに物陰に身を隠す。そして見張り台の周囲柵の隙間から眼下を見下ろす。


「シルエットがはっきり見えないが何者かがいる!」


 独立記念塔の周囲の公園の茂みの中に気配を殺して潜んでいる影がある。それは明らかに敵だった。


――ダーンッ!――


 弾丸が再び発射されるが、見張り台の周囲柵に阻まれて新兵を討ち取ることはできなかった。しかし一刻の猶予もならない。下から狙われぬように姿勢を低くしたまま移動すると、見張り台のある場所へとたどり着く。

 彼の目の前にあったのは一本太いパイプ。そのパイプの蓋を外すとパイプの中へと大声で叫ぶ。そのパイプは〝伝声管〟だった。


「敵襲! 敵襲! 正体不明の襲撃者接近中!」


 パイプの先は独立記念塔の建物の地上側にある待機室につながっている。そちら側から大きな声で返事が返ってきた。


「了解、詳細な数を知らせたし」

「総数不明! 襲撃方向北西! 非常に優秀な狙撃兵がおり頭を出すと狙い撃ちにされるため視認確認を続けることは困難! 地上側から確認されたし!」

「了解地上側からも確認に入る!」

「何かあれば知らせ――うわぁっ!」


 地上側へと伝えようとした新兵の声は唐突に途絶えた。まるで何かの断末魔のような声だ。


「おい! どうした何があった!? おい!」


 地上側から大声で呼びかけてくる声がする。しかしそれに対する反応はなく帰ってきたのは突き刺す音だ。


――ザズッ!!――


 そして崩れ落ちる。

 一連の流れに死を思わない者はいないだろう。地上側からの呼びかけは途絶えた。


 果たして、物見台側で生きている者はいなかった。1人は狙撃され、もう1人は背後から襲われて刃物で命を奪われた。

 独立記念塔の最上部の物見台から人間の気配は消えた。

 

 見張り役の2人は間違いなく死んだのである。




 †     †     †




 それから地上側でも新たな動きがあった。地上側に待機していた6名、そのうち4人が2人一組で周辺の警戒と確認に出動する。残り2人が駐屯基地への連絡役となる。


 しかし――


――ヒュオッ――

――ザシュッ!――

――ヒュッ――

――ドスッ――

――ズバッ!――


 独立記念塔の建物の外へと飛び出した4人は、反撃する暇もなく瞬く間に討ち取られた。刃物で刺され、弓で打たれ、袈裟斬りに切り捨てられる。大きな音のする攻撃は一切使ってこない。

 外へと出た4人が全滅すること同時に独立記念塔の内部では更なる動きが生じていた。


 地上側に設けられた待機部屋には2名が残った。その彼らは念話装置を使ってフェンデリオル正規軍の駐屯基地へと連絡を図ろうとしていた。


「うわなんだお前ら!」


 反撃する暇もなく2人とも討ち取られた。無人となった独立記念塔の建物に静寂が訪れる。そのまま朝まで沈黙が守られる――と思われたがそれ以上のことが起きたのだ。



――ドオオオンッ!――

――ゴオン!!――

――ドーン! ドーン!


 冬の夜空の闇の中で鳴り響いたのは連続する爆発音だった。独立記念塔のシルエットが浮かぶ中、爆発は10回以上にわたり念入りに行われていた。


 それらの大爆発が鳴りを潜めた時、後に残っていたのは半壊していた独立記念塔の残骸だった。空へと高く突き刺すようにそびえていたそのモニュメントは今や跡形も残っていない。

 取り残されていたのは、わずかばかりの壁と地上部分のみ。しかしそれも遅れて完全に崩れ落ちる。


 その襲撃者たちの集団の中のリーダーと思わしき人物が何かを命じた。


「放火! 烧掉这个地区的每一棵树! 快点!」


 そしてそれから後速やかに、周辺一帯の自然公園へと大規模な放火が行われた。市民の憩いの場として生い茂っていた豊かな木々は瞬く間に炎に包まれる。

 それは間違いなく〝開戦の狼煙〟


「实现的目标  我们正在清理」


 襲撃者たちは完全にその目的を達した。

 燃え盛る炎を確かめると音もなく撤収していったのだ。


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